102.ふたりの想い
今章が最終章となります。
よろしくお願いします!!
幸太郎との『バイ友』を終えた翌土曜日の朝、沙羅はひとり自宅地下にある完全防音の簡易スタジオ室へ向かった。部屋に入り分厚い扉を閉める。しっかりと鍵をかけ、誰も居ないことを確認してから大きく息を吸い込んで叫んだ。
「城崎、幸太郎ーーーーっ、好き好き好き好き、だーーーい好きーーーーーっ!!!!!」
沙羅ははあはあと息をして部屋の中にあった椅子に座り込む。
(もうだめ、我慢できない……)
天井を見つめながらぼうっと幸太郎のことを思い出す。
初めて彼が部屋に来た日のこと、一緒に買い物や映画を観た日のこと、そして山の別荘でのこと。
「私……」
沙羅は自分の唇に指でそっと触れる。
(あんなこと、されたら……、もう、おかしくなりそうだよぉ……)
キスについては自分から積極的にしたことなど都合よく忘れており、雰囲気に流されて幸太郎に無理やり唇を奪われたと思い込んでいる。でも嫌じゃなかった。初めてのキスが沙羅の心の中で淡い波紋の様に何度も打ち返してはどんどん大きくなっている。
(好き、好き好き好き、大好きっ!!!!!)
心の中で再度叫ぶ。
先日『バイ友』で訪れた幸太郎には極力平然を装って対応したが、彼が帰った後に形容しがたい寂しさと恋苦しさが彼女を襲っていた。沙羅が首を横に振って思う。
(もう嘘はつけない。私は幸太郎が好き。心から好き。毎日会いたい。またぎゅっと抱きしめて欲しいの!!)
沙羅はひとり自分で自分を抱きしめるような仕草をして頬を赤らめる。そして自分に言い聞かす。
(もっと素直になるのよ。そう、素直。あなたは素直じゃないの。これまでだってもっと素直になっていれば違った結果になっていたかもしれない。恥ずかしがることはない。彼が欲しいんでしょ? 欲しい。そう、なら大丈夫。彼は私の友達だし……)
そこまで考えた沙羅が思い直す。
「あれ、私は彼の『友達』。友達って、恋人じゃないわよね……、じゃあ、それ以上になるにはどうすれば……?」
恋愛経験どころかまともな人付き合いすらなかった沙羅。幸太郎のことが好きだと言うことはようやく自分自身で認めたのだが、そこからどうすればいいのか全く分からない。
「彼の前で『好き好き!!』って連発すればいいの、かしら……?」
そう考えた沙羅が首を大きく左右に振ってその考えを否定する。
(そんなことしている人なんて見たことないわ。ただの変態じゃない!!)
そんなことを幸太郎の前で叫んでいる自分を想像し赤面する沙羅。もうどうすればいいのか分からない。
(また一緒に過ごしたい……)
沙羅が目を閉じ、山荘でふたりで過ごした夜を思い出す。
(楽しかった。どきどきしたけど、楽しかったわ。こんなに楽しいことがあるなんて知らなかった……)
一緒にご飯を食べて、馬鹿なことを言い合って、散歩して、勉強して。
(同じ布団で……、って、なんで私があいつと同じ布団で寝なきゃ!! ……って、また素直じゃないじゃん、私っ!!!!)
もう幸太郎に関することならすべてを受け入れたいと思っている沙羅。どんなことでも彼が望むなら応える。恥ずかしい気持ちもあるがそれ以上に彼に嫌われたくない気持ちが強い。
(今日は土曜日。明日の日曜はファミレスであいつに会う。嬉しいけど、恥ずかしい……)
どんな顔をして会えばいいのか分からなくなった。
大好きな幸太郎。
すぐに会いたい。今すぐ会いたい。
その一方で会うのが恥ずかしい。
「そ、そうだわ!! こういうのは姉さんが得意なはず。ちょっと相談してみようかしら?」
恋愛については百戦錬磨の姉の栞。決して仲が良くなったわけではないが、ひとりでこうして悩むより思い切って相談した方がいいかもしれない。
(そうよ。あいつ浮気性だから、早く姉さんと何か作戦を立てた方がいいわ!!)
沙羅の頭に胡桃やマリアなどと仲良く会話する幸太郎の姿が思い浮かぶ。
「何よそれ!? 信じられない!!! 信じられないわっ、そんなことっ!!!!」
誰も居ないスタジオで再び大きな声を出す沙羅。
(私にあんなことしておいて他の女と仲良く話すなんてっ!!!)
ひとりで妄想し、その妄想で怒り出す。
「とにかく早く姉さんに相談すべきだわ。姉さんならきっと相談に乗ってくれるわ!」
(……その前に)
沙羅は再び息を大きく吸い込んでから大きな声で叫ぶ。
「好き好き好き、大好きいいいいい!!! 会いたい会いたい会いたい、ずっと会いたい!!! 毎日会いたいっ、大好きいいいいい!!!!!」
沙羅は顔を真っ赤にしながら自分を落ち着かせると、急ぎスタジオを出て姉の元へと向かった。
一方の幸太郎も『バイ友』が終わってからずっと沙羅のことを考えていた。会っている時は平常心でいれたのだが、帰って来てからなぜか強く意識してしまう。
(沙羅、可愛かったよな……)
山荘での沙羅。
いつものツンツンした彼女とは違いとても甘えん坊で色っぽく、まるで別人のように可愛らしかった。『バイ友』で訪れた昨夜も彼女と話しているだけでとても楽しかった。
(あれ、この気持ちって、まさか……)
幸太郎の中で今まで無意識のうちに気付かないようにしていた気持ちが、隠しきれない程大きくなっていた。一方で自分に言い聞かせる。
(冷静になれ。誰もいない山荘で沙羅のような可愛い子と一緒に過ごせばそんな気持ちになるのは当たり前。冷静になれ、幸太郎)
そして冷静になるためにもうひとつクリアしなければならないことを思い出しPCの画面を見つめる。
(これもそろそろ自分の中で何かの形をつけなければならないよな……)
幸太郎はPC画面に映し出された『こーくん』という名前をじっと見つめた。
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