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毒殺

 ――ガッ!――


 衝撃と共に地面が近付く。


「ふざけおって!」


「国王に対する物言い、万死に値するっ!」



 レイドル王を守っていた近衛騎士によって一瞬で組み伏せられる。


 腕をねじり上げられ、関節がギシギシと音を立て痛みが伝わってきて涙が浮かぶ。


「許可を得ずに仕切りを超えた者は厳罰、それが国王とならば死刑に決まっている」


「そこの無能召喚者を死刑にしろっ!」


 周囲から貴族たちの声が聞こえる。


 どうにか首を動かしてみると、佐藤も田中も目を見開いて俺を見ている。


 ローウェルも、アマンダですら狼狽している中、オリヴィアはいつも通りの表情をしていた。


 背筋を冷たい汗が伝わる。俺はきっとこのまま殺されてしまうのだろう。誰にも助けてもらうことなく。誰にも必要とされず……。


 周囲すべてが俺を罰する雰囲気になったところで、声が通った。



「ちょっと待ってもらえないかしら?」


 その場の全員が沈黙せざるを得ないほど存在感のある声が響いた。


「その者は私の従者です。勝手に殺されてしまうと、王選が破綻するのではないですか?」


 オリヴィアが前に出ると、レイドル王にそう告げる。


「ふむ、オリヴィア。お前は王選の開会式で『自分は王になるつもりはない』と言っていたのではなかったか?」


 そのことはこの場の皆も聞いていたので知っている。それよりも、俺は自分を庇おうと前に出たオリヴィアを俺は信じられない者を見るように目を見開いた。


「それとこれとは別な問題。300年ぶりの儀式を文献に頼って進める以上、枠組みから外れた行動をすべきではないかと思いますが?」


 オリヴィアの声に周囲の人間が顔を見合わせる。


「確かに、未知の試みをするにはリスクがたかい。形式を守らぬわけにもいくまい」


 レイドル王はアゴを撫でるとそう言った。俺は光明が見えた気がする。


 王の発言で、近衛騎士が俺を押さえつける力が弱まったからだ。


 このままいけば命は取られないかもしれない、そんな甘い考えを抱くがそれは間違いだった。


「ならば、他の召喚者を一人、お前の下に移動させればよかろう?」


 あくまで仕切りを超えた俺を見逃すつもりは無いらしい。レイドル王は探るような視線をオリヴィアへと送る。


 彼女がレイドル王の言葉に納得し、首を縦に振れば俺の首は落ちる。首筋に激痛が伝わってきた。


「お断りします。他の人間は信用なりませんので」


 ところが、彼女は首を横に振った。


 さきほどから、クラスメイトの男子の大半がオリヴィアを見ている。彼女の容姿に惹かれてのことだろう。恐らく最初からあの姿を見せていたら、男の何人かはこちらへと来ていたはずだ。


 オリヴィアはいまだ近衛騎士に組み敷かれている俺に視線を向けると言葉を続けた。


「この男は、分をわきまえていて無害なのでこの男がよいです」


 庇われている理由に悲しくなる。俺が心の中で涙を流しいていると……。


「一度だけチャンスをやろう。何故このようなことをしたのか説明をして納得させられるなら、今回の件は不問にしてやる」


 レイドル王の発言に、この場の全員が驚いた。




「良かったわね、国王が前言を翻すなんてほとんどないことよ」


 近衛騎士から解放されると、オリヴィアが近付いてきてそう言った。


「それも、納得できる理由を説明できたらですけどね」


 いまだ首の皮一枚が繋がっているだけの状態だ。俺の首筋の痛みはいまだ継続している。


 もし俺の説明に納得できなければ、血の雨がふることだろう。


「あなたみたいな臆病者が何の意味もなしにあんなことしないでしょう? はやく言い訳するのね」


 オリヴィアの言葉で俺は考え込む。


 何故自分があのような行動に出たのかについてだ。


 レイドル王が乾杯の音頭と共に杯を掲げた瞬間、これまでと同様の不調が襲い掛かってきた。今回の場合は首に痛みが走るといったもの。


 一つ実験として、俺は国王の杯に視線をやる。そしてそれを飲ませてもらう提案を頭に思い浮かべた。


 次の瞬間、喉の奥に焼けそうな痛みを覚え両手で喉を抑えた。


「ここまでくれば間違いないか?」


 今日まで俺は考えてきたことがある。

 儀式の時、なぜ俺はローウェルとアマンダの陣営に加入できなかったのか。


 そのことを考えると、決まって吐き気と腹痛を感じた。あれは警告だったのではないだろうか?


 そして、今回も警告だとすると、それを発するトリガーはレイドル王が口にしようとしたあの杯にあると思われる。


「国王様、そちらの杯の中身を改めていただけませんでしょうか?」


「なに。このワインをか?」


 杯には並々とワインが注がれている。これはこの場に参加するすべての人間に配られているもので、俺たちの席にも同様のものが置かれている。


「恐らくですが、そのワイン。毒が盛られているかと思います」


 原因をワインとすると、できる細工はそれほど多くない。俺は心の中で不安を感じながらも言葉を投げかけた。


「馬鹿な、杯は多様な毒物を検出できるミスリルで作られている。そのようなことがあるかっ!」


 背後からズンポイが怒鳴りつけてきた。


「ズンポイの言う通り。大抵の毒物はミスリルに反応するからな。無味無臭で致死量に至る毒物は余程の薬剤よりも高価だ。我が国ではその手の材料取引にも目を光らせている。最近そのような物資の取引記録は?」


 レイドル王が視線を向けた先にいるのはこの国の財務を担当している男だ。


「そのような取引はありませんな」


「では、そのような毒物を調合した者は?」


 医療院の貴族に質問をする。


「そのような禁制品を調合した者はおりません」


 こちらもはっきりと答えた。


 さきほどまでと違い、首を絞めつけられるような痛みが走り始める。


「くっ…………」


「どうやらあなたはここまでのようね?」


 オリヴィアが冷めた目を向ける。俺が首を押さえて苦しんでいるのを見下ろしているのだ。


「はははっ」


「気でも触れたか?」


 俺は喉を締め付ける痛みに耐えながらも笑いが込み上げてきた。


「いえ、俺はまともですよ」


 立ち上がり、宣言をする。


「ではその杯に毒が入っていることを証明してみせましょう」

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