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100/115

100.令嬢、山頂の戦い。

「ねえ、『バイ友』が終わりってどういう事よ!!」


 幸太郎の言葉に大きな声で反応する沙羅。幸太郎が答える。



「どういう事って、重定さんからお前との『バイ友』はもう終わりにするって言われてるんだけど、知らないのか?」


 沙羅の顔が怒りに染まって言う。


「知らないわ!! どうしてそんなこと勝手に決めるの!?」


「いや、俺も知らないって。お前らで決めたんじゃないのか?」


 沙羅が首を横に振って答える。



「そんなこと決める訳ないでしょ? どうして勝手に……」


「重定さん、お前がお金で友達になる『バイ友』のことを本心では嫌がっているって言ってたぞ。だからじゃないのか?」


 沙羅が幸太郎を見つめて言う。



「嫌だわ、本当は嫌よ。そんな友達がいなくてお金で来て貰っているだなんて。こんな惨めなことあると思う?」


 幸太郎は初めて『バイ友をされる側』の気持ちに触れた気がした。これまで必死に友達になろうと頑張ってきた一方、彼女にしてみれば必要でもない人間に近寄られている訳だからいい気分はしないのも当然だろう。


(やっぱり無理があるよなあ、このバイト……)




「私は認めないわ」


「沙羅?」


 沙羅が幸太郎を見つめながら言う。



「パパが『バイ友』止めるって言ったとしても、私があなたを雇うわ」


「は?」


「あなたはこれまで通り毎週私の部屋に来なさい。バイト料なら私が払うわ。何なら週二でもいい。あなたは私の部屋に来る。いい?」


「あ、ああ。分かった……」


 幸太郎は沙羅の迫力に押され、そのまま返事をした。




 その後、ふたりで別荘の掃除や荷物の片づけを行った。黙々と準備をしていたお昼過ぎ、見慣れた黒塗りの車がやって来るのに気付いて幸太郎が言った。


「沙羅。来たみたいだぞ、迎え」


 幸太郎と一緒に荷物をまとめて別荘を出る沙羅。そして止められた車から降りてきた重定を見て大きな声で言う。



「ちょっと、パパ!!」



「さ、沙羅ああ!!!」


 重定は愛する娘の顔を見られただけで既に泣きそうになって走り寄って来る。しかし沙羅はそんな父親に大声で怒鳴る。



「ちょっと待って。パパ!!!」



「え? ど、どうした、沙羅?」


 ようやく娘の様子がおかしいと気付いた重定が言う。沙羅が答える。



「どうしたじゃないわよ。なんで勝手に『バイ友』中止みたいな話してるわけ?」


「え? だ、だって、お前、前からあんなのやりたくないって言ってただろ?」


「一体いつの話しているのよ!! やる時もやめる時も勝手に決めて。信じられない!!」


 娘の為にと思ってやったことがことごとく裏目に出る重定。未だなぜ沙羅が怒っているのか良く分からないまま、幸太郎に尋ねる。



「こ、幸太郎君。どうして沙羅はこんなに怒っているのか? 何か君とあったのか?」


(え?)


 まさか一緒に寝たりキスをしたとは言えない。幸太郎が答える。



「ええっと、たぶん一方的に『バイ友』を止めさせられることを怒っているんだと思います」


 そう言いながら横目で怒る沙羅を見つめる。重定が答える。


「やはり、そうなのか? わ、分かった。沙羅、このまま幸太郎君と『バイ友』を続けるってことでいいんだな?」


 沙羅が頷いて答える。


「ええ、いいわ。じゃあ、あなたはずっと私の部屋に来るの。分かった?」


(え?)


 そう言いながら言葉にすると意外と大胆なことなったと顔を赤らめる沙羅と、予想以上に大胆なことを聞いてしまったと照れる幸太郎。重定はひとまず機嫌が直った沙羅を見ながら幸太郎に尋ねる。



「幸太郎君、沙羅が世話になったようだね。ありがとう」


 重定は雨の山中に降りて行った娘が、こうして元気にいることに素直に感謝した。


「あ、いえ。大したことしてませんので……」


 別荘であったことをすべて話したら目の前の人は卒倒するだろうなと幸太郎は内心思った。重定が言う。



「さて、じゃあそろそろ帰ろうか。さ、ふたりとも車に乗って……、ん?」


 そう言い掛けて重定は、別の新たな黒塗りの車がやって来たことに気付いた。



「あれは……?」


 皆がその車を見つめる中、駐車場に止まった車から真っ赤なロリータドレスを着た少女が下りて来て叫んだ。



「幸太郎さーーーーーーん!!!」



「げっ、マリア」


 自然あふれる山中にただでさえ似合わない黒塗りの車。更にその中の人物は真っ赤なロリータドレスを着て、完全に周りとは相反する存在となっている。幸太郎の元まで走って来たマリアが息を切らせて言う。



「はあ、はあ、幸太郎さん。よくご無事で、あの台風の中、おひとりでさぞかし寂しかったでしょうに」


 唖然とする一同。幸太郎が尋ねる。



「お前、どうやってここまで来たんだ?」


「女がお慕いする男性の元にやって来るのは自然の摂理。この素晴らしい自然の様にわたくしはここへ導かれるように参った次第でございます」


 最も自然と調和していない女の言葉に幸太郎が苦笑いする。



「これはマリアちゃん、こんな山の中まで」


 御坂家令嬢だと気付き重定が声を掛ける。マリアが答える。



「まあ、これはおじ様。ごきげんよう。このような場所で奇遇ですわ」


 ここは自分の別荘なんだが、と思いつつ重定も幸太郎同様苦笑いする。それまで黙って聞いていた沙羅がマリアに言う。



「どうしてあなたがここに来るの?」


 マリアがちらりと沙羅を見て答える。


「あら、これは沙羅さん。()()()()()()()のね?」


 沙羅の顔が一瞬引きつる。マリアが続けて言う。



「先程も申しましたが、わたくしと幸太郎さんは自然の摂理で引寄せられたのですわ。お分かり? 幸太郎さんがわたくしを求める様に、わたくしも幸太郎さんに引かれてしまいますの。ご理解できて?」


 むっとした顔になった沙羅が言い返す。



「あら、それじゃあ、私と彼がこの別荘で()()()も一緒にふたりきりで過ごしたってこともその自然の摂理って言うことなのかしら?」


「え? 十日間も、おふたりで……?」


 沙羅から突き付けられる現実にマリアが固まる。



(ど、どういう事かしら!? 幸太郎さんはおひとりでここに来られたはず。なぜ、この女が一緒に居たのかしら!?)


「う、うそをおっしゃい。幸太郎さんが来られてすぐに台風が来て、ここへはたどり着けなかったはず。そのような見え透いたうそを……」



「歩いて来たの」



「え? 何ですって!?」


 沙羅の言葉に一瞬固まるマリア。沙羅が続ける。



「落石があってここまで来られなかったから、途中で降りて歩いて来たの。そうよね、幸太郎」


 沙羅に()()で呼ばれて一瞬焦る幸太郎が答える。



「あ、ああ。まあ、そうだ」


「うそ……、そんなこと……」


 自分は危険だからと言って車も出して貰えなかったマリア。まさかあの雪平家の令嬢が嵐の山を歩いて来たとは。心の奥で一瞬負けを認めしまったマリアに沙羅が追撃を行う。



「ああ、それからさあ、一緒に何日も過ごして何もなかったと思う?」


「ど、どういう意味?」


 落ち込むマリアに沙羅が言う。



「私達、一緒の布団で寝たし、キスもしたわ」



「え? えええええええっ!?」


 突然の告白に心臓を撃ち抜かれたかのような衝撃を受けるマリア。一瞬たじろいたマリアだが、しかしそこは百戦錬磨の令嬢。倒されるぎりぎりのところで踏ん張り、反撃に出る。



「わ、わたくしもキスをして下さい。幸太郎さん!!!」


「はあっ!?」


 沙羅の突然の言葉に動揺していた幸太郎に、更に衝撃が加わる。



「な、何言って……」



「幸太郎君っ!!!」


「は、はい!!!」



 マリアと同じく衝撃を受けて倒れそうになっていた沙羅の父重定が、ようやく我に返って幸太郎に言う。



「い、今の話は本当なのか……?」


「あ、いや、その……」


 突然口籠る幸太郎の前に沙羅が立って言う。



「パパ、つまらないことは聞かないで。さ、帰るわよ」


「え? あ、ああ……」


 沙羅にそう命じられ放心したまま車に乗り込む重定、そして沙羅と幸太郎。それを見たマリアが幸太郎に言う。



「あ、幸太郎さん。お待ちを!!」


「じゃ、じゃあな、マリア。また」


 そして走り去る雪平家の車。それを見つめながらマリアが思う。



(奥手だと思っていたあの女に先を越されたですって!? 幸太郎さんは押せば倒れるタイプ。きっと弱みでも握られて無理やりさせられたんですわ!!)


 マリアがぐっとこぶしを握って思う。



(わたくしのお相手は幸太郎さんおひとり。必ず、わたくしがあの悪の手からお救い致しますわ!!)


 マリアは幸太郎に対してこれまでの攻めが甘かったことを反省し、状況によっては沙羅以上の既成事実を作ってしまおうと秘かに思った。

お読み頂きありがとうございます!!

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