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第136話 ただ単に仲がいいだけなのかしら……!

「どうぞ、これを食べてみてください。たい焼きというお菓子で、聖女の国に伝わっていたものなんですのよ」

「お菓子? ……魚に見えるが?」

「魚に見えますが、立派なお菓子なんです」

「ほう」


 私の言葉にローズ様の目がきらりと光る。


 ……アイが『まじょさま、おいしいものをたべなきゃかえっちゃうんだって!』と言っていたけれど、それは本当かもしれない。

 だって、普段凪いだ水面のように落ち着いている瞳が、食べ物の話になった時だけは少し光るんだもの。アイったら、よく見抜いたわね……!


 考えながら隣にいるアイの頭を撫でると、アイがくすぐったそうに私を見た。


「どうしたのママ」

「ううん。アイは本当にかわいいなあと思って」

「ふへへへ」


 アイが照れたように笑う。それから、少しいたずらっぽく微笑んだ。


「ねぇ、アイってかわいい?」

「もちろん可愛いわ」

「ならアイのこと、えにかいてもいいんだよ?」


 まあ!


 私は驚いた。


 ことあるごとに可愛い可愛いと叫びながら絵に描いてはいたけれど、まさかアイの方からそんな言葉が出るなんて!

 自分が可愛いことを理解しているアイ…………最高に素敵よ!


「描くわ、描く描く。今すぐ絵筆を持ってきてもらわなくっちゃ!」

「くふふ」


 ああ! 両手でお口を押さえて笑うアイも最高に可愛いわ! 絵っていうか、今のやりとりを全部一生記憶していられたらいいのに……!


 身をよじらせて悶えていると、気づいたユーリ様がこっそりと囁いた。


「……エデリーン。お客様のことは放っておいてもいいのかい」


 はっ。いけない!!!


 目の前ではローズ様が、あっけにとられた顔で私を見ている。私は誤魔化そうと咳払いした。


「……失礼しましたわ。どうぞ私にお構いなく」

「それでは遠慮なくいただこう」


 ローズ様の言葉に、すかさずアイビー様がたい焼きをふたつとった。

 そのうちのひとつをアイビー様が口元に差し出すと、ローズ様はなんのためらいもなくぱくりとそのままたい焼きを食べた。

 それはただ物を食べているだけにもかかわらず、アイビー様の妖しい美しさと、ローズ様の妖艶さが合わさって、何やらやたら甘美な光景に見える。

 見ていた私が、その色気にどきりとする。


 やっぱりローズ様がみずからの手を一切動かしていないから、そう感じてしまうのかしら? というか完全に、アイビー様がローズ様に食べさせているのよね……。夫婦だとしても、こんな風に一方的にお世話を焼く関係は珍しい。

 ローズ様は足が不自由だと聞いていたけれど、他も動かすのが大変だったりするのかしら?


「うん。なるほど、これはうまいな」


 もぐもぐと咀嚼を繰り返しながら、ローズ様が口元についた餡子を自分でぬぐっている。


 ……と思ったけれど、手、普通に動かせるのね!?

 じゃあやっぱりただ単に仲がいいだけなのかしら……!


 考えているそばからまた、アイビー様がローズ様にたい焼きを食べさせている。


「この不思議な食べ物は何だ? 皮も謎だが、この黒い甘いものは初めて食べる」

「それは餡子という、豆を煮て砂糖を加えたものです。甘いのに甘すぎない、なんとも心地よい味わいでしょう?」

「確かに心地よいと言えばそうだな……。舌触りもほどよい。こんなものは食べたことがないな」


 口調からして、どうやら気に入ってくれたらしい。味わうようにじっくりと咀嚼を繰り返している。


「実はこのたい焼き、アイがローズ様に食べさせたいと言って作ってもらったものなんですよ」

「聖女が、私に?」


 ローズ様が不思議そうな表情になった。


 それもそうよね。ローズ様からしてみれば、なぜアイが自分をそこまで気に入るのか理解できないはずだもの。女神様のことは聞いてみたけれど、隠しているのか本当に知らないのか、ローズ様は否定していたし……。


 ローズ様がふっと微笑む。


「我にまで親切にしてくれるとは、聖女は優しいな」


 そんなローズ様のお膝には、アイが無言でぺたりとくっついている。


「……」

「何だ。我の膝がそんなに好きなのか?」

「あのね。こうしてたら、まじょさまのいたいいたい、なおるかなっておもったの」


 その瞬間、ローズ様がハッと息を呑んだのがわかった。


 もしかして、アイはローズ様の発作のことを言っているのかしら?

 王宮に来てからは一度も発作を起こしていないのだけれど、私の実家にいた時は一度起こしていたものね。あれは痛い、というよりは苦しそうだったけれど、アイには痛そうに見えていたのかしら……?


 子どもには不思議な力があるという。

 特にアイは聖女だからなのか、それとも生まれつきなのか、私たちとは違う何かが見えていると思う時があった。

 だからアイがそう見えているのなら……もしかしたらローズ様は、本当に何か痛みを抱えているのかもしれない。


「そう、か。……汝は本当に優しいのだな……」


 持ち上げられたローズ様の手が、ぎこちなくアイの頭を撫でた。










***

従者に給餌される美女、アリだと思います(グッと親指を立てながら

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聖女が来るから「君を愛することはない」と言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳だったので全力で愛します!!

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聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?
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