表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ連載開始】聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?  作者: 宮之みやこ
第二部・第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/145

第65話 近衛騎士?

「ママみて! このあいだのリボン、もらったの!」


 そう言いながら、部屋の中で嬉しそうな顔のアイがその場でくるりと回る。


 ふわっと宙を舞う柔らかな黒髪には、先日の祝賀会で結われた赤いリボンが編み込まれていた。どうやら侍女が結んでくれたらしい。


「素敵! ドレスの時もよかったけれど、今もとってもよく似合ってているわ!」


 私はニコニコしながら拍手をした。

 今日のアイは青いワンピースを着ていて、服の青地と赤いリボンがよく映えていたの。


 アイはしばらくくるくると回ってから、パッと私の方を見た。


「ねえママ、アイもじぶんでリボン、むすべるようになりたい!」


 言いながら編み込んだリボンをぽふぽふと叩き、ふんすふんすと鼻息荒く言う。その瞳は黒曜石のように輝き、やる気に満ち溢れていた。


 その姿に、私はまたくすりと笑う。同時に、とてもまぶしい気持ちで見ていた。


 人は大人になるにつれ、自然に、あるいは外からの圧によって外面を取り繕うことを覚える。

 令嬢なら「淑女らしく」という言葉のもと、声を立てて笑うことも、感情をあらわにすることも全て禁止されていく。


 けれど、今のアイにそんな大人の事情は一切影響していない。


 アイはただ感情のままに笑い、好奇心の赴くまま目を輝かせているのだ。


 その姿はイキイキとした生気に満ち溢れ、見ている大人まで心があたたかくなるような、そんな輝きがあった。


 ……そういえば子どもの頃って、毎日のささいなことがとっても楽しかったのよね。花びら一枚に大喜びして、雪が降っただけではしゃいで……大人になるにつれ、そんな気持ちをすっかり忘れてしまっていたわ。


 思い出して私は微笑んだ。


 本当にアイはすごい。何気ない日常を、すべてキラキラしたものに変えられる力を持っているんだもの。これは聖女の力……というよりも、子どもの持つ力なのかしら?


「じゃあ、侍女たちにお願いして教えてもらいましょうか? せっかくだから、ママも一緒に教えてもらおうかしら」


 その言葉に、またアイがぱぁぁっと顔を輝かせる。


「うん! ママもいっしょにやろ!!!」


 言って、アイが嬉しそうにぎゅうっと私に抱き付いた。


 アイはひとりでやるより、私やユーリ様と一緒に何かをするのが大好きなのよね。そしてそれは私も一緒だった。


 アイと一緒に過ごす時間はすべて、かけがえのない宝物だった。一緒にご飯を食べたこと、抱き合って眠ったこと。小さなことひとつひとつが、思い出の一ページとして私の心に深く刻まれている。


 そこへ、私たちの会話を聞きつけた三侍女たちがわらわらと集まってくる。


「あっ。じゃあアイ様には私が教えますね!」

「ずるい! あたしがアイ様に教えたいのに!」

「じゃあアタシはエデリーン様に教えま~す」

「ちょっと抜け駆け!」


 誰に教えるかで、侍女たちが喧嘩する。それを苦笑しながら見ていると、ようやく担当が決まったらしい。勝ちをもぎ取った三侍女のひとり、赤毛のアンがぜぇぜぇしながら言う。


「編み込み……と行きたいところですが、まずは三つ編みで練習してみましょうね!」


 三つ編み、懐かしいわ。

 昔、髪の結い方を覚えたい! と言ったことがあったのだけれど、家庭教師に「それは侯爵令嬢がやることではありません」と怒られてそれきりだったのよね。


 私がそんなことを思い出しながら編む横では、アイが眉間にしわを寄せ、ツンと唇をとがらせながら、真剣そのものの顔でもくもくと編んでいる。


 ふふっ。アイったら、真剣になっている時は、いつも唇がとんがっちゃうのよね。


 その姿もまた愛らしくて、私はまた笑った。そんな私の笑い声に気付かないほど、アイは集中している。


 部屋の中は寒いながらも、暖炉ではパチパチと火が爆ぜ、あたたかく穏やかな空気が流れていた。


 やがて試行錯誤の末、アイはなんとか私の髪に編み込みを作ることに成功した。

 鏡で見ると、多少よれてはいるものの、初めてにしてはとても上手にリボンが編み込まれている。ツインテールに使っていたリボンのうちの一本を、私につけてくれたらしい。


「可愛いわ! ありがとうアイ。ママ、とっても嬉しい」


 抱きしめながら褒めると、アイがえへへへ、と嬉しそうにはにかむ。


「せっかくだからこれ、パパに見てもらおうか?」


 時刻はそろそろお昼時。ユーリ様の午前中の政務も落ち着く頃だ。

 最近はユーリ様も以前よりずっとパパらしくなってきたから、きっとアイのことを褒めてくれるはずよ。


「うん! みせにいく!」


 まるでウサギが跳ねるように、アイがぴょんとその場で跳ねた。

 それから私たちは手をつなぐと、一緒にお歌を歌いながらユーリ様の執務室へと向かう。


 やがてたどり着いた部屋では……。


 あら? 中から話し声がするわ?


 私は一瞬ためらった。


 お仕事の邪魔をしては悪いし、出直そうかしら……?


 でも、私が悩んでいるその時だった。


 アイがコンコンコンッと軽快にノックをしたかと思うと、返事が返ってくる前にガチャリと扉を開けてしまったのだ。


「あっ」


 しまった。アイに待つよう、言うべきだったわ……!


「パパ~! みて!」


 焦る私とは反対に、満面の笑みのアイが部屋に入っていく。私はあわてて後を追いかけた。


「ごめんなさい、お客様がいらっしゃるのなら後で出直してきま――」


 そこまで言ってから、私は中にいる人物に気付いて目を丸くする。


 ユーリ様の執務室に立っていたのは、先日の祝賀会で会ったマクシミリアン様と遠縁の親戚、リリアン様だったの。


 ただし彼女はドレス姿ではなく――騎士? のような恰好をしている。


「エデリーン、ちょうどいいところに」


 私の顔を見たユーリ様が、気を悪くした様子もなくにこりと微笑む。


「先日会ったリリアン嬢が、君の近衛騎士になりたいと志願しているんだ。女性同士なら安全だし、どうだろう。この機会に考えてみないか?」

「えっ?」


 予想外すぎる言葉に、私は思わず驚き声をあげていた。


 リリアン様が……私の近衛騎士に?


 私はまじまじと彼女を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■マグコミ様にてコミカライズ連載中■
第1話はこちら
聖女が来るから「君を愛することはない」と言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳だったので全力で愛します!!

■マッグガーデン・ノベルズ様より、書籍第1~3巻発売中■
書籍はこちら
聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ