15幕 『日本屋敷へようこそ』
長い間放置だった分長めです。
ここら辺から『前』のことも出てくるはずです
「ここだよー」
「……………ぇ」
「アリス~?」
「………なに、ここ……」
「だから、お友達の家。」
「……………」
今現在、わたしたちの目の前にあるヴェイン曰く『友達の家』。
………どこからどうみても『家』のレベルじゃないって。
「ん~、とねぇー…ミヤビ曰く、日本屋敷、だってー」
「日本屋敷……」
日本の家って言うのは随分前に本で見たことがある。
あるけどこんな感じじゃなかったはずだけど…
確かもう少し洋風な感じの建物だった気がする
「なんというか………雰囲気にそぐわないね」
「そーお?ここにはない感じで僕は好き、だなぁ~」
「そんなモノなの?」
なんというか、モノは言い様(?)だとつくづく思うね
「……………て、あれ?ヴェイン?」
いない。
目の前の建物を見ると扉が少し開いてる
「は、入っていいのかな?」
半開きの扉を開けて恐る恐る日本屋敷の敷地内に足を踏み入れる
「お邪魔しま~す……」
〓〓〓〓〓
「………なんで?」
「それは俺が聞きてぇよ」
所変わってハーヴとグリフォンは森の中でたまたま偶然遭遇していた
「なんでアリスを探してた筈なのにあんたに会うの?!」
「なんでヴェインを探してた筈なのにお前に会う?!」
「「お前………!」」
「……………やめよう」
「あぁ。不毛だな」
「で?あんたはその方向音痴の足でどこを探してたの?」
「遊びに行くとこっつったら、赤毛のとこだろうよ」
「反対方向だよ!ここ塔!立ち入り禁止の区域!!」
「っ、ここ登ったらヴェインが見えるかもしれないだろ?!」
「見えねぇよ!?」
「見えるかもしれないだろ?!」
「塔の高さなめんな!視力どれだけいいんだよ!!」
「俺の愛レーダーはどこにいようとあいつをキャッチする!」
「…あんた、遂に頭イカれて電波拾う様になった?」
「うるせぇ!もう塔はいい!
ヴェインを見つけにいざ!赤毛の屋敷へ!!」
「そっちは城だ!」
〓〓〓〓〓
「こんにちは~、いる~?」
ヴェインがひょっこりと顔を出すとそこには赤毛の男がいた
男はこれまた紅い『キモノ』というとても珍しい服を着ていた
「お。よぉネムリン。」
「ネムリンじゃないよ~、ヴェインだよー」
「いっつも眠そーにしてんだろーがよ。」
「ん~、否定はしない…」
「それはそうと、ネムリン。お前さん一人で来たのか?」
「ん~ん。アリスと~」
「『アリス』?生きてたのか、あいつ」
「別のアリスだよ~」
「あぁ、別のが来たのか。……ま、そうだわな。
首を斬られて生きてるなんざ、それこそ番人にだって出来やしねぇ
で?アリスがどうしたって?」
「うん。はぐれた」
「そうか。はぐれたのか………って、オイ!はぐれたのかよ?!」
「うん。」
「どこら辺で…?」
「屋敷に入った辺り」
「………。そのアリスの格好、『前』と同じか?」
「……………。色以外は。」
「危ねぇ!………けど、まぁ。アイツらにみつかんねぇ限りは大丈夫だろ……」
「みんなはー…?」
「スズとアンは使いに出してる。カナデは………」
言いかけた所で赤毛の男は見る見ると顔色が悪くなっていく
「……?どうしたのー?」
「アイツ、道場にいるんだった…。
……。………まぁ、大丈夫だろ」
「…そーだねぇ」
「とりあえず『アリス』のこと教えてくれよ。ネムリン」
「うん、とねー。青いリボンで、肌のあんまり見えないの着てて~、かわいくてほわほわで、僕がぎゅ~するとあわあわで逆にぎゅ~されて~」
「待て。待て待て待て待て。
始めはまだいいが後半が分からんのだが…。」
「あー、まだ話途中だよぉ?」
「あ、はい。すんません」
「んでね~、ドランクさんとかグリフォンのお気に入りなんだ~
特にグリフォンはいつもより叩いてたし、ドランクさんもグリフォンに加勢してたし」
ガチャッ
バサバサバサバサッ
すたすたすたすた
「?どこいくのー?」
「道場だ!その『アリス』無事に返さねぇと俺が殺戮狂共に殺される!!」
〓〓〓〓〓
「こんにちは、『アリス』」
「へ?」
名前を呼ばれて振り返ると淡い色の……なんて言ったか、そうだ。『キモノ』だ。を着たとても美人で優しそうな微笑みを浮かべてる人がいた
………けど、その唇からこぼれた言葉は訳の分からない嫌味、皮肉だった
「あなた、まだ生きてたのね。王様が匿ってたのかしら?」
「な、なに……」
「あら?少し印象変わった?流石に大っぴらに歩けないかしら」
何をいっているんだろう。この人は何を言っている?
「……静かね。以前の喧しさはどうしたの?
本当に悔い改めたのかしら?まぁ、そんな事とても信じられないけどね」
突然話しかけられて初対面なのに名前を呼ばれて、それで今は嫌味を言われる
黙っていれば次々に言われる皮肉と嫌味に何かがわたしの中で切れた様な気がした
「突然なに?!何で初対面の人にそんな訳の分からない嫌味事を言われなきゃなんないの?!」
「初対面?訳の分からない?それこそ嫌味ね
あなたが私達に何をしたか覚えていないの?」
「だから!人違いだってば!」
「そんなはず無いじゃない。『アリス』なんて早々いないんだから」
「そんな事知らないよ!」
「もういいわ。結局王様はあなたの事が可愛かったのね。
でも、あなたがいると不快な人が五万といるの。」
そう言ってキモノの女の人は持っていた事に気付かなかった、長い刃物を構えた
「死になさい」
「!! ちょっ、ちょっと!冗談が過ぎない?!」
「冗談?いやね。私はこの手の冗談は嫌いよ
それにこの程度、あなたのして来た事に比べれば可愛いわ」
刃物が振られる
早い。避けられない。
ハーヴ達の所と違って頼れる人もいない
死――――――!
「そこまで。」
声がしたと思うと刃物が鼻先を掠める
髪が少し切れたけどそんな事気にしていられない
心臓がバクバクと大きな音を立てているのがよく分かる
自分が生きていると言う驚きと安心でその場にへたりこんでしまう
「カナデ。おいたが過ぎるぞ」
「ミヤビ…!」
わたしに刃を向けている人の肩を抱いている赤毛の人はいつの間にかそこにいた
「元気なのはいいことだ。
けどカナデ、この嬢さんは殺すな」
そのカナデと呼ばれた人はミヤビと呼ばれた人の腕を振りほどいて掴み掛かる
「なんで?彼女は『アリス』よ!
あなたも『アリス』を嫌悪していたじゃない!それなのになんで彼女を庇うの?!」
「別人だ。お嬢さんはアレとは別の『アリス』だ」
「嘘よ!アリスなんてとても稀で希少なはずよ!『私達』の時に二人も出会うはずは無いわ!!」
「でも事実だ。『前』は死んだんだ。王と女王によって公開処刑で。お前さんも見ただろう」
「違うわ!王様は彼女を可愛がっていたわ!きっと身代わりでもたてたのよ!」
『前のアリス』とか『処刑された』とか訳の分からない言葉が飛び交う
……………分からない。解らないけど、歓迎されていない事だけは分かる。
『わたし』が求められていない事が分かる
二人が言い争っている間にパタパタとヴェインが走って来るのが見えた
「アリス、大丈夫?」
「……………ぁ」
「アリス?」
「……ヴェ…イン………っ」
「は、はぅーっ」
ここぞとばかりにぎゅう、とヴェインを抱き締める
ようやく出会えた見知った顔に涙が出て来た
こわかった。こわかった。こわかった。こわかった。こわかった。こわかった。
どうしようも無くこわかった。
ハートの王様の時よりも
ハーヴの時よりも
あんなに否定されて、あんなに疎まれて
あんなにハッキリと、憎悪を向けられて
もうみんなに会えないかと思った。
文句だっていいたい
何でわたしを置いて行ったの、って
何でわたしばっかりこんな目に会うの、って
でも、今はこれだけでいい。
何も言わずに抱き締めさせてくれるだけで
わたしは、『わたし』なのに。