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18.みんなの秘密

『こーくん、こーくん、ねえ、聞いて』


 幸太郎は帰宅途中、電車に揺られながら沙羅から届いたメッセージに気付いた。

 普段は落ち着いて返事ができる自宅からしか対応しないが、さすがに今別れたばかりの沙羅からのメッセージは気になる。



『どうしたの、サラりん?』


 幸太郎が得意のスマホで素早く文字を打ち込む。


『今日ね、会って来たの。あの男と』


『どうだった?』


 幸太郎が緊張して返事を書き込む。



『サラりんはね、こーくんと一緒に買い物行きたいし、一緒に居たいと思うんだけど……、あのね、今日はほんのちょっとだけ楽しかったの』


(マジで!?)


 幸太郎の顔がぱっと明るくなる。

 慣れない牛丼食べたり、アイス落としたり、クラスメートや胡桃ちゃんとか現れて大変だったはずなのに意外な返事に嬉しくなる。


『そうか、それは良かった! その男の人とは友達になれそう?』


 幸太郎は緊張して沙羅の返事を待つ。



『それは無理、かな。私と買い物行ってたのに、他の女の下着とか選ぶちょっと変態だし』


(いや、あれはほぼ事故だし、それに下着一緒に買おうと言ったのはお前だろ!?)



 少しむっと来た幸太郎は意地悪な質問を買い込む。



『他の女性の下着を選ぶ? まさかサラりんも彼に下着を選んでもらったの!?』


 それを見た沙羅の顔が青ざめる。



(ま、まずいわ。そんなことこーくんに知られたら、私、嫌われちゃう!!)


『もちろんそんなことしてないわ! サラりんはこーくんに下着を選んでもらいたいの♡』



(ふん、嘘つき女め! ……ってまあ、俺も黙って『こーくん』演じてる訳だし、人のこと言えないけどな)



『それはちょっと照れちゃうな。でもいつかそんな日が来るのかな?』


『きっと来るよ!! サラりん、信じてる!!』


『そうだね、俺もそう思ってるよ!!』


 幸太郎はこーくんを演じながらいつも通りに返事を書き込む。



『でね、こーくん』


 沙羅が改まって書き込む。



『サラりんはこのままあの男と「友達をやる」って関係続けた方がいいのかな?』


 幸太郎は沙羅から悩んでいる気持ちが凄く伝わって来た。


『今日は本当に楽しかったの?』


『うん、どちらかって聞かれれば楽しかったかな……』



『じゃあ、もう少し続けてみてもいいんじゃない? それがサラりんにとってプラスになれば嬉しいし』


『うん、楽しかったのは事実だけど……。こーくんはサラりんが男と一緒に出掛けるの、平気なの?』



(うっ、そう来たか。確かに、男の『こーくん』としてはそれは許せないと言う立場が普通だよな……)


『平気じゃないさ。でも、お父さんが紹介してくれた人だし、対応も紳士的だったんでしょ? だったらサラりんの為にももう少し様子見してもいいと思うよ』


『全然紳士的じゃなかったよ。変態だし、あれは浮気性ね』



(変態!? お前に言われたくないぞ!!)


 そう思って無理やり下着を選ばされそうになった時のことを思い出す。



『そうか、変態で浮気性なんだ……』


『そうなの! こーくんの爪の垢でも飲ませてやりたいわ!!』


 幸太郎は汚れた自分の爪を見つめる。



『とりあえず俺はサラりんの味方。サラりんの意見を尊重するし賛成する。その上で俺の意見を聞きたいと言うのであれば、もう少し様子見をしてみてもいいじゃないかな』


『分かった。そうするよ!! サラりんはこーくんのものなんだから!!』



 本当にこれがあのツンツン令嬢の沙羅なのかと疑いたくなるほどのデレっぷり。



『ありがとう、サラりん。じゃあ、今日はこの辺で!』


『うん、ありがとう。こーくん、またね!!』


 幸太郎はスマホをしまうと、乗り換えの為に電車を降りた。






「ただいま」


 すっかり日も落ちた夕方過ぎ、沙羅との買い物を終えた幸太郎がアパートに戻って来た。


「お兄ちゃん、どこ行ってたのよ!!」


 迎えに出てきた妹の奈々が怒った顔をして言う。トレードマークのポニーテールがその怒りを表すように左右に揺れる。



「どこって、ちょっと外に……」


 確かにバイト以外でこれだけ長く外出するのは珍しい。奈々も今日は幸太郎がバイトがないことを知っている。


「まさか、女の人? デートなの?」


 デートではないが妙に鋭い妹の奈々。すぐに幸太郎が答える。



「そんなんじゃないよ。友達と買い物」


 嘘じゃない。

 沙羅のことは友達だと思ってるし、母親のプレゼントを買ったのも事実。ただ、予想外の下着の買い物については口が裂けても言えない。奈々が尋ねる。



「友達って、誰? やっぱり女の人なんでしょ?」


(うっ!?)


 こいつは俺を尾行しているのかと思うほど鋭い。幸太郎が返す。



「そんなことよりお前は何やってたんだ? 今日、休みだろ。彼氏のひとりでもいないのか?


 それを聞いた奈々の顔がぷっと膨れ、怒った顔になって言う。



「いないよ!! そんなの要らない!! 私はお兄ちゃんと一緒に居られればそれでいいの!!」


 そう言って幸太郎の腕にしがみつく奈々。



「お、おい。奈々、放せって。どうしたんだよ?」


 奈々が口を尖らせて幸太郎に言う。


「お兄ちゃんが変なこと言うからでしょ!! もう今日はごはんと漬物だけだよ!! お魚はあげない!!」



 幸太郎はさっきから鼻に漂って来る香ばしい焼き魚の匂いを嗅ぎながら言う。


「いや、それは勘弁してくれ。お腹ぺこぺこなんだ」


 奈々が舌をちょっと出して言う。



「やだよ~、べー、だ!!」


「な、奈々~!!」


 幸太郎はそう言って部屋へと逃げる奈々を追いかけた。






 月曜の夕方。幸太郎は家庭教師の仕事をしに胡桃の家へと向かっていた。

 電車に揺られる幸太郎の頭に昨日新しい下着を買った胡桃の姿が思い浮かぶ。


(い、いかん! 俺は一体何を考えているんだ!? 彼女は俺の生徒。そういう目で見てはいけないだろ!!)


 しかしそう思えば思うほど、胡桃が手にしていたピンクの可愛らしい下着が頭から離れない。


(今日の授業に集中しろ。今日の数学の公式は……)


 幸太郎は電車に揺られながら目を閉じ、ひたすら難しい公式を思い浮かべた。




「お邪魔します……」


 胡桃の部屋には行った幸太郎が小さな声で挨拶をする。


「先生、こんにちは! 昨日ぶり!!」


「あ、ああ。昨日ぶり……」


 意味の分からない挨拶を終え胡桃を見つめる。

 少しウェーブのかかった可愛らしいナチュラルボブ。そして圧倒的に可愛らしい声。声優でも通じるような声に、アンバランスの大きな胸。今日はピンク色のストライプのルームウェアを着ているのだが、妙な色っぽさがある。



「先生、昨日はありがとうございました。選んでくれて」


「あ、いや、そんな大したことはしてないから……」


 実際、選んだと言っても下を向いて適当に指差しただけ。ここまで感謝されると少し罪悪感を覚える。照れる幸太郎に胡桃は近付いて耳元で言った。



「今日、()()()ますよ。見ますか?」


「ひぇ!?」


 すぐに胡桃から離れる幸太郎。

 大きく膨らんだ胸。あそこに昨日選んだ下着がある。



「か、からかわないの!! さ、勉強始めるぞ」


 胡桃が首を左右に少し揺らしながら尋ねる。


「えー、見たくないんですか? せっかく先生に選んでもらったのに~」



(見たい! めっちゃ見たい!! でもそれやったら理性が崩壊する)


 幸太郎も健全な高校生の男子。目の前に下着姿の美少女がいたら我慢できない自信はある。しかし胡桃はその上を行った。



「ちょっとだけならいいよ」


 そう言って服の肩の部分をずらし、ブラの肩ひもを幸太郎に見せる。



(ぎゃあああ!!! ダメ、それ以上はダメ!!!)


 顔を赤くし、心臓バクバクの幸太郎が言う。



「こ、こら!! そんなことやってないで、さ、勉強!!」


「は~い!!」


 胡桃は服を戻し大人しく椅子に座った。




「それでは失礼します」


 家庭教師を終え、玄関で見送りに来た胡桃とその母親に頭を下げる幸太郎。


「先生、またね~!!」


「また木曜、宜しくお願いします」


 胡桃の母親も丁寧に頭を下げる。そして幸太郎が出て行ってから隣にいる娘の胡桃に尋ねる。



「幸太郎さん、どうだった?」


 興味深そうに尋ねる母に胡桃が答える。


「うん、だいぶ意識していたよ!!」


 母親は胡桃から幸太郎に下着を選んでもらったことを既に聞いている。母親が、幸太郎が出て行った玄関を見ながら言う。



「あんなに真面目で、光陽高校の特待生でしょ? 本当に将来が楽しみだわ!!」


「そうだね、先生ほんと頭いいのに可愛いんだから!」


 目をうっとりさせる胡桃に母親が言う。



「頑張れ、娘!! 母は応援しているぞ!!」


「うん、私が絶対に落として見せるわ!!!」


 母と娘はそう言うと玄関でふたりハイタッチをして笑った。

お読み頂きありがとうございます。

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