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37.ステーキデートの後で

『先生、やったよ!! 学年46位!!! 凄いでしょ!!!』


 中間試験を終えた胡桃からスマホにメッセージが届いた。幸太郎とデートに行ける学年50位を見事クリア。その嬉しさをすぐに幸太郎に伝えてきた。



『凄いね、よく頑張った』


 心からそう思う。


『これで先生とのデート確定だね!!』



『あ、それってデートじゃなくて買い物じゃなかったっけ?』


 約束をしておきながら幸太郎には、やはりまだ自分の生徒と出かける罪悪感がぬぐい切れない。胡桃が返事をする。



『えー、そんなの一緒だよ。デートも買い物も。私、しっかりと予定考えておきますから!!』


『あ、ああ、分かった。でも、俺なんかと行って楽しいのかな?』


『楽しいです!! だって先生は私の()()だから!』



(は? 空気? 何のことだ、一体?)


『空気ってなに?』



『空気なんです! 先生は!!』


『そうなの? よく分からないけど……』


 それ程存在感がないってことなのかと少し寂しく思う。



『じゃあ、また楽しみにしてるね、先生!!』


『ああ、楽しみにしてるよ』


 よく分からない会話もあったが、胡桃は勉強をよく頑張ったと思う。

 家庭教師をしている幸太郎だからよりそれが分かる。最初は迷ったがそんな彼女に一日ぐらい買い物に付き合ってあげて、それで彼女が喜んでくれるならまあいいか、と幸太郎は思い始めた。






「ねえ、お兄ちゃ~ん。ちょっと来て」


 胡桃に素早くスマホでメッセージを送った後、隣の部屋にいた妹の奈々が幸太郎に声を掛けた。


「何だ?」


「いいから、ちょっと来てよ」


 奈々が母親と一緒に使っている部屋へと呼ぶ。幸太郎が呼ばれて部屋に行くと、外出用の服に着替えた奈々が鏡の前に立っていた。



「何やってんだ、お前?」


 ピンクの長袖シャツの上に、白の大き目のニット。そして奈々の細くて綺麗な足を強調するようなショートパンツが目を引く。奈々が言う。



「えー、何って、明日の()()()()()()()に着ていく服を選んでいるんだよ」


 貧乏な城崎家。奈々も手持ちが少ない服の中から必死に可愛いコーディネートを考える。奈々も幸太郎同様、そのほぼすべてを古着屋で購入している。


「お前な。この間も思っていたけど、デートじゃなくてただ飯食いに行くだけだぞ」


「えー、なんで? デートでしょ?」



「馬鹿。兄弟でデートする奴がどこにいる?」


「え? ここ」


 奈々がそう言って当たり前のような顔で自分と幸太郎を指差す。


「だから、デートって言うのは恋人同士がするもんだろ? だから……」


 そこまで言い掛けて幸太郎はふと胡桃との約束を思い出す。



(そう言えば胡桃ちゃんとの約束もいつの間にかデートになっていたな!? いいのか、俺……)



「えー、好きな男女が一緒に出掛ければデートでしょ? お兄ちゃん奈々のこと好きでしょ?」


 幸太郎が答える。


()()として当然好きだ」


「何それ~!? 意味分かんない」


 奈々がちょっと顔を膨らませて不満そうに言う。



「意味分かんないことないだろう。そのままの意味だ。とにかく明日はメシ食って帰る、いいな?」


「ちぇっ~、まあいいや。服はこれ着てくね。あ、それからお兄ちゃん」



「まだなんかあるのか?」


 奈々が後ろに手を組んで自慢のポニーテールを揺らしながら言う。



「ねえ、あの言葉。言ってよ」


「は? 何の言葉……」


 そこまで言って幸太郎が先日の件を思い出す。



「ああもう、俺は忙しい。これから勉強。じゃあ、お休み!」


「あ、ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!」


 幸太郎はそう言うと部屋のドアを閉めて自分の部屋へと向かった。






 翌日、幸太郎は奈々と一緒に駅前のステーキ店へ向かった。

 奈々は昨夜幸太郎に見せたショートパンツから伸びる足がまぶしい服装で、靴は黒いブーツを履いている。子供だと思っていた奈々も、こうして外で客観的に見るともう立派なひとりの女性なんだと幸太郎は思った。


「さあ、行こ! お兄ちゃん!!」


 そう言って駅前を歩き出した幸太郎の腕にしがみつく奈々。


「わっ、やめろよ! 放せ!!」


 幸太郎が逃げようとする。


「なんでよ~! いいじゃない」


「よくないわ!!」


 幸太郎は年頃の奈々がどうしてこんな野暮ったい兄と仲良くしたがるのか、いまいち理解できなかった。



 ステーキ店は昼前から混んでいた。

 千円ちょっとでそれなりの肉が食べられる。ご飯やスープも付くがそれらはセルフサービス。これだけでも十分お得なメニューだが、メニューを見た城崎家のふたりは暫く固まって動けなかった。



(ステーキだから高いことは分かっていたが、やはり高い……)


 外食自体ここ最近するようになっただけで、基本家での食事が当たり前の城崎家。ひとり4桁の値段を見ればやはり高いと感じるのは無理ない。それを察した奈々が小声で言う。


「お兄ちゃん、奈々は他の店でもいいよ……」


 幸太郎は中学生の奈々に要らぬ心配をさせてしまったことを恥じる。



「大丈夫だ。さあ、好きなのを選べ」


「う、うん……」


 結局ふたりとも店のメニューで一番安いものを注文した。

 それでも生まれて初めてお店で食べたステーキを満喫した奈々は、食事中も終始笑顔で幸太郎と話をした。




「美味しかったね、お兄ちゃん!!」


「あ、ああ」


 店を出た後、奈々は笑顔でそう言うとポニーテールを揺らしながら幸太郎の腕にしがみついた。千円ちょっとで奈々のこんな嬉しそうな顔が見られるなら、やっぱり来てよかったなと幸太郎も思う。




(え、あれって、幸太郎君!?)


 幸太郎と奈々が歩く通りの反対にあるお洒落なカフェ。

 そのカフェのテラス席に座った流れる前髪と茶色で丸みを帯びたワンレンボブの女性は、ポニーテールの女の子と腕を組んで歩く幸太郎を見て驚いた。



(幸太郎君って彼女はいないってパパから聞いていたけど……、いたの?)


 女性はカバンからスマホを取り出し遠目にふたりを撮影。そしてそのまま仲良く腕を組んで歩くふたりを見つめた。






「沙羅、沙羅、ちょっといい?」


 栞は家に帰るとすぐに妹の沙羅の部屋をノックする。



「なに?」


 無表情の沙羅がドアを少し開けて姉の顔を見て言った。栞が早口で言う。


「幸太郎君ってさあ、確かパパの面談の時に彼女はいないって言ったよね?」


「……」


 無言の沙羅。



「それがね、さっき駅前でお茶してたら彼女連れの幸太郎君を見かけたんだよ!!」


(え?)


 沙羅の顔に一瞬驚きの表情が浮かぶ。栞は持っていたスマホを沙羅に見せて言う。



「ポニーテールの可愛い子。嬉しそうに腕組んじゃって。彼女いたのは別にいいんだけど、私達に嘘をついたのはどうかと思うよね。う〜ん、これはやっぱりマイナスポイントかな? せっかくちょっとカワイイと思ってたのに……」


 沙羅が無表情に戻り言う。



「そう、教えてくれてありがとう。じゃあ」


 そう言うとゆっくりとドアを閉めた。




 夕方、アパートに帰った幸太郎のスマホにあるメッセージが届いた。


『こーくん、こーくん、聞いて!!』


 幸太郎はいつもの何気ない沙羅のメールだろうと思った。



『サラりんね、あいつとのバイトの友達、もう止めようと思うの!!』


(え!?)


 その言葉を聞いた幸太郎は一体何が起きているのか全く理解できなかった。

お読み頂きありがとうございます。

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