第146話 ………………………………えっ!?!?!?
――翌日。
魔王脱獄の報せに城内がバタバタしている中、私はいつものメンバーたちとともに歓談室に集まっていた。中にはダントリー様の姿もある。
「それにしてもまさか、こんなことになるなんてなぁ」
ぼやいたのは、まだ昨夜の驚きが抜けていないハロルドだ。
「あら、あなただけよ、話についていけてないの」
バサッと切り捨てたのはリリアン。昨日の働きが評価されて、また少し行動範囲が広がったのだ。
「そりゃお前たちは元々顔見知りだっただろうけどよ。…………っていうか待てよ? 今気づいたんだが、お前と魔王、もしかして結託してこの国にやってきていたのか!?」
「今さら気づいたの? バカね」
ハン、とリリアンが鼻で笑う。ハロルドも負けじと言い返した。
「おっいいのか? そんなことを言って! この王宮で一番うまーいドーナツを作れるのは俺だけだって忘れたのか?」
「なっ!!! た、食べ物で脅そうだなんて卑怯じゃない!」
私は笑った。アイもげらげらと笑った。
その空気は平和そのもので、この中に魔物がふたりも混じっているなんて信じられないくらいだった。
考えながら、ちらりとそばで寝そべっているショコラを見る。
ショコラはさも「自分は関係ありません」という顔ですましているけれど……昨日ユーリ様を助けた黒獅子って、もしかしなくてもショコラよね?
今こんなにころころした体をしているけれど――というか実は最近、ショコラの体重がだいぶ増えたのだけれど――、多分あの姿がショコラの本来の姿なのよね?
そういえばユーリ様は、ショコラが魔物だと気づいているのかしら?
穏やかな顔で微笑んでいるユーリ様を見ていると、ダントリー様が私にそっと声をかけてきた。
「王妃陛下、大丈夫でしたか? ローズ様の件では相当体を酷使したと聞きましたが」
「ああ……そういえばそうでしたわね」
昨日はヒールのまま全力疾走したおかげで、足は大変なことになっていたわ。
いつの間にか靴擦れが起きたのか、かかとは血塗れ。触れるのも激痛。今は包帯をぐるぐるに巻いて、実はスリッパで移動しているんだもの。
「私は大丈夫ですわ。少し靴擦れしただけですから」
「ならよかった」
ダントリー様はほっとしたようだった。
「事件の時は守ろうとしてくださってありがとうございました」
「いえ、気づいたらあなたの姿を探してしまっていたんです」
はにかむダントリー様の顔は、ユーリ様によく似てとても整っている。
私は微笑んだ。
ダントリー様ではないけれど、私も気付いてしまったの。
魔王が暴れ始めた時、ダントリー様は真っ先に私に声をかけてくれた。そのこと自体はとても嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいよ。
でもあの時私は……真っ先にアイを探していた。自分のことは二の次だったのよ。
私が母親だからというわけではないわ。ただ自然と体が動いただけ。
そしてそれは、ユーリ様も一緒だった。
みんなとともに微笑むユーリ様を見ながら、私はきゅっと目を細める。
彼はまずアイの無事を確認してから、私の方を向いた。
それが私には何よりも嬉しかったと、今になって気付いたのだ。
自分の大事なものを、自分と同じように大事にしてくれる人。
そういう人と、私は歩んでいきたい――。
それから私は、ユーリ様を見てにこりと微笑んだ。
気づいたユーリ様が照れたように微笑み返してくる。
それは胸がきゅんとするような、あたたかくて素敵な笑みだった。
「……うっ!」
だというのに。
なぜか突然、ものすごい吐き気が襲ってきたのよね。
「エデリーン!?」
気づいたユーリ様が血相を変える。
「どうしたんだ! もしかしてどこか怪我でも!」
「怪我はしているといえばしてますが……きっと昨日走り回りすぎたのですわ。少し休めばすぐよくなると思います」
「そうだな。早く部屋で休もう。念のため医師も呼ぼう」
言うなり、ユーリ様は私を横抱きに抱き上げた。
「おっ。ユーリも一丁前にやるじゃねぇか」
なんてからかうハロルドの声が聞こえて来たけれど、残念ながら私は体調不良。
言い返す元気もないまま、部屋へと運ばれていったの。
◆
それから、昨夜走りすぎた体調不良かと思いきや――診察をしてくれた医師の口から、とんでもない言葉を聞くことになるのよ。
「ご懐妊ですね」
…………。
……………………。
………………………………えっ!?
まさかの、妊娠!?
昨日人生で一番走ったけれど、大丈夫!?
そばで話を聞いていたアンが、あんぐりと口を開けまま絶句している。
私は思わず医師を問い詰めていた。
「間違いないんですの?」
「間違いないです」
「本当に?」
「本当です」
「本当の本当に?」
「本当ですってば!」
「でも私昨日全速力で走ってしまいましたわよ!? 大丈夫なんですの!?」
「それだけで危険とはなりませんよ。心配ならしばらくは絶対安静にしましょうね」
そ、そうなの……!?
安心するやら脱力するやらで、私はずるずると座り込んだ。
大丈夫そうならいいのだけれど……でもみんなになんて報告したらいいのかしら。
特にユーリ様。なんとなくだけれど、あの方だったら泣きそうな気がするわ。それも尋常じゃないくらいに。
………………まさか自分の涙でおぼれたり、なんてことにはならないわよね……?
――そんな私の不安は残念なことに、九割ぐらい的中してしまうのは、もう少し先の話だった。
***
エンダァァアアアイヤァアアアアアア。
……このネタがまだ通じるか不安になってきました。
みなさま、通じる年代ですよね……?通じる年代って信じてますから……。






