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いばら姫

 ――チャプチャプ―― 


 水を絞る音が聞こえ、何か冷たいものが頭に乗せられた。


 その刺激により意識が覚醒し、俺は目を開けた。


「あっ、気が付かれましたか?」


 メイド服を着た女の子の顔が視界いっぱいに飛び込んでくる。


「ここは……いったい、どうなった?」


 さきほどまで、王候補の選定を行っていた。


 俺は何が何でもローウェル陣営に付きたくて、這って進んでいたはずだが、無事に入ることができたのだろうか?


「姫様が突然あなたを連れてきたときはびっくりしました。もう平気なんですか?」


 メイドは首を傾げると、眉根を寄せ、俺を観察している。


 美人というよりは可愛い印象が強いが、整った顔立ちをしており、至近距離から見つめられるとどうにも気分が落ち着かない。


「えっと、ここはどこ? 君は誰?」


 平気かと言われても自分の状態がどうなっているのかいまいちかわからない。俺はひとまず状況を整理するため、目の前のメイドに質問した。


「私は姫様専属メイドのパメラです。ここは姫様の屋敷ですけど?」


 パメラはそう言うと首を傾げて見せた。


「その姫様というのは?」


 ますます疑問が深まる。その人物の名前を聞き出そうとした丁度そのタイミングで、奥の部屋のドアが開いた。


 中から出てきたのはバスローブ一枚を身に纏った女の子だった。

 髪から水がぽたぽたと零れていることから風呂に入っていたのだと想像できる。


 問題はその容姿だ。


 俺はこれまで異世界で生活している間に様々な美男美女を目にしてきている。


 ローウェル陣営もアマンダ陣営も、召喚者を獲得するために貴族の令嬢や令息を使って俺たちを懐柔しようとしたからだ。


 もっとも、俺に大した能力がないとわかったあとは自然と離れていったため、特になにかがあったわけではない。


 目の前の女の子は、異世界で美男美女を見て目が肥えている俺が言葉を失うほどの美しさだった。


「あっ、姫様。また髪を拭かずに出てこられて」


 パメラがバスタオルを手に彼女の髪から水分を拭き取っている。

 その丁寧な仕草と呼び名で、彼女がこの部屋の主であることがはっきりした。


 彼女は俺の向かいに腰かけると目を瞑りパメラにされるがままにしている。まるで俺など存在していないかのような振る舞いをしている。


「あの……」


 俺の声に反応して彼女の瞳が俺に向く。


「貴女はいったい、どうして俺はここにいるんですか?」


 『姫』などと呼ばれているあたり高貴な身分に違いない。俺は咄嗟に勲章を確認しようと胸元に視線をやる。


 だが、風呂上がりの彼女は身分を証明する勲章を身に着けていなかった。


「貴方が気絶して儀式が終わらなかったから。あの二人も要らないというので私が引き取ったのよ」


 その声に聞き覚えがある。半分閉じた瞼に宝石のように綺麗な色の瞳。


「もしかして、オリヴィア様ですか?」


 仮面とローブを身に着けていた時からは想像もつかなかった。目の前にいるのはあの”いばら姫”と称される王女だった。

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