第八話 呪い師の出迎え
第八話 呪い師の出迎え
半裸の男の案内により、セーシローとヤーブーは、山頂の集落へ辿り着いた。
程無くして、首に、紐を通した髑髏をぶら下げたボロ布を纏った老女が、出迎えて来た。
半裸の男が、手前で平伏すなり、「ズ・サン・コ!」と、崇め始めた。
「おお! カ・サン! よくぞ戻った!」と、ズ・サン・コが、歓喜の声を発した。そして、「顔を上げろ」と、促した。
「め、滅相も…」と、カ・サンが、拒んだ。
「照れるな!」と、ズ・サン・コが、距離を詰めた。そして、「無事を祝う呪いじゃ!」と、両手で、カ・サンのえらへ指を掛けるなり、「ふん!」と、力ずくで、上を向かせた。次の瞬間、顔を近づけた。その刹那、鼻の頭を舐めた。
その直後、カ・サンが、仰け反るなり、「ぐはへぇ!」と、両手で、鼻を押さえながら、もんどりうって倒れた。そして、悶絶を始めた。
「ホッホッホ。そんなに喜ばんでも…」と、ズ・サン・コが、目を細めた。
セーシローとヤーブーは、その様を目の当たりにするなり、表情を強張らせた。どう見ても、苦しんでいるようにしか見えないからだ。
少しして、「お前ら、何処の者じゃ?」と、ズ・サン・コが、好奇の眼差しで、尋ねた。
「セーシロー、鼻を舐められないようにしろよ!」と、ヤーブーが、要請した。
「わ、分かってる!」と、セーシローも、頷いた。半裸の男を悶絶させる“呪い”を受けたくはないからだ。
「ホッホッホ。どっちから、頂こうかしら?」と、ズ・サン・コが、舌舐めずりをしながら、値踏みを始めた。
「セーシロー、獲物を狙っている感じだぞ!」と、ヤーブーが、戦いた。
「た、確かに…」と、セーシローも、同調した。
そこへ、「待て…。ズ・サン・コ…」と、カ・サンが、口を挟んだ。
「何じゃ?」と、ズ・サン・コが、カ・サンを見やった。
「そいつらは、神の遣い! 舐める、罰当たる! 獣、貰えなくなる!」と、カ・サンが、口を挟んだ。
その瞬間、ズ・サン・コが、動きを止めるなり、「ほ、本当か?」と、声を震わせた。
「そうだ」と、カ・サンが、弱々しく答えた。
程無くして、ズ・サン・コが、その場で、セーシロー達へ向き直った。そして、両膝を着くなり、「こ、これは、失礼しましたぁ〜」と、土下座を始めた。
「た、助かったのか…?」と、ヤーブーが、尋ねた。
「ああ…」と、セーシローは、生返事をした。何とか、危機は、脱せられたからだ。
「おい。このまま、手ぶらで帰ろうってんじゃないだろうな?」と、ヤーブーが、問うた。
「獣は、諦めるしかないだろう」と、セーシローは、溜め息を吐いた。取り戻しに来たとは、言いにくい雰囲気だからだ。
「でも、また、同じ事を繰り返すぜ」と、ヤーブーが、口を尖らせた。
「そうだな」と、セーシローは、頷いた。同感だからだ。そして、「俺達も、獣の代わりになる物を貰えれば良いんじゃないのか?」と、提言した。それなりの見返りが貰えれば良いからだ。
「確かに、その考えは、アリだな」と、ヤーブーも、理解を示した。そして、「でも、獣と同じ価値の物じゃないと、俺様は納得しないからな」と、注文を付けた。
「そりゃそうだ」と、セーシローも、賛同した。もっともだからだ。そして、「獣と同じ価値の物を土産として、貰えないだろうか?」と、要求した。何かを持ち帰らないと、集落の者達も、納得しないからだ。
「へへぇ〜。ならば、御供え物を用意しますので、今日のところは、祭壇で、寛いでもらえんかのう」と、ズ・サン・コが、恭しく告げた。
「分かった」と、セーシローは、承諾した。どの道、今日のところは、帰るのは無理だからだ。
ズ・サン・コが、カ・サンを見やり、「おい! いつまで寝て居る! さっさと起きて、御遣い様方を、祭壇へ案内せい!」と、急かした。
「おお! 分かった!」と、カ・サンが、飛び起きた。そして、「二人、付いて来い! 祭壇、この奥!」と、右手で、正面奥を指した。その直後、先に立って歩き始めた。
少し後れて、二人も、並んで付いて行くのだった。