103.姉妹の恋愛大作戦!?
土曜の午前中、姉の栞と朝食を一緒に食べていた沙羅が小さな声で尋ねる。
「ね、姉さん……」
パンを咥えながらスマホを見ていた栞が顔を上げて答える。
「ん? 今、なんか言った?」
それ程か細く自信のない沙羅の声。姉の問いかけに下を向いて沙羅が答える。
「ね、姉さん。今日、どこか行く予定ってある?」
「今日? 午後から友達とお茶に行くつもりだけど、どうしたの?」
沙羅が顔を赤くして言う。
「ちょ、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな……?」
(相談!?)
その言葉を聞いた栞が驚き思う。
(私に相談っていったい何だろう?? ……もしかして、もしかしたら)
「いいよ。何の相談? ここじゃまずいの?」
沙羅が小さな声で答える。
「うん……、後で部屋に行ってもいい?」
「いいよ。ご飯食べたら待ってるね」
そう言って栞は再びスマホを見ながらパンをかじる。しかし内心はどきどきが止まらなくなっていた。
(沙羅が私に相談だなんて!! 嬉しいよ!! 何の相談かな?? やっぱり……)
あえて表情は崩さずに朝食を食べ終えると、栞は沙羅にひと言声をかけて先に部屋へ向かった。沙羅も急いでご飯を食べ終え、姉の部屋へと向かう。
「ふう……」
姉の部屋の前に立ち、小さく息を吐く沙羅。
(姉さんにこんなこと話すの初めて。恥ずかしい……、でも……)
沙羅は初めての恋愛相談を心から恥ずかしいと思った。それでも幸太郎への気持ちがそれをはるかに上回っており、姉に相談したい、誰かとこの気持ちを共有したいと思った。
コンコン……
沙羅がドアをノックする。
「沙羅? 入って」
ドアを開け沙羅が姉の部屋に入る。
(姉さんの部屋なんて何年ぶりだろう……)
決して姉妹仲が良くはなかったふたり。沙羅が姉の部屋を訪れること自体、随分久しぶりのことであった。栞が言う。
「適当に座って」
「うん……」
全体的に青色でまとめられた部屋。ぬいぐるみや人形と言った可愛らしい女の子のものはほとんどなく、シンプルでモダンな部屋。必要最低限のものが置かれている程度だ。机の椅子に座ったままの栞が尋ねる。
「で、相談って何?」
沙羅は姉のベッドの上に腰かけると下を向きながら話し始めた。
「ね、姉さんなら何か分かるかなって、思って来たんだけど……」
そう言いつつも姉なら必ず何とかしてくれる。姉に話せばすぐに上手く行くと沙羅は思い込んでいる。
「うん、何?」
「私、その……、好きな人ができて……」
(来たーーーーーっ!!!!)
姉が心の中でガッツポーズをする。
初めての姉妹での恋バナ。恋愛相談。栞が最も好きなこと。
同時に芽生える悪戯心。栞が言う。
「まさか、孝彦君?」
孝彦。新会社の若社長である三井孝彦。沙羅に派手に振られた男である。
「ば、馬鹿なこと言わないでよ!! あんなのじゃないわ!!!」
真剣な顔で怒る沙羅。栞が笑いながら言う。
「ごめんごめん。幸太郎君でしょ?」
「え!?」
沙羅が驚きの表情で姉を見つめる。
(私、何も話していない。話していないのに、どうして分かるの!? 姉さんってやっぱり凄いわっ!!!)
いとも簡単に当てられてしまった沙羅。改めてこの姉なら何とかしてくれると思う。沙羅が言う。
「どうして、分かったの……?」
栞が笑って答える。
「そんなの分かるよ~、幸太郎君以外いないでしょ」
「うん……」
沙羅の顔がこれまでないほどに赤くなる。栞が思う。
(カワイイーーーっ、私の妹!!!)
顔を赤らめる妹の姿に興奮する栞。沙羅を見つめながら尋ねる。
「好きなんだ」
「うん……」
声が小さくなる。栞が更に尋ねる。
「別荘でさ、何があったの?」
(え?)
あの山での出来事はほとんど誰にも話していない。恥ずかしくて恥ずかしくて誰にも話せない。
(お互いに看病して、一緒の布団で寝て、星を眺めながらキスをして……)
思い出すだけで恥ずかしくなり更に赤くなる沙羅。栞が言う。
「何があったか教えてくれないと、アドバイスとかできないよー」
それは確かにその通り。沙羅は心を決めて姉に話す。
「誰にも言わないでね。実は……」
恥ずかしそうに話す沙羅の言葉を黙って聞く栞。そして話し終えた後で沙羅に言う。
「へえ~、あの幸太郎君がね~」
沙羅の説明では沙羅の看病をしたのも、布団に入って来たのも、そしてキスをして来たのも全て幸太郎からになっていた。栞が思う。
(う~ん、だけど勉強合宿に行ったって聞いていたけど、そんなことするのかな? しかもあの奥手の幸太郎君が?)
もしその話が全て本当ならばもう何も心配することはない。すでに幸太郎は落ちている。
「ねえ、沙羅。その話全部本当なの?」
「あ、当たり前でしょ!! 私、すっごく恥ずかしかったんだから」
「ふ~ん。それじゃあもう何も話すことはないよ」
「え?」
意外過ぎる姉の言葉に驚く沙羅。
「それだけ幸太郎君が沙羅にメロメロなら、もう付き合ってるのと同じでしょ」
「それは……」
メロメロかどうか分からない。だから姉に助けを求めに来た。沙羅が少し悲しそうな顔で言う。
「メロメロかどうかは分からないわ。あいつ何考えているか分からないし……」
「なるほど……」
姉は理解した。
先程の沙羅の話は全て嘘じゃないとは思うが、かなりデフォルメされている。
(つまりそれってまだ『恋の駆け引き』段階じゃん!! うわっ、一番楽しい時期っ!!!)
栞は顔をにこにこさせて尋ねる。
「分かったわ。それであなたは幸太郎君を落としたい」
「うん……」
沙羅は恥ずかしそうに下を向いて答える。
「沙羅は幸太郎君のことが好きなの?」
改めて他人の口から言われると、これほど恥ずかしい問いかけはない。それでも沙羅は耐えながら答える。
「……好き」
栞は顔を赤らめて恥ずかしそうに答える妹を見て嬉しくなる。
(ああ、幸太郎君が来て本当にうちは変わった。まさかこの沙羅を落としちゃうとはね……)
同時に姉妹で恋相談ができることを心から嬉しく思う。栞が尋ねる。
「幸太郎君は沙羅のことどう思ってるのかな~?」
「……分からないわ。昨日会った時も普通にしていたし」
「そうか~」
栞が腕を組んで言う。
「まあ、幸太郎君ってあれで結構モテるからね」
栞は以前、妹の奈々と腕を組んで歩いていたこと、そして沙羅から食事の際に聞いた胡桃のことや晩餐会でのマリアの姿が頭に浮かぶ。
「そ、そうよね……」
沙羅の頭の中にも同様に色んな女の子に言い寄られる幸太郎の姿が浮かぶ。
「ね、姉さん。どうしたらいいのかな……」
青く不安そうな顔。
そんな顔を初めて見る栞が沙羅に言う。
「落ち着いて、沙羅。幸太郎君はまだ誰のものでもない。でも一番近くにいるのは沙羅だと思うよ」
「本当?」
沙羅の顔が明るくなる。
「ええ。だからやっぱりきちんとあなたの気持ちを伝えなきゃね。でもちゃんとタイミングを見計らって」
「タイミング?」
栞が立ち上がり沙羅に近付いて言う。
「そう、タイミング。これ以上ない場所とタイミングで絶対に断れない状況で言うの。そういう意味では、その星空のキスの時なんて最高のタイミングだったよね」
「星空のキス……」
栞に言われてあの時のことを思い出し真っ赤になる沙羅。
「幸太郎君は真面目でしょ? だから一度『うん』って言ってしまえばきっと責任取ってくれると思うの。だから雰囲気でも何でもいいから頷かせること」
「な、なるほど……」
漠然と幸太郎が好きとしか思っていなかった沙羅の頭に新たな道が開けて行く。
「でもそれって他の女の子にも言えることなの」
「え?」
栞の言葉に少し驚く沙羅。栞が言う。
「つまりね、他の女の子が先に告白とかして、幸太郎君が雰囲気に飲み込まれて『うん』なんて言っちゃったら、ハイ終わり」
「そ、そうよね……」
喜んでいた沙羅の顔が再び青くなる。栞が言う。
「だから早めに行動した方がいい。できるだけ早く。計画を練ってね」
「わ、分かったわ。姉さん」
真剣な表情で答える沙羅。栞が更に言う。
「あとね……」
「あと?」
栞が言う。
「パパにもこのこと話そうよ」
「え!?」
栞の意外過ぎる言葉に沙羅は驚いて言葉が出なかった。
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