第113話 ろーずさま ★――アイ
「もしかして子育てで体力がついたのかしら……?」
よる。
トルケおねえちゃんがじぶんのへやにかえったあと、ママがベッドにすわって、ぐっとうでをまげながらいった。
そのぽーず、アイしってるよ。なべのおじちゃんがまえ「どうだ! これが力こぶだぞ!」っていってみせてくれたもん。
おじちゃんの“ちからこぶ”、かちかちだった!
「ママもちからこぶ、つくったの?」
わたしがワクワクしながらきくと、ママがしゃがんでちからこぶをさわらせてくれた。
「…………でもかちかちじゃないねえ?」
ぷにぷにぷに。
ママのうではおじちゃんのとぜんぜんちがう。やわらかくて、ずっとさわっていたくなるかんじ。
「そうよね。ママの体は別に変ってはいないのよね……。なのにどうして急に力がついちゃったのかしら?」
ママはまだむぅっというかおをしている。
さっき、トルケおねえちゃんがずーっと『ゴリラ! ゴリラ!』っていってて、ママはそれをきにしているみたいだった。
「アイ、ごりらなママもだいすきだよ?」
ぎゅうっとママのうでをだきしめていう。
「アイ……!!! ママもアイのことが大好きよ!!! ああもう、本当になんて可愛い子なのかしら!!!」
すぐにぎゅううううっとだきしめられて、わたしは「えへへ」ってわらった。
ママにだいすきだよっていうと、ママのかおがふにゃあってなる。わたし、それをみるのがだいすき。
それにママのだっこはねえ、ふわふわの“もうふ”みたいなの。
やわらかくて、いいにおいで、あったかくて、だいすき。
「ママ、ずーっとずーっと、アイのことだっこしてくれる?」
「もちろんよ!!! アイが嫌って言うまで、ママはずーっと抱っこするからね!」
ママのやさしいこえに、わたしはまたえへへってわらった。
うれしいな。ママがいてくれるから、アイはもうよるもこわくないんだよ。
そうおもったときだった。
「あ、そういえば……」
ママがきゅうにかおをあげる。
「さっき言いかけていたこと、何だったの? ローズ様を見て何か言いかけなかった?」
ろーずさま。
そのなまえに、わたしはぱちっとめをあけた。
そうだった! わすれてた!
「あのね! あのひとね!」
そう、わたしきづいちゃったの。
あのくろいかみをしたまじょさま。
わたし、あったことがあるの!
「あのひとね、アイをママのところにつれてきてくれたひとなの!」
◇ 王妃・エデリーン ◇
その言葉に私は目を丸くした。
アイを……私のところに連れてきてくれた……?
「あのねっあのねっ」
アイが手を大きく動かしながら、一生懸命私に説明する。
「アイ、アパートのベランダにいたの。さむくて、こわくて……」
私はその話をじっと聞いていた。
アパート……はよくわからないけれど、ベランダというのは部屋の外に繋がっているあのベランダのことよね? そこで寒くて暗いって、もしかして……。
「ママはよんでもぜんぜんあけてくれなくて……。だからアイ、だれかたすけて! っておもったの。そしたらさっきのまじょさまがきてくれたの!」
興奮に目を輝かせながら、アイが感極まったようにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「そんでまじょさまがね! アイのてをにぎってくれて、そしたらめのまえがすっごくあかるくなって……きづいたらママのところにいたの!」
やっぱり……!
アイの言葉を聞いて、私は息を呑んだ。
マキウス王国では代々国王の代替わりの度に、国を守護する女神ベゼが異世界から聖女を連れてくる。アイももちろん、その女神様に連れてこられている。
つまりアイを異世界からマキウス王国に連れて来た女神様、それが魔女のローズ様だとアイは言ってるのだ。
私は考え込んだ。
ローズ様が……女神様?
確かに独特な雰囲気はあるけれど、だからと言って人間以外の何かであるようには見えなかった。
そして女神様は聖女の降臨によって存在が認められているとは言え、人間として現れたという記録はない。
考えながら思い出す。
女神様の姿は、歴史書や神話で何度か見たことがある。そこに描かれている姿は本によって様々で、白く神々しいものもあれば、私たちのような金髪や茶髪、黒髪で描かれているものもある。
だからどんな髪色であってもおかしくはない。
でも……。
私はもう一度アイを見た。
アイが嘘をついているとは思わないけれど、勘違いということだってある。
何か確認する方法があれば……。
そこまで考えて、私はあっと気がついた。
「アイ! 久しぶりに、あのスキルを使ってくれないかしら? ほら、“映像共有”!」
スキル“映像共有”は、アイの記憶を私にも見せてくれるとても便利なスキルだ。
過去にこのスキルを使ってぼた餅の材料を特定したり、『みせすどーなつ』のドーナツ再現に役立ったりした。
……というか思い出してみたら、私たち、貴重なスキルを食べ物のことにばっかり使っているわね……?
ま、まあ、有効活用したということにしましょう! うんうん! サクラ太后陛下もアイも喜んでいたし!
「えいぞーきょーゆー!」
思い出したアイが、ぎゅっと私の手を握ってくる。
すぐさま脳裏にアイの見た景色らしきものが流れてきて、私は目をつぶった。
***
ぷにぷにゴリラことエデリーンです。






