御隠れ様
とある怖い話ブログに投稿された話。
「もういいかい。まぁだだよ。もういいかい。まぁだだよ」
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「ねぇ知ってる?御隠れ様の話」
「なにそれ?」
「××神社の裏の祠。そこで、もういいかいと2回唱えるの。まぁだだよ。と2回返ってきたら御隠れ様が来てるって合図。祠の扉を開けると、御隠れ様がいて、何でも願いを叶えてくれるんだって」
これは当時俺が小学生の頃の話。
クラスメイトのYちゃんが俺に声を掛けてきた。Yちゃんとはそこまで仲がいいわけではなかった。
Yちゃんはクラスの中でもミステリアスというか、オカルトな子というか。結構個性が強くて、みんなから避けられがちな子。
だからと言って、シカトするのも人としてどうかと思い俺は聞くだけ聞いてやっていた。あまり興味は無い話。胡散臭いし。
「ふーん。胡散臭いなぁ」
「御隠れ様を見付けたら、みぃつけた。と言わなくちゃいけない。願いを叶えてもらったら、ありがとうございました御隠れ様。とお礼を言わなきゃいけない。私は怖かったけど試してみたよ」
「へぇ。何を願ったの?」
「――が帰ってきますようにって」
「……?ふぅん」
「家から帰ったら、――が帰ってきてたの」
「良かったじゃん」
なんて言ってるか聞き取れなかったけど、誰か(何か?)が帰ってきますようにと願っていたらしい。その誰かが帰ってきてた、と嬉しそうに笑うYちゃんが、少し可愛いなーとか関係ないことを考えてたのを覚えてる。
「御隠れ様、かぁ。意外と本当に叶うんかね。大金持ちなりたいなー」
「なれるんじゃない?願ってみたら?」
まぁ、俺も当日小学生で、Yちゃんの話を聞いて、本当に願いが叶うなら試す価値はある!みたいな。そんな思考に陥っちゃったわけよ。大金持ちになって、一生遊んで暮らす!みたいなね。よくあるやつ。
んで、俺は単純だったから、即実行しようと思って。××神社に行ったわけ。よくよくYちゃんに話を聞いて、手順さえ間違えなければ害はないって話も聞いてたから、いざ実行。
夏だと言うのに少し肌寒かったのを覚えている。
「もういいかい」
「まぁだだよ」
「…もういいかい」
「まぁだだよ」
1回目のもういいかいに、俺より小さな子供の声で返事が来て。内心、本当に来た!ってドキドキバクバク。心臓が痛いくらいに高鳴って。怖かったのを覚えてる。でも願いを叶えるっていう欲には勝てなくて。俺は祠の扉を開ける。祠の中には小さな像。幼いながらにこれが御隠れ様なんだって俺は理解した。
「…みぃつけた」
「見付けてくれて、ありがとう。お願い事を、叶えてあげる」
小さな子供の声。喋り方も小さい子供のもの。異様な雰囲気に俺はチビりそうになりながら、願いを言った。
「……お金持ちになりたい」
「うん。叶えてあげる。代償は?何がいい?」
「代償?」
代償と言う言葉に、背筋が冷えた。そんな話はYちゃんから聞いていなかった。子供ながらに出せる物なんて思い付かなくて、少し泣きそうになったのを覚えている。
御隠れ様は説明するように続けた。
「ただで叶えてもらえるお願いなんてないんだよ。何かお願いを聞いてくれるか、物をくれるかしないと」
「そうなんだ…代償、何を渡せばいいか、わからない」
「じゃあ、私と結婚して。私、寂しかったの」
「結婚…そんな事でいいの?」
「うん。好きな人ができても恋人になんてなれないし、私以外とは結婚できなくなるけどいい?」
「うん」
御隠れ様は、結婚を申し出てきた。俺はまだ幼いからその言葉の重みをよくわかってなかったのね。結婚すればお金が貰えるって思っちゃったんだ。二つ返事でOKしてしまった。その結果未だに恋人いない歴=年齢なんだよね。
ていうかさ、それは全然いいんだ。俺は結婚できなくてもいいって思ってたし。親には悪いけどさ。
俺はそこで気になっちゃったんだよ。Yちゃんのお願いがなんだったのか。
「Yちゃんって知ってる?」
「こないだお願いに来た子だね」
「あの子がしたお願いって、なんだったの?」
「お母さんが帰ってきますようにって」
「あれ?Yちゃんのお母さんって…死んでるって聞いたような…」
「そう。だから代償は重いよって話をしたんだけど…」
「…御隠れ様は何をもらったの?」
「お父さんの命をもらったよ。それの半分をお母さんとして帰してあげた」
「……」
俺はその日から皆と同じように、Yちゃんを無視するようになった。