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第122話 あ~~~~~~~ぶなかったあ~~~!!!◆――ショコラ

 あ~~~~~~~ぶなかったあ~~~!!!


 トタタタタタ! と王宮の廊下を走りながら、あたいは胸をなでおろしていた。

 最初に王宮で主様を見た時、ギャーーーーーーーーーー!!! なんでここに主様が!?

 と思って咄嗟に逃げちゃったけど、念のため様子をうかがっててよかったわ。

 あたいの大事な寝床、危うく壊されちゃうところだったじゃない! ほんと、主様って直情型だから油断するとすぐ壊そうとするのよね……!


 そこまで考えて、あたいはキュッと廊下を曲がる。

 本当はおちびたちのところに帰るなら右の道なんだけれど、今用事があるのは別の場所だ。

 ところどころ見張りが立つ王宮内を走り回り、あたいはひとつだけ開いている窓を見つけるとそこから外に飛び出した。

 ひんやりとした夜気がただよう中を、さらにさらに走る。

 やがて見えてきたのは、神官たちが暮らす宿舎だ。

 シュッと外の柱を伝って、また開いている小窓から中に侵入する。ここは事前にあたいが通るために開けてあるのよね。

 誰もいない廊下をタタタッと走り抜けてたどり着いた部屋には……。


「ねえリリアン! 主様が速攻王宮を破壊しようとしていたんだけど!?」


 私の声に振り向いたのは、神官服に身を包んだリリアンだ。


「当たり前じゃない。それが主様よ」


 その腕には、魔封じの腕輪が嵌められている。

 といっても、実際その腕輪はリリアンには大した効果はないのよね。多分、本気を出せばそんな腕輪、簡単に壊れる。

 でもあたいは知っている。リリアンはそんなことをしないのを。

 だってリリアン、何だかんだおちびや王宮の人たちを、すごく気に入っているんだもの。

 だから今も、封じられたふりをしてせっせと〝生き証人〟としてどっかの国の人たちに協力してるって言ってたわ。


「とりあえず白パンで引き止めたんだけど、これからどうしよう!? 白パンの次は何がいいと思う!?」


 あたいの質問に、リリアンが「えっ」と驚く。


「白パンで引き留められたの? ……それもびっくりなんだけれど、そうなると食べ物が有効ということでしょう? それこそ色んな種類の食べ物をひたすら出せばいいんじゃないかしら」

「色んな食べ物かぁ……。とにかく食べさせて食べさせて食べさせまくるしかない……ってコト?」

「少なくとも今はね。だってあなた、主様を倒せる?」

「あ、それはムリ」

「でしょう? あと、人間たちに、主様を倒させることもできる?」

「それも………………多分ムリ、ね……」


 主様に王宮を壊してほしくないけれど、同時に主様にいなくなってほしいわけでもないのだ。乙女心ってフクザツ。


「だったら、いつまで持つかはわからないけれど食べ物でつないで誤魔化すしかないわ。それに……もしかしたらアイ様が、何か変えてくれるかもしれないじゃない。私の時のように」


 言ってリリアンが微笑んだ。

 あたいは眉をひそめる。


 ……この子がこんなに優しく微笑むの、初めて見るわね。


 あたいがまだ魔界にいた頃、リリアン――キンセンカはとにかくいけ好かない奴だった。

 主様から生み出されたことを誇りに思っていて、元猫であるあたいのことはずっと見下していたと思う

 そして狡猾で、残虐で、あたいが言うのもなんだけど、人の心なんか持っちゃいなかった。主様のために黙々と任務をこなす、絶望製造機って感じ。


 でも最近のリリアンは……本当に別人みたいね。

 大使の相手をしていない時だって、天敵であるはずの神官たちの仕事の手伝いなんかしちゃってるのよ? サキュバスなのによ? なんの冗談って思ったわ。

 そんでもってあのハロルドとかいう料理人と一緒に、おやつなんか食べちゃったりして。

 本当にこれがあのキンセンカ? あ、今はリリアンなんだっけ? 何なの? 名前が変わると、人格が変わっちゃう感じなの?

 なーんて思うくらい。

 今だって、主様のところにすっとんでいってもよさそうなのに、すっとぶどころか静観を決め込んでいる。


「とにかく、今あなたにできることは主様を飽きさせないような食べ物を出すことだけでしょう。わたくしもハロルドに頼んでみるから、あんたもアイ様に話してみなさいよ。彼女、異世界の料理のことも知っているんでしょう?」

「あ、それはいい案ね」


 この世界にはない、異世界の食べ物。

 そんな楽しいもの、あたいも食べてみたい――じゃなかった、主様もきっと興味を持つはずよ! 特に甘味なら、アイビーのやつを簡単に釣れるしね。主様、なんだかんだアイビーのやつを無下にできないって、あたい気付いているんだから!


「ありがとリリアン! あんたのおかげで希望が見えて来た気がするわ!」

「どういたしまして。わたくしはまだ神殿から動けないけれど、何かあったら呼んでちょうだい。手伝いに行くわ」


 言いながら、リリアンの手があたいの頭に伸びてきてなでなでする。

 リリアンに撫でられるのはちょっと癪なんだけど、まあリリアン本人がちょっと嬉しそうな顔をしているから? 今はされるがままにしといてあげるわ。

 だってしょうがないもの。もふもふの魅力を知ってしまったら、サキュバスですら抗えないもんね?


 散々リリアンにもふもふさせてあげた後に、あたいはとことことまた王宮に引き返した。


 さ! 善は急げって言うもの! あたいにできることをするわよー!


 あたいはおちびたちの部屋に戻ると、早速おちびをゆさゆさと揺さぶり起こした。


「なあに、しょこら……。アイ、ねむいよう」








***

人類、もふもふには敵わないんですよ。


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聖女が来るから「君を愛することはない」と言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳だったので全力で愛します!!

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聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?
― 新着の感想 ―
[一言] 魔王様の行動遅滞作戦が、まんま餌付け…… ショコラちゃんリリアンちゃんも単純だけど、それにつられて美味しいモノ食べようとする魔王様も大概よね、とトオイメ。
[良い点] リリアンが幸せそうで何より。
[一言] まずは幸せの塊ぽたもちからだな
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