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晩餐会

「そういえば、明日はどんな格好でお出掛けするんですか?」



 オリヴィアの屋敷に住むようになって二週間が経過した。


 日中は城に通い訓練を受け、夕刻になると屋敷に戻ってパメラの手伝いをする。



 いつも通りの日課をこなして一緒に夕食を摂っていたところ、パメラが質問をしてきた。



「どんな格好もなにも、普段通りの動きやすい格好だけど?」


 訓練用に国から支給された服がある。毎日パメラが洗濯して畳んで渡してくれるので不自由はないが、最近ずっとこれしか着ていないことに気が付いた。


「でも、明日はお城で晩餐会ですよね?」


「なんの話だ?」


 パメラは「あれ~?」と首を傾げると俺を見た。お互いに認識がすれ違っているのは間違いない。


 二人して困惑していると、パメラが事情を口にした。


「明日は国王選抜のための大事な発表があるから、王候補の姫様や、その従者は着飾った格好で城に行かなければならないんですよ」


「初耳なんだけど?」


「一緒に訓練している元の世界の人は教えてくれなかったんですか?」


 最近、佐藤はアマンダに気に入られたらしく、訓練場に顔を出していない。


 小林は顔を出しているのだが、物言いたそうな笑みを浮かべてこちらを見ていた。あれはこのことを知っていたのだろうか?


 俺がそんなことを考えていると、


「明日は姫様の準備があるんで、シンジさんは自分で衣装を決めて着替えてくださいね」


「えっ、そんな王侯貴族が集まる場所に着ていく服なんてわからないんだが……」


 元の世界とはファッションの基準が違うのだ。


 ただでさえ、評価が低い俺が妙な格好をして参加したら、周囲はもとより小林が嘲笑することは想像に難くない。


「なら、今からしましょう」


「えっ? するって?」


「勿論、シンジさんの衣装選びですよ」


 パメラは当然とばかりにそう言うと、


「決まるまで今夜は寝かせませんから」


 胸の前でぐっと拳を握り締めると、決意を述べるのだった。









『それでは、ただいまより王候補が入場いたします』


 俺たちが会場に入ると、既に入場していた貴族たちがこちらを見ている。


 その視線は、剣聖にして筆頭候補のローウェル……ではなく、知性と美貌を兼ね備えたアマンダ……でもなく、俺の隣の人物へと注がれていた。


「余計なことを考えずにエスコートして」


 俺が見ていると、オリヴィアから冷たい言葉を投げかけられる。


 周囲から注目を集めている原因は無感情にそう言い放った。この場の全員が彼女に見惚れ言葉を噤んでいる。


「エスコートも何も、この晩餐会のことは昨日初めて聞かされたんですけどね。準備も危うかったんですよ」


 オリヴィアは当然知っていたはずだ。俺が皮肉を言ったにもかかわらず彼女は眉一つ動かさなかった。


 現在、俺はオリヴィアの右に立ち、左手には彼女の右手が乗っている。

 晩餐会は、王候補とパートナーが同時に入る決まりらしく、ローウェルは学校一と評判の美少女の田中を、アマンダは佐藤をパートナーに選んでいた。


 二人とも、恐らく能力と見た目のバランスで選んだのだろうが、俺に関してはオリヴィアの支援者が一人しかいないので他に選択肢がなかった。


「そう、それは大変ね」


 投げやりな言葉に怒りが湧いてくる。だが、目に映るその美貌と煌びやかなドレスを見てしまっては、やはり役得の方が勝っていると言わざるを得ない。


 パメラが全力で化粧をしたことで、彼女はこの場の誰よりも周囲を惹きつける魅力を放っていた。



『王候補と、そのパートナーはレイドル国王の前のテーブルに着くように』


 言われてみると、会場の一番目立つ場所に、国王が座っており、手すりによって仕切りがされていた。


 仕切りの内側には近衛騎士が詰め、レイドル王を護衛している。


 俺たちのテーブルはその一段下がった場所で、そこから幾つか段が区切られ、その範囲に貴族が立っていた。


 この仕切りにも意味がある。


 高い位置にいる者ほど、星が多く、地位も高い。


 ローウェルもアマンダもオリヴィアも、王候補ということで星が七つ。相方の佐藤と田中は星が五つ、俺は一つ。


 俺だけどうしてこの場にいるのかわからない状況だ。もっとも、そんなことは関係ないだろう。


 何故なら、ローウェルもアマンダも緊張している。


 国王の厳しい瞳はこの場の王候補全員に等しく注がれているからだ。


 司会の役割を終えたズンポイが俺の後ろに立つと、レイドル王が口を開いた。


「この度は、数百年ぶりになる王選の儀式、誠に大義である。この国が、より一層繁栄することを願っておる」



 国王が杯を掲げる、その瞬間、俺は何か嫌な予感が湧き起こるのを感じた。


 ローウェルの時も、アマンダの時も感じた。妙な体調不良、それが何なのかはまだわからない。だが……、


「えっ?」


 初めて、オリヴィアの驚く声を聞いた。


 無理もない、俺がそのような行動に出るなど、俺自身にも分からなかったからだ。


 次の瞬間、俺は仕切りを掴み身体を乗り出すと、


「飲むなあああああああああああああああっ!」


 レイドル王に向かって手を伸ばし叫んでいた。

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