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優しい嘘つきと鬼ごっこ  作者: 掃晴娘。
2/10

紫蘭の湖 2

「だからね、あなたにも手伝ってほしいの」

 頬杖をつきながら言う。

 心ここにあらず。その言葉は彼女のために存在していると思えるほどに、彼女はぼおっとしていた。

「手伝うって、何を」

「鬼ごっこ」

「鬼ごっこって、あの鬼ごっこ?」

「ええ、そう」

「どうして?」

「子がいつまでも見つからないからよ」

 それと、鬼はもう飽きたの。

 視線はそのままに、スピーカーから聞こえるクラシックに消されそうなほど小さな声で囁いた。

 まさか高校生にもなって鬼ごっこを手伝わされるなんて。

「いいけど、子って誰なの? クラスメイト?」

 瀬名は何も答えずに、花飾りに触れた。

 オッケイ。これも前者だ。

 僕は聴きなれたクラシックに耳を傾けながら、せっせと弁当箱をつついた。



正門に寄りかかり瀬名を待っていた。

『あなたの自転車を取ってくるわ』と、僕の手から鍵を奪い去ると、駐輪場まで駆けて行った。肩まで伸ばした艶やかな黒髪が、オレンジの夕焼けに染まっていた。


 結局、僕は彼女の手伝いを断らなかった。

 その理由は三つ。

 一つ、瀬名がひどく落ち込んでいるように見えたから。

 二つ、その理由を知りたいって思ったから。

 瀬名とは小学校から一緒で、長い付き合いの歴史を振り返っても、あんな寂しそうな彼女は一度しか見たことがなかった。もしかして、あの日のことと今日の手伝いが何か関係しているのかな。

 そうこう考えていると、瀬名が僕の自転車を押しながら戻ってきた。

「ごめんなさい、少し待たせたかしら」

「全然。さぁ、行こうか」

 荷台に乗るでしょ? と瀬名に尋ねた時に自転車の異変に気付いた。

「あら、どうしたの?」

 固まる僕を彼女が見る。

「早くいきましょうよ」

 相手がどんなリアクションをとるのか楽しみにしている目で。

 ああ、なるほど。

 だから、そんなに笑いたくてうずうずしているのか。


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