16.胡桃ちゃん、怒る!!
「幸太郎、先生……?」
振り返った幸太郎の前に茶色のナチュラルボブの美少女、咲乃胡桃が立っていた。
「え!? 胡桃、ちゃん?」
胡桃はじっと幸太郎の顔を見つめた後、その横にいる真っ白な肌の可憐な少女に目をやる。
「先生、誰、何ですか、その人……」
傍から見れば仲良くも見える幸太郎と沙羅。沙羅を見つめる胡桃の顔が険しくなる。幸太郎が慌てて言う。
「あ、ああ、この子はね……」
「まさか先生の彼女ですか?」
「は?」
そう言った胡桃の目は真剣である。驚く幸太郎より先に沙羅が立ち上がって言う。
「あなた誰?」
幸太郎がすぐに沙羅に説明する。
「沙羅、彼女は俺が家庭教師をしている子で……」
幸太郎の話を聞きながら沙羅が胡桃に言う。
「あなた、それは誤解だわ。私達はただ……」
幸太郎が説明をし始める沙羅を見てほっとする。
「私達はただ、お金の関係よ」
「はあ!?」
「お、お金の関係!?」
想像もしていなかった言葉を聞き胡桃が固まる。幸太郎が顔を青くして言う。
「な、何を言ってるんだ!? そんな誤解させるような言い方……」
「何って本当のことでしょ? お金を払って関係を作っている。違うかしら?」
「せ、先生。嘘でしょ……」
沙羅の言葉を聞いた胡桃が泣きそうな顔で幸太郎を見つめる。幸太郎が慌てて言う。
「違うよ、胡桃ちゃん!! 彼女は君が紹介してくれた『バイ友』の子で……」
泣きそうな顔になっていた胡桃に幸太郎が必死に説明を行う。
それを聞いてようやく胡桃は混乱しかけていた頭を整理し、この状況とその言葉の意味を理解した。沙羅が言う。
「だから言ったでしょ。お金の関係だって」
「お前がややこしい言い方するからだろ!!」
「私は真実を言っただけよ。どうしてそんなに怒るの?」
怒る幸太郎に沙羅がすまし顔で答える。
「ねえ、先生」
それを聞いていた胡桃が幸太郎を見つめて言う。
「お買い物の手伝いだったら、私が一緒に行ってあげたのに。どうして誘ってくれなかったんですか?」
「え?」
うるうるとした目で見つめられる幸太郎。困った顔をして答える。
「いや、だって胡桃ちゃんは一応俺の生徒だし。こんな私的な用事に付き合わせるのは……」
「全然問題ないじゃないですか!!」
少し大きな声で胡桃が言う。
「いや、何というか……」
困った顔をする幸太郎に胡桃が言う。
「先生は個人で家庭教師をしているんでしょ? その生徒と一緒に買い物に行っていけないって、そんなのおかしくないですか?」
グイグイと迫りながら話す胡桃に幸太郎が後ずさりする。
「あ、ああ。そうなんだけど、その、生徒との間に、何というか何かあったら良くないわけで……」
胡桃が幸太郎の手を握り、顔を赤くして言う。
「私は、何かあっても全然平気です!!」
「ひぇ?」
じっと幸太郎を見つめる胡桃。驚きで動かなくなる幸太郎に続けて言う。
「そんな理由で先生と買い物にも一緒に行けないのなら、私、生徒、辞めます!!!」
「ちょ、ちょっと、胡桃ちゃん!?」
それを見ていた沙羅が呆れた顔で言う。
「あなた何を言ってるの? 私たちはお金の関係だって言ってるでしょ?」
「うるさいっ!! あなたは黙ってて!!」
大きな声を出す胡桃に幸太郎が言う。
「く、胡桃ちゃん、ちょっと落ち着いて……」
「先生っ!!」
「はいっ!」
胡桃は幸太郎の手を取り言う。
「今度は私と買い物に行ってください!!」
「え? 買い物!?」
胡桃はほおをぷっと膨らませて言う。
「だってずるいですよ!! 私だって先生と一緒に買い物行きたい!! こんなの不公平っ!!」
幸太郎が困った顔で答える。
「いや、買い物って、俺もう買うものないし……(金もないし)」
「だったら私の買い物に付き合ってください!! パンツとかブラジャーとか、買いたい物いっぱいあるんですっ!!」
「パ、パン……、って……」
幸太郎の顔が青ざめる。沙羅が言う。
「あなた、何を考えているの? 恋人でもないのに男に下着の買い物に付き合わせるなんて」
胡桃がギッと沙羅を睨んで言う。
「あなただって先生に花を選んであげたでしょ? だったら私だって選んでもらいたいの!!」
「ちょ、ちょっと胡桃ちゃん。落ち着こうか」
「私は落ち着いてます!! で、先生、行くの? 行かないの!?」
幸太郎の顔に近付いて胡桃が言う。
(ち、近い……)
胡桃を抑えきれなくなった幸太郎が観念したかのように言う。
「わ、分かったよ。じゃあ、次の休みは……」
幸太郎が次のファミレスの休みを思い出す。
「今から行きましょう」
「え?」
幸太郎は突然沙羅が言った言葉を聞いて驚きの表情を浮かべる。沙羅が少し不愉快そうな顔で続けて言う。
「聞こえなかったの? 今から行きましょう、三人で」
「え、な、何を言ってるの……?」
幸太郎同様、驚く胡桃。沙羅が言う。
「あなた下着を買いに行きたいんでしょ? だったら今から一緒に行ってあげるわ」
胡桃が怒って言う。
「どうしてあなたと一緒になるわけ? 私は先生とふたりで行きたいの!」
「恋人でもないのに男とふたりで下着を買いに行くなんておかしいと思わない? だから一緒に行ってあげるの。その方が健全でしょ?」
「で、でも……」
口籠る胡桃を見て、沙羅が隣にいる幸太郎に尋ねる。
「それともあなたはこの女とふたりきりで下着を買いに行きたいのかしら?」
(うぐっ!? そ、それは勘弁してほしい……)
黙る幸太郎を見て沙羅が言う。
「じゃあ、決まりね。今から行きましょう。あそこのショッピングセンターに売ってるかしら?」
そう言って駅前の大型ショッピングセンターを指差す。
「多分、あるわ……」
胡桃が小さな声で言う。
「じゃあ、決まりね。行きましょう」
沙羅はそう言うとひとりスタスタとショッピングセンターに向かって歩いて行く。
幸太郎はそんな沙羅の後を胡桃とついて行く。
(どうしてこうなった……)
幸太郎はこれから必ず起こるであろう不測の事態にため息をついた。
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