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歴史を紡ぐ物  作者: しろ組
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第六話 掟破り

第六話 掟破り


 セーシロー達が、漂着して、数ヶ月程経過した。その間に、様々な言語を習得して、集落の仲間入りを果たした。そして、一目置かれる存在になりつつあった。

 そんなある日、セーシローは、肥えた男こと、族長の“ヤーブー”と共に、罠の見回りに、山の際まで来て居た。

「セーシロー、お前来て、嬉しい」と、ヤーブーが、口にした。

「お、俺もだ…」と、セーシローも、返答した。浜辺での出会いのお陰で、こうして、生きて居られるのだからだ。

 程無くして、「ん!」と、ヤーブーが、顔をしかめた。

「どうした?」と、セーシローは、尋ねた。何事かの異変を感知したのだと察したからだ。

「これを見ろ!」と、ヤーブーが、右手で、足下を指した。

「ん?」と、セーシローも、その方へ視線を向けた。次の瞬間、捕獲用の蔓で編んだ網が無くなっているのを視認した。そして、「またか…」と、溜め息を吐いた。(ことごと)く、持ち去られて居るからだ。

「くそ!」と、ヤーブーが、怒鳴った。

「これじゃあ、(らち)が明かないな」と、セーシローも、眉根を寄せた。せっかく(こしら)えた罠を持ち去られたのでは、意味が無いからだ。

「俺様らの食べ物を横取りするのは、どこの野獣だ!」と、ヤーブーが、語気を荒らげた。

「落ち着け、ヤーブー」と、セーシローは、宥めた。自分の経験上、持ち去ったのは、自分達のような道具を扱える者の手口だと推察出来るからだ。そして、見解を述べた。

 しばらくして、「なるほど。確かに、お前の言う事には、一理有るな」と、ヤーブーが、理解を示した。

「この奥は、どうなっているんだ?」と、セーシローは、質問した。山側の繁みの先に、答えが在りそうな気がするからだ。

「おい! まさか、この奥へ踏み込もうって、思っちゃいないよな?」と、ヤーブーが、表情を強張らせた。

「何だ? 不都合な事でも有るのか?」と、セーシローは、問い返した。訳有りなのは、察知出来たからだ。

「こ、この先は、俺ら、“カワヤマキ”族が、踏み入ると、生きては帰られないと聞いている…」と、ヤーブーが、身震いしながら、語った。

「なるほど。そのような(おきて)が在るのか…」と、セーシローは、納得した。そして、「俺は、“カワヤマキ”族じゃないし、山道には慣れている。俺に、掟は、通用しない」と、セーシローは、口にした。自分は、“カワヤマキ”族に厄介になっているだけなので、掟を破っても、問題無いと思ったからだ。

「ちょっと待て!」と、ヤーブーが、声を発した。そして、「俺も、付き合うぜ!」と、告げた。

「良いのか?」と、セーシローは、面食らった面持ちをした。思いも掛けない言葉だからだ。そして、「族長のお前が、掟破りは、不味いだろう」と、苦笑した。立場ってものが有るからだ。

「へ、気にするな。俺様が、(ルール)だ。それに、この奥へは、前々から行って見たかったんだからな」と、ヤーブーが、考えを述べた。

「そうか。じゃあ、行くとしよう」と、セーシローは、口許を綻ばせた。前進あるのみだからだ。

「そう言うこった」と、ヤーブーも、力強く頷いた。

 二人は、繁みへ向かって歩き始めた。程無くして、姿が見えなくなるのだった。

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