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107.お誘い

(こ、幸太郎の手が私の腰にずっと……)


 足を軽くくじいた沙羅。ふたりの買い物はそんな沙羅を幸太郎が支えるようにして歩くことから始まった。



(さ、沙羅の体、柔らかい……)


 腰を抱きかかえるようにして歩き、沙羅は自分の腕を幸太郎の腕にしっかり絡ませて歩く。


 沙羅の柔らかな体の感触が薄い服を通して直に伝わって来る。触れてはいけないものに触れているような背徳感。沙羅も歩き辛いのか汗をかいており、その香りが女の子特有の匂いと混ざり甘酸っぱく幸太郎を包む。



(幸太郎の手、汗をかいていてすごく熱いわ。でも好き好き好き!! ああ、何だかぼうっとして来たわ……)


 沙羅は幸太郎に抱かれながら歩いているだけで幸せで幸せで、もうあまり何も考えることができなくなっていた。



「沙羅、大丈夫か? 少し座って休むか?」


 幸太郎はなぜだか人形のように体に力が入らずにふらつく沙羅を心配して言う。


「え? 休憩? い、いいわよ」


「じゃあ、あそこのベンチに座ろうか。足、見てやるよ」


 そう言ってふたりは駅前から少し歩いたベンチに座る。そして幸太郎は座った沙羅の足の前に行き言う。



「ちょっと、見てみるぞ」


「え? うん……」


 沙羅がそう答えると、幸太郎は彼女の履いていた高いヒールのブーツのファスナーをゆっくり下し始める。



(え? なになに!? 私、幸太郎に()()()()()()()の!!??)


 単に靴を脱がしているだけだが、沙羅にはその言葉に妙な興奮を感じてしまう。幸太郎は靴を置きながら沙羅に言う。


「こんなヒールの高い靴、履いて来るからだよ」


「う、うん……」


 まさかそれが作戦だったとは言えない。それよりも捻ったであろう足首を幸太郎が優しく撫で始めてしまい沙羅の興奮はますます高まって行く。



(だめ、そんな風に撫でられたら……)


 ベンチに座った沙羅。その伸ばした足元に幸太郎が屈み、優しく足をマッサージする。その構図がなぜか沙羅には卑猥に感じ、幸太郎が撫でる度に漏れそうになる声を必死に抑える。



(気持ちいいよぉ……、何だか変な気分になって来る……)


 道にはたくさんの人が行き交い、ベンチに座って彼女の足をマッサージするカップルをチラチラと見て行く。その見られている感じが更に気分を高ぶらせる。



「さ、もう大丈夫か?」


 気が付くとマッサージを終え靴を履かせている幸太郎の姿が目に映る。



(え? もう終わりなの……?)


 一瞬そう思った沙羅だが、今日は買い物に来たのでありマッサージをしてもらうために来たのではないことを思い出す。



「あ、ありがとう……、気持ち良かったわ……」


 それは心からの気持ち。顔を赤くしてマッサージされた辺りを手で触る沙羅を見て幸太郎が答える。



「いいよ、それより歩けそう?」


「ええ、大丈夫よ。ゆっくり歩くわ」


 ややぎこちなく立ち上がる沙羅を見て幸太郎が言う。



「足は大丈夫か? 手、貸すぞ」


 そう言って沙羅に手を差し出す幸太郎。



(何それ!? 腕組んで歩いていいって言うの!!?? まるで()()()()じゃない!! 嬉しいわ嬉しいわ嬉しいわ!!!!!)



「ま、まあ、仕方ないわね。これでまた転んだらいけないし。あなたがそうまで言うなら、腕、組んであげるわ」


 そう言って幸太郎の手を取り立ち上がった沙羅がその腕を組んで歩こうとする。



(え?)


 ただ単に手を貸すつもりだった幸太郎は、先ほどと同じように腕を組んで歩こうとする沙羅を見て一瞬驚く。



(ま、いいか)


 決して嫌じゃない。幸太郎は沙羅と腕を組んで本屋へと向かった。





「あ、ありがとう。いい本が選べたわ」


 特に欲しくもなかった参考書だが、幸太郎が選んでくれた本は分かりやすく沙羅も良い買い物ができたと思った。会計を終え歩き出したふたり。沙羅が幸太郎に言う。



「あのさ、この間の山荘だけどさ……」


(え?)


 幸太郎の頭に沙羅とふたりで過ごした甘い日々が思い出される。目の前にいる美少女と過ごした十日ほどの日々。大変だったけど、それは甘くて楽しい時間であった。



「山荘がどうかしたの?」


「うん、あれってさ、結局あまり勉強できなかったじゃない」


「そ、そうだね……」


 お互い交互で風邪を引き、看病し合った山荘。幸太郎にとっては予定よりもずっと勉強ができなかったのは否めない。



「それでさ、もし良かったら、良かったらでいいんだけど、海沿いにある別荘にもう一度勉強合宿に行かないかな、って思って……」


 歩きながら沙羅の心臓は壊れるほど激しく鼓動していた。恥ずかしくて恥ずかしくて穴があったら本当に入りたいほど。でもそれ以上にまた幸太郎と一緒に過ごしたい。その思いだけが彼女を動かしていた。



「勉強合宿?」


「うん、三日ほどの短いので。私も一緒に行く」



「え? 沙羅も一緒に!?」


 幸太郎が驚いて言う。


「ええ、私も勉強したいから。家だと集中できなくて……」


 あの広くて静かな家。集中できないはずはない。



「ふたりだけで……、か?」


 沙羅が顔を赤くして頷く。



(マジか!? それはすごく行きたい!!!)


 幸太郎にとってもそれは渡りに船。勉強はもちろんだが、しっかりとけじめをつけなければならないことがある。



「重定さんは知ってるの?」


「うん」


 知ってるも何もその『重定さん』からの提案である。



「うん、分かった。沙羅のところがいいなら行きたいよ」


「本当?」


 目を輝かせて言う更に幸太郎が尋ねる。



「ああ、それでいつから行くんだ?」


「明日よ」



「は? 明日!?」


 驚く幸太郎に沙羅が言う。



「そう。善は急げって言うでしょ。早く勉強したいし」


「あ、ああ、そうだな……」


 そう言いながら幸太郎はバイトの予定を思い出す。ファミレスと胡桃との家庭教師を一回休まなければならない。難しい顔をして考え込む幸太郎に沙羅が言う。



「なに? やっぱり私とは行きたくないって言うの?」


 心にも思っていないような言葉。それを口にしてから沙羅がすぐに後悔する。



「そんなことないよ! ちょっとバイトの調整を考えていただけ」


「そ、そうなの。ごめんなさい。私、変なこと言っちゃって……」


 大人しくなって反省し謝る沙羅。幸太郎はそんな彼女を見て以前とは全く違うと感じ戸惑いつつも思う。



(むちゃくちゃ可愛いんだが。どうしちゃったって言うほど素直だし……)


 最初に来た買い物ではツンツン怒ってばかりだった沙羅。あの時は胡桃が現れたのもあったが、それでもこんなに素直な女の子じゃなかった。

 ツンからデレへの変化とギャップ。うぶな幸太郎にはそれだけで十分効果覿面(こうかてきめん)であった。



「ねえ……」


 腕を組みながら沙羅が上目遣いで幸太郎に言う。


「な、なに?」


 その表情を見てどきっとする幸太郎。そして次の言葉で完全に心を打ち砕かれた。



「水着買いに行きたいの。付き合ってくれる?」


 もちろん姉栞の作戦による言葉。

 心底恥ずかしいと思う沙羅だが、幸太郎に水着を選んで欲しい、見て欲しいという彼女の希望にも沿った作戦。勉強は口実。狙いはふたりきりのビーチで夏の熱気によって恋を燃え上がらせる作戦。

 幸太郎は確実に雪平家の立てた計画へと誘導されていた。

お読み頂きありがとうございます!!

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