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47.LOVE LOVEデート計画

(まただわ……)


 自宅の門の前に車で帰って来た沙羅が、何か視線のようなものを感じて窓の外を見つめる。


(誰もいない……)


 ここ最近、家に出入りする際に感じる誰かの視線。姿は見えないが何かどこからか誰かに見られているような気がしてならない。



「どうかしましたか、お嬢様?」


 運転手の初老の男が後部座席に座る沙羅に尋ねる。


「いえ、何でもないわ。早く家に入って」


「はい、お嬢様」


 運転手は自動シャッターが開くとすぐに丁寧に車を止めた。沙羅は締まり行く車庫のシャッターから外を見つめて思う。



(気のせい、ならいいけど……)


 誰もいない家の前の景色が、シャッターと共に彼女の視界から消えていった。






「いらっしゃい、城崎さん」


 月曜の夕方、幸太郎は胡桃の家庭教師の為に咲乃家へ訪れた。胡桃の母親が笑顔で迎えてくれる。


「お邪魔します」


 幸太郎が頭を下げ答える。母親が言う。



「そう言えば胡桃が新しく始めたバイト、城崎さんと同じお店なんですってね」


 無論そんなことは知った上で母親は言っている。



「あ、はい。偶然そうみたいで……」


 幸太郎が少し困った顔をして答える。


「あの子も城崎さんと一緒だってすごく喜んでいましたよ」


「はあ、そうですか……」


 苦笑いして頭をかく幸太郎に母親が言う。



「何ならこれからもずっと一緒でも構いませんよ」


「え?」


 思わず聞き直す幸太郎。母親が笑って言う。


「何でもないですよ。ささ、どうぞお上がりください」


「は、はい……」


 親子で一体どんな話をしているのだろうか。幸太郎は頭を下げながらそのまま胡桃の部屋へと向かった。




「こんにちは! 先生!!」


「こんにちは」


 圧倒的に可愛い声。笑顔の胡桃が幸太郎を迎える。


 幸太郎が思う。

 胡桃と沙羅は確か同じひとつ下の高校一年。そして同じ様に彼女らの部屋を訪問しているのだが一体この差は何だろうと苦笑する。

 胡桃には机の隣に行き体が触れるぐらいの近い距離で接しているのに、沙羅に至っては赤いビニールテープで仕切られた中に入れられ身動きが取れない。



「先生? どうかしましたか?」


 少し考え事をしていた幸太郎に胡桃が尋ねる。


「ううん、ここではやっぱり『先生』なんだね」


「そうですよ。ファミレスでは先輩。昨日も会ったし、なんか最近毎日会ってますね!!」


 確かにその通り。

 元々多く入っているファミレスのバイトだし、週に二回やって来る胡桃の家庭教師を入れればほぼ毎日会うことになる。



「嬉しい、ですか?」


(えっ!?)


 突然色っぽい顔になって胡桃が尋ねる。



(な、なんでそんな艶めかしい顔になって聞くんだ!?)


 幸太郎は少し上目遣いで見つめる胡桃にどきっとする。



「私は、嬉しいです。先生はどうですか?」


 じっと見つめて尋ねて来る胡桃に、幸太郎はどう答えていいのか分からない。



(胡桃ちゃんのことは『生徒として』はもちろん大好きだしそう答えたいと思うけど、な、何か言ったら違う意味で捉えられそうな気がする……)


「先生?」


 追い詰められた幸太郎が答える。



「う、嬉しいよ……」


「本当ですかっ!! やった!!」


 胡桃が小さくガッツポーズする。

 幸太郎は初めて胡桃の部屋にやって来た頃を思い出す。



(あの時は本当に緊張したな……、こんなに可愛い子の部屋に入っていいのだろうかと何度も躊躇ためらったっけ……)


 初めての胡桃の部屋。

 想像以上の美少女の彼女にどきどきしてしまい、まともに勉強を教えられなかったことを思い出す。



(それが今ではこんなに仲良くして貰って、それは素直に嬉しい……)


 少し感傷的になった幸太郎に胡桃が言う。



「先生、私勉強頑張りますね!!」


「うん、いい心構えだ」


「そして絶対、()()()に入ります!!!!」



「え?」


 幸太郎が胡桃をまじまじと見つめる。


 国立光陽大学。

 日本でも有数の名門校で、幸太郎が通う光陽高校と同じ系列の大学である。幸太郎はこのまま成績上位を続ければ、特別な試験等なしで自動的に光陽大学に進学できる。胡桃はそこへ一般入試で入ろうとしているのだ。



「私、光陽大に入って先生と一緒のキャンパスライフを送るのが目的なんです!!」


「はあああ!?」


 たったそれだけ。

 たったそれだけの為に難関校である光陽大学を受験するのか?


 驚く幸太郎に胡桃が尋ねる。



「あれ? ダメですか?」


 我に返った幸太郎が答える。


「あ、いや。ダメじゃないけど、難しいよ。光陽大は」


 正直、今の胡桃のレベルじゃ合格は不可能だ。


「分かってます! だから先生に手取り足取り教えて貰うんです!!」


「は、はあ……」


 難しいと分かっていても、不思議と彼女なら何とかしそうな気がして来た。胡桃が言う。




「あ、そうだ。今度先生と行く『LOVE LOVEデート』ですけど……」


「おーい! 何だよそれ!!」


 もう何をどう突っ込んでいいのか分からない幸太郎。胡桃が答える。



「え? 何って、私と先生が一緒に行くラブラブのデートじゃないですか?」


「ねえ、それって確か最初は『一緒に買い物に行く』って話じゃなかったっけ?」


「忘れました。そんな昔の話」


(おいおい……)


 幸太郎が苦笑する。



「分かった。そのラブラブデートじゃないかもしれないけど、胡桃ちゃんが頑張ったんだからちゃんと一緒に行くよ」


「先生、ラブラブじゃなくて『LOVE LOVE』です。発音が違います」



(何が違うんだ!?)


 ため息をつく幸太郎に胡桃が笑顔で言う。



「LOVE LOVEで、それからあまりお金のかからないコースにしますね。お昼は私が弁当を作って持っていきます。先生は何が好きですか?」


 幸太郎は年下の生徒に『貧乏だから』として気を遣わせてしまっていることを恥ずかしく思う。



「胡桃ちゃん、お金の心配はしなくてもいいよ。一緒に出掛けるお金ぐらいあるから」


 実際、沙羅との『バイ友』を始めてから少し金銭的に余裕が出ている。貯金こそまだできないけど、それでも胡桃と少し遊ぶぐらいのお金はある。胡桃が言う。



「大丈夫です、先生!! 家計を預かるのは()の大切な仕事。先生に迷惑をかけないよう頑張ります!!」


「妻って……」


 もはや諦めの顔に近い幸太郎を胡桃は嬉しそうに見つめる。

 幸太郎はこの胡桃ちゃんにもやっぱり勝てないんだなと改めて思った。

お読み頂きありがとうございます。

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