114.胡桃とマリアの共同作戦
幸太郎を探してファミレスにやってきたマリア。その彼女の前に胡桃が立って言った。
「私と組まない?」
驚くマリア。胡桃が言う。
「私も幸太郎先輩を探しているの。だけどどうしても私だけじゃ見つけられなくて」
マリアが答える。
「わたくしがあなたと組むメリットは? すでに一流の探偵に幸太郎さんの行方を捜して貰っているの。時間の問題だわ」
落ち着きを取り戻したマリアが自信気に言う。胡桃が答える。
「幸太郎先輩はね、多分沙羅さんと一緒よ」
「え?」
まだ幸太郎を探し始めたばかりのマリア。具体的な情報は何ひとつ知らない。マリアが言う。
「だからそのうちに幸太郎さんを見つけて……」
「そのうちで、いいの?」
「どういう意味でございます?」
胡桃がマリアに近付いて小声で言う。
「そのうちじゃ幸太郎先輩、あの女に取られちゃうわよ」
「な!?」
さすがのマリアもその言葉には動揺を隠せない。胡桃が言う。
「私に考えがあるの。車の中で待っていてくれる? すぐに行くわ」
「わ、分かりましたわ……」
マリアはそう言うと軽く頭を下げてファミレスを出て黒塗りの車へと戻って行く。
「店長、今日これからバイト休みます」
裏の事務所に向かう胡桃がおどおどしていた店長に向かって言う。
「あ、あの、御坂さんのご令嬢は……」
「大丈夫です。私に任せてください!」
雪平家と御坂家。この両家に対する行動は全て容認される。店長は仕事を終え事務所を出る胡桃を祈るような気持で見送った。
コンコン……
私服に着替えてには鞄を持った胡桃が黒塗りの車のドアを軽くノックする。すぐに後部座席のドアが開かれ、中に座っていたマリアが手招きする。
「お邪魔します」
躊躇うことなく後部座席のマリアの隣に座る胡桃。全く臆することない振る舞い。マリアが尋ねる。
「で、考えがあるってどういうことかしら?」
一刻の猶予もないと気付いたマリアが胡桃尋ねる。胡桃が答える。
「その前にひとつ確認。あなた、幸太郎先輩のことが好きなの?」
マリアが堂々と言う。
「当然でございますわ。もしかしてあなたも?」
マリアが言う。
「そうよ、私ずっと先輩に家庭教師して貰っているし、もうキスもした仲なの」
「え? そ、それは本当でございますか??」
幸太郎が家庭教師していたことは知っている。ただそれが目の前にいるこの女だとは知らないし、更に自分より先にキスをした事も当然知らない。マリアが尋ねる。
「キスって、どうやって?」
「先輩のここに、ちゅって」
胡桃が恥ずかしそうに自分の頬を指差す。マリアが笑って言う。
「そんなのキスに入りませんわ!! 外国じゃ挨拶程度のこと。勘違いもほどほどに……」
「じゃあ、あなたはその挨拶程度、もうしたの?」
「うっ……」
無論ない。
むっとした顔になったマリアが言う。
「そんなことどうでもいいですわ!! それより協力ってどういう意味かしら?」
胡桃がマリアに向いて言う。
「先輩はほぼ間違いなく沙羅さんと出掛けたわ」
「わ、わたくしだってそれぐらい推測できます!!」
「あなたが有能な探偵を使って探せば多分数日のうちに見つけられるでしょう」
「当たり前ですわ」
胡桃が言う。
「でも私はすぐに見つけたいの」
「それはわたくしも同じですわ!!」
「私ね、おおよその場所の見当はついているの」
「え? どうして!?」
驚くマリア。胡桃が言う。
「だから私と組んで欲しいの。幸太郎先輩が見つかるまで。私とあなたが組めばすぐに場所が分かるわ」
マリアがしばらく考える。そして尋ねる。
「では場所が分れば一緒に車で行くってことですね?」
「そうよ。私、車持ってないもん」
少し間を置いてマリアが答える。
「いいでしょう。協力致しますわ。ただ幸太郎さんが見つかるまで。それ以降は、『敵』ですわよ!!」
「了解。交渉成立ね。じゃあ教える。幸太郎先輩はね、沙羅さんの別荘に行ったと思うの」
「なるほど、また別荘ですか……」
マリアの頭に山荘での痛い記憶が蘇る。とは言え雪平グループの山荘は全国各地に数十か所もある。ひとつひとつ調べていては時間がかかる。胡桃が言う。
「この辺りで海の近くにある沙羅さんの別荘って知らない?」
「海? どうしてそう断言できるのでしょうか?」
半信半疑のマリアが尋ねる。胡桃が答える。
「私のお母さんね、幸太郎先輩のお母さんと共通の知り合いがいるの。そこを通して探りを入れたんだ。そうしたら『海の方へ勉強合宿に行く』ってことが分かったの」
「まあ、それって……」
驚くマリア。胡桃が続ける。
「そうよ。きっと沙羅さんところの別荘のはず。だけど私じゃそこまでしか調べられなくて。場所も知らないし移動もできない。それで、マリアさん。沙羅さんところの海の別荘って調べられるかしら?」
マリアが大きく頷いて答える。
「無論ですわ。他愛もないこと。しばしお待ちを」
そういうとマリアは携帯を取り出しどこかへ電話をかける。そして電話口で雪平家の別荘について調べるよう指示を出し胡桃に言う。
「ちょっとお待ちになってね。……あ、来ましたわ」
マリアのスマホに表示されるメールの着信。マリアはそれを開いて胡桃と一緒に見ながら言った。
「これすべてが雪平のおじ様のプライベート別荘。で、その中で海に近いのはですね……」
マリアが一軒の別荘を指差して言う。
「これですわ! 海の別荘。プライベートビーチもあって……、恋人と過ごすには最適の場所!! これはいけませんわ、急ぎましょう!!」
マリアはすぐに運転手の執事に雪平家の別荘へと走るように命じた。
「楽しかったな、海」
幸太郎と沙羅は昼からのビーチでの時間を過ごし、夕方前に別荘へと戻って来た。リビングで寛ぐ幸太郎が沙羅に言う。
「でも、お前って本当に泳げないんだな」
沙羅がすぐに言い返す。
「いけないの!? 私、基本的に海とか行かないから問題ないわ!!」
沙羅は自分が海に来ていることを忘れて幸太郎に言い返す。
「でも楽しかったな。明日も泳ぐか?」
(え? ま、またサンオイルを塗り合うの?? 楽しみ、楽しみだわ!!!!)
「ま、まあ、あなたがどうしても泳ぎたいのならばいいわよ」
沙羅はつくづく素直に言えない自分を呪う。幸太郎が答える。
「そうだな、俺は沙羅と泳ぎたい」
(え?)
思わぬ言葉に沙羅は嬉しさを隠すように言う。
「し、仕方ないわね! いいわよ!!」
「ありがとな」
そう言って笑う幸太郎を見て沙羅は心臓を貫かれたような衝撃を受ける。
(ああ、素敵、素敵素敵素敵!!!! もっと笑って!!!!)
「あ、そうだわ。大切なことを忘れていた」
沙羅が立ち上がりカバンの中に入れておいた数枚の書類を取り出して言う。
「『バイ友』だけど期限が切れるの。これ、新しい契約書」
そう言って書類をテーブルに置く沙羅。
「ここにサインすればいいのか?」
「え、ええ……」
沙羅はどきどきしながらそれを見つめる。署名をする幸太郎。沙羅は安心したかのようにすぐにそれを片付ける。幸太郎が言う。
「友達、か……」
その言葉に沙羅が反応する。
「なに? 私の友達じゃ嫌なの?」
「そんなことはないさ! 光栄だよ、沙羅の友達になれて」
そう言いつつふたりは別の、そして同じことを頭に思う。幸太郎が言う。
「なあ、沙羅。夕飯食べたらさ、少し外を散歩でもしないか」
「え? ええ、いいわよ」
幸太郎は恥ずかしそうに答える沙羅を真剣な目で見つめた。
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