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20.胡桃との約束!?

 翌日の夕方、幸太郎は再びファミレスのバイトに向かった。


(眠い……)


 深夜まで起きているのは慣れているけど昨晩は遅かった上に、はるかのことを考えてほとんど眠れなかった。

 誰かが悪い訳ではない。自分ではどうしようもないこと。分かってはいるが、その答えの出ない数式にずっと悩まされた。



「お疲れ様です」


「おう、お疲れ。幸太郎。昨日は楽しかったな!」


 先にバイトに来ていた斗真とうまが幸太郎に笑顔で言う。



(本当に爽やかな人だな……)


 改めて見る斗真。爽やかなイケメンであり、自分とは真逆のいわゆる陽キャ。女の子たちが群がるのも無理はない。

 幸太郎がバイトのシフトをチェックする。今日、はるかは休み。例のことを聞くならいいチャンスだ。



「斗真さん」


「ん、なんだ?」


 ホールへ戻ろうとしていた斗真に幸太郎が声を掛ける。歩いていた斗真が足を止め振り返る。その仕草のひとつひとつがまるで映画のワンシーンのように様になる。



「あ、あの……」


(幸太郎の頭に月夜の光ではにかむはるかの顔が浮かぶ……)



「きょ、今日も頑張りましょうね!」



「ん、ああ。頼むぜ!!」


 斗真はそう笑顔で言うと片手を上げてホールへ入って行った。



(言えなかった)


 斗真に特定の人がいるかなんて話、とてもできない。

 仕事中ではあるし、それに幸太郎にとって斗真とはるかに関するささやかな事実ひとつ知ることですら怖かった。それがいいことであろうが悪いことであろうが、自分が無暗に踏み込んではいけない領域に思えた。


(俺、何の役にも立たない男だな……)


 幸太郎は自分の不甲斐なさを思いつつ、制服に着替えるとホールへと急いで向かった。






 木曜の夕方、幸太郎は週二回受け持っている胡桃の家庭教師の為に彼女の家へと向かっていた。木、金の二日間はファミレスに行けない。代わりにはるかと斗真が一緒にバイトに入っているが、そんなことは自分には関係ないと幸太郎はそう思うことにした。


「こんにちは」


「あら、城崎さん。いらっしゃい。さ、どうぞ」


 いつも通り胡桃の母親が優しく迎えてくれる。そして二階へ案内され胡桃の部屋をノックする。



「はーい、どうぞ!」


 ドアが開かれたと同時に胡桃が笑顔で言う。


「こんにちは、先生!」


 圧倒的に可愛い声。今日は風呂上りではないことに安心しつつ、幸太郎が胡桃の部屋に入る。

 胡桃の部屋は可愛い。沙羅とは対照的にたくさんの可愛いもので溢れている。そしてここにはパーテーションも赤いビニールテープもない。



(俺はいつか彼女に友達として認められるのかな……)


 沙羅のことを考え少しぼうっとする幸太郎に胡桃が言う。



「先生、どうかしましたか?」


「あ、いや。何でもない。さ、復習から始めようか」


「……」


 黙り込む胡桃。不思議に思った幸太郎が声をかける。



「どうしたの、胡桃ちゃん?」


 胡桃は少し頬を赤く染め、髪を触りながら恥ずかしそうに言う。



「ねえ、先生」


「なに?」



「今度私の買い物に付き合ってくれませんか?」


「え、買い物?」


 幸太郎の脳裏に沙羅と一緒に出掛け、胡桃に遭遇した時のことが蘇る。



「俺と?」


「うん、先生と」



 少し考える幸太郎。彼女は生徒。あまり私的に交流するのは良くない。


「いや、それはちょっと……」


 それを聞いた胡桃がちょっと怒った顔で幸太郎を見ながら言う。



「どうしてですか? あの『バイ友』の女とは行けて、私とは行けないんですか!?」


 胡桃の威勢に驚く幸太郎。


「いや、その、彼女は一応友達だから……」


「友達じゃないといけないんですか? 私はひとりの()()として言っているんですよ!!」


「ううっ……」


 どこかの学校の教師と生徒という関係ではない。個人的にバイトで勉強を教えているだけ。年齢もひとつしか違わない。頭では理解しているが、真面目な幸太郎にはやはり『はい、行きましょう』とは気軽に言えない。



「先生、行こうよ~」


 胡桃が至近距離でその圧倒的な可愛い声でおねだりする。家庭教師のみならず、『バイ友』と言う高額な仕事を紹介して貰った胡桃を邪険にはできないと思い直す。



「分かった。じゃあ、次の中間試験で50位以内に入れたら一緒に行こう」


「え!? 50位!! 無理ですよ~、先生!!」


 一瞬嬉しそうな顔をした胡桃だが、その壁の高さに泣きそうな顔になる。

 まだ高一で入学間もない胡桃。高校の試験は一度も受けたことはないが、50位と言えば高二から開始される『特別進学クラス』へ入る基準となる難しい順位である。



「50位に入れたら『進学クラス』入りもできるでしょ? そうしたら大学受験もずっと楽になる」


 進学クラスにいれば各種大学からの推薦も有利に受けられる。幸太郎は幸太郎なりに彼女の高校について調べ、最適な方法を常に考えている。



「えー、無理だよ。先生~」


 胡桃が泣きそうな顔で言う。学年50位。その壁の高さは胡桃自身聞き知っている。



「じゃあ、買い物はダメだな~」


「ええ、そんなあ……、分かりました。じゃあ頑張ります……」


 諦めたような顔になる胡桃。しかしすぐに少し笑みを浮かべて幸太郎に言う。



「じゃあ、試験勉強のためにもっともっと先生に勉強を教えて貰わなきゃダメですよね?」


「え、ああ。まあ……」


 嫌な予感がする幸太郎。胡桃は小悪魔的な笑みとなって言う。



「とりあえず、今日から先生はここに泊まって四六時中、私に勉強を教えること」


「はあ?」


 驚く幸太郎。



「ご飯の時も、お風呂の時も、そしてベッドの中も、ずっ〜と一緒に居て教えて下さい!」


「く、胡桃ちゃん、何を言って……」


 焦る幸太郎。今更ながら彼女の()()()の地雷を踏んでしまったと気付く。



「えー、そうじゃなきゃ達成できませんよ! でね、特別授業のお代は……」


 胡桃が履いていた短パンをつまんで上げ、真っ白な太腿を幸太郎に見せて言う。



「お代は体で払いますね♡」


「く、胡桃ちゃん!!」



「きゃははっ!! 先生、顔真っ赤っ!!」


 幸太郎はこのひとつ歳下の女の子に、どうやっても勉強以外で勝てる要素はないと改めて思わされた。






 キーーーイッ


 その黒髪の美少女は、卓上カレンダーの日付に線を引いた。



(明日、あいつがまた来る……)


 少女は椅子に座りながらカレンダーの金曜の日付を見つめ、そして持っていたマジックでそこに丸を付けた。

お読み頂きありがとうございます。

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