第119話 やっぱりそういうことを口に出すのは恥ずかしいわ!
その言葉が意味することはひとつ。
――私とユーリ様の子はいつ生まれるのかという話よね。
「そっ、それは」
王族の義務とは言え、やっぱりそういうことを口に出すのは恥ずかしいわ!!!
私が頬を赤らめていると、イブまでもがニヤニヤとしだした。
「わたしたちも話したんですからエデリーン様も教えてくださいよぉ~」
「そ、そうね。その、いずれアイにも弟か妹ができたらいいなとは、思っているわ」
その言葉に、アイがぱちくりと目をまばたかせる。
「アイ、おとうとかいもうもができるの?」
「い、いずれよ? いずれ。その……一応鋭意製作中だから」
「そんな絵を描くみたいな言い方しないでくださいよ!」
笑われて、また顔が赤くなる。
みんな、そういう話って恥ずかしくないのかしら!? まだ慣れていないのは私だけ!?
「やだ~! 照れちゃって、エデリーン様かわいい!」
「耳まであかぁ~い」
きゃあ~と騒がれて、私は額を押さえた。
うう……このままじゃ王妃としての威厳が! ね、閨事ぐらい、余裕で返せるようにならなければ……!
そんな私の横では、アイが私の服を掴みながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「ねえママ! ママ! アイ、おとうとかいもうとができるの!?」
「そうですよぉアイ様。きっともうすぐですからね」
「アイ様は弟と妹、どっちがいいですか?」
聞かれてアイがうーんと悩む。
そういえば、アイって自分より年下の子と接したことがあるのかしら?
私の場合は、次女のジャクリーンと年子ということもあって物心ついた時から年下がいっぱいいたけれど、アイは恐らくひとりっ子なのよね。
王宮に子どもが遊びにこないわけではないのだけれど……アイより年下の子に会わせた記憶はないし……。
私が考えていると、アイが言った。
「どっちでもいいよぉ! アイ、どっちもなかよくする!」
アイのニパッと笑った顔は純真そのもので。
その場にいた私たちの頬が緩む。
「そうですねぇ、どっちでもいいから楽しみですよねぇ」
「なんなら両方生んでしまえばいいんじゃないですか、エデリーン様!」
「そっ。そうね」
また話を振られて私はあわてた。
そんな私たちのそばでは、ショコラがふあぁ~と大きなあくびをしながら座っている。
「そっそれより、お茶会の準備はどうしたの? そろそろローズ様が待ちくたびれている頃じゃない?」
「あっ!」
「いけない!」
「すぐに支度しまぁ~す」
にぎやかな三侍女たちがドタバタとセッティングを始める。
なんとか話が変わってくれたことにほっとしつつ、私はローズ様を待った。
やがて先導するアンの話し声とともに、貴賓室の扉が開いてローズ様とアイビー様が現れる。
ローズ様はいつもの移動式の椅子に座ったままだ。
彼女の美しい赤い瞳が私たちを見て、それから部屋の中にいたショコラを見た。
――その瞬間。
「に゛ゃ゛お゛お゛お゛ん゛っ!?」
現れたローズ様の姿を見るなり、ショコラがすさまじい声を出したのよ。
前に一度、ユーリ様がうっかりショコラのしっぽを踏んでしまった時があったのだけれど、その時の声とそっくりだった。
「うわあびっくりした!」
「ショコラ?」
驚いた私たちがショコラを見ると、ショコラの目はこれ以上ないぐらい丸く見開かれていた。全身の毛が逆立ってひと回り大きくなり、尻尾はモップ並に太くなっている。
「にゃ、にゃ、にゃ……にゃーーーーー!!!」
ショコラはそのまま突如すごい声で鳴いたかと思うと、まるでローズ様から逃げるようにシャカシャカシャカシャカと一目散に走り去っていったのだ。
「あっ! しょこらぁ!」
ショコラに逃げられたアイがしょんぼりとする。
さっき、厨房でローズ様に会ってほしいってお願いしてたものね。私はアイを慰めながら、ローズ様たちに謝った。
「ごめんなさい騒がしくて。いつも食い意地は張っていても人懐こい猫なのだけれど……」
なんで今日に限って逃げて行っちゃったのかしら。
しかも全速力! って感じだったわよね……。
猫は魔女や魔法使いが苦手とか? でもむしろ、猫と魔女って仲がいい印象があるのだけれど……。
私が首をかしげていると、ローズ様がくつくつと笑った。
「元気がいい猫だ」
***
弟フラグ!それはそうとして全速力ショコラはぜひともコミカライズで見たいワンシーンです






