09幕 『余所者』
「そういえば……さっきから皆わたしの事を余所者って言ってるけど、余所者って珍しいの?」
「いえ?余所者自体は珍しくありませんよ?
現にそこのグリフォンも元は余所者ですからね」
「そうなの?」
「ん?うん。そうだよ?あたしも元は余所者………
………と言ってもあたしがココに来たのは随分小さい頃だからね。
余所者って言うよりむしろココ出身って言う方がしっくりくるけどね」
グリフォンはあはは~と、苦笑しながら頭を掻く
「アリス。余所者は、存在ではなく、『役』が重要なんです」
「やく…?」
「はい。」
サァムさんがちびちびと話してくれる
「『役』…私の場合は〔トカゲ〕彼、白ウサギのほうは〔ハング〕」
「サァム。私の名前と『役』が逆さになってます」
「スミマセン………間違えました」
「嘘です。わざとでしょう」
「本当です。……で、話の続きですが、いかれたお茶会の主催者、ドランクが〔いかれ帽子屋〕
そのお茶会のメンバーが〔三月ウサギ〕のハーヴ。〔眠りネズミ〕のヴェイン、などです」
「はぁ…」
何かソレが『役』に関係あるの?、と思ったけど、母の読んでくれた童話
「不思議の国のアリス……」
「……姿形、行動は違う。でも、『役』によって『個人の価値は決まる』」
「個人の、価値……」
「そう。例えば、ハートの兵士。彼らは、いくら亡くなっても、問題はない。
とても、数の多い役割だから………」
周りを見てみるとハートの城の兵士たちはみんな同じような服装、同じような顔をしていた。
赤いハートのマークの入った服を来た兵士達。
よく見てみるとクラブにダイヤ。スペードなどの服を来た兵士たちがいた
「彼らは『トランプの兵』」
「トランプの、兵…………」
「いくらでも代えのきく存在だから、キングもどんどん首を刎ねているのよ♪」
後ろから明るい声とともに物騒な言葉が聞こえた
「あや。女王回復したんだ?」
「酷いわね!」
「こんにちは、女王。」
「……相変らず汚い色ねぇ~不潔よ?サァム」
「別に。色以外は清潔だから、無問題。です」
「そういう問題じゃあないのー!!もう、これは女王の命令よ!?」
ティーはずびしっと、人差し指をサァムの鼻先に突きつける
サァムは依然して、のけぞりすらしない
「では、ひとつ聞きます。」
「なによ」
「この私に、この灰色以外に何か、他の色が、似合うとでも?」
………………………………………
「……………今回ばかりは謝ります。申し訳ありません。サァム」
「、深緑なら似合いそうだけれど……」
「そう?この人なら赤黒い色が似合うと思ったんだけど?」
「………分かり切った事、ですから。グリフォン。
私は、あなたの色彩感覚なんてあてには、してません、」
グリフォンにさりげなく貶されているようにも聞こえるのだが、無視しているのか気づいていないのか……
そしてサァム自身もさらりとグリフォンに暴言を吐いている
「あはは~嫌だなぁサァムさん!自分に赤が似合うってわかってるんでしょう?
いつでも言ってね~?いつでもこのあたしがサァムさんを血化粧で染めてあげるから」
「そうですか。しかし、私はやられるより、やる方が、好きなので。」
「ふぅ~ん…………」
グリフォンはにっこりと笑っているが額には青筋が浮かんでいる
対するサァムさんは、にっこりと笑っていて特に変わった反応をしない
「アリス、余所者と役のことですが、」
「あ。うん。」
ハングは、他の三人を見事に無視して話を続けた。(ハングってスルースキル高い……?
「この国の人間はほとんど余所者なのです。
彼らは、あちらの世界で何らかの理由があり、この国へと堕ちてきているのです」
「ハング、も?」
「えぇ。私も。」
「…………帰れるの?」
「強く。心の底から願えば。」
「心の、底?」
「一片の迷いもなく。『かえりたい』と。……願えられれば」
ぞくり
目を細め、微笑みながら言うハングにわたしは体中に寒気と恐怖が走った。
(こわ、い……………………)
怖い恐い怖いコワイこわい……!
思わず目を逸らしたくなる。
すぐにこの場から走って逃げたくなった。
でも目が逸らせなかった
足が動かなかった
しばらく時間が止まったような気がした。
そして…
「ア~リ~ス~ッ!!!」
「ぐはっ?!」
「アリス!?」
突然ティーが背中にタックルしてきてべしゃっと、効果音がつきそうな勢いで
わたしはティーもろとも倒れてしまった
「ちょっと女王?!アリス、大丈夫!?」
「大丈夫、じゃ、無い、………」
「ハング、前にいたあなたが支えれば、よかったのに。」
グリフォンは駆け寄ってきてティーをわたしから剥がそうとして、
サァムさんは顔を顰めて(見えないけど)ティーとハングを交互に見比べる
「申し訳ございません。空気を読めない女王陛下の行動など測定できないもので。
アリスを庇う事は疎か、女王陛下をアリスから引き剥がすことすらできませんでした。」
「宰相さん。言い訳になってないし、ちゃっかりと女王を貶してない?」
「そうよハング!不敬罪で首を狩ってしまってもいいの!?
……まぁ、わたくしとしては美しいコレクションがもうひとつ増えて嬉しいのだけれどね」
………………………聞こえない。
何かその可愛い顔から出た言葉はわたしに聞こえなかった。
むしろ聞きたくない……
「……っと、女王陛下。そろそろ職務に戻りましょう」
「え~いやよぉ!わたくしはまだアリスと遊びたりないわ!」
「同じところに住んでいるのですから、いつでも遊ぶことはできるでしょう。」
「仕事もいつでもできるわ!」
「いつもそう言われ、書類が溜まりに溜まっていつもいつも苦労なさるのは女王陛下なのですけど。」
ふぅ、とため息をつきながらも少し嬉しそうな顔をしているのは気のせいでしょう。
気のせいと思いたい。
「仕方がありませんね。すべての書類は陛下に「やるっ。やるわ!」……」
「キングに苦労なんてかけてはいけないわ!
そうねぇ……裁判はすべて死刑よ!後は根性よ根性!」
そう言って走って謁見室から飛び出すティーと、そのティーにハングはため息をつきながら
歩いてティーに着いていく
「出たよ首斬病………」
「兵士達ならまだいいけれど、街で店を営んでいる者たちまではやめて欲しいんですけどね。
私たち料理人の仕事に支障が出る。」
「あたしたちに被害が及ばないだけマシじゃない?」
「我々に被害が及ぶ心配はないです。名前があるのですから」
「…………それもそっか。」
「しかし、仕事に支障が………」
「サァムさんまでハングさんみたいなこと言わないでよ。
堅物はひとりで十分!」
「…それを、彼の前で行ってみれば?」
「遠慮しま~す。そんな事したらにっこり笑いながら黒いオーラを向けられる。」
「彼なら、当然。」
「…………………?アリス?アーリスー?」
グリフォンは呆然としているアリスの顔の前で手を振るが反応はない
「サァムさん……アリスってどうなってんの?」
「おそらく私達の、首切り発言に固まっている、よう……。」
「あらー普通の子ってそういうのに耐性ないからかー」
「まぁ、この国に慣れれば嫌でも、耐性はつくでしょうから。」
「そだね。…ってか、立ったまま気絶するって器用だねぇ~」
「………………ですね」
「しゃーないから客室まで運ぶ?」
「そう、ですね」
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「これで、よし。と。
………………ねぇ、サァムさん。今更だけどさ。」
「はい?」
「何であんたまでついて来てるんですか?」
「見張り、です」
「見張りィ?」
「まだ、あなたの仕事があるので、この後、帽子屋に行かないように。」
「でーっ!信用されてないなぁ、あたし。」
「日々の行いのせい、です」
「日々の行い……ってまだ10回しかサボった事ないでしょうか!」
「10回もやれば、十分です」
「…………それって、洒落?」
「違う。」
「まぁ、ここで騒がしくするのもなんだし、出ようか」
「………」
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グリフォンとサァムは、アリスを寝かしつけた客室から出て、厨房へ行く廊下を歩いた
「耐性はついても、この子にはあたし達みたいにはなってほしくないねぇ~」
「気に入り、ましたか?」
「あたしはね。でもまぁ、『アリス』だし。」
「彼女が『アリス』とは、私達は運が、いいのでしょう」
「可愛い子でよかったなぁ~アレならドランクさんもきっと気に入るね」
「殺戮狂の所へ連れて行く気、で?」
「大丈夫だよ。殺戮狂でも気に入られればいい人だから。」
「……………理解、できない」
「殺人鬼じゃない人には理解できなくていーのっ」
「あなたは違うでしょうに。」
「あ。そっか。
ま、あの子はドランクさんに気に入られるって確信があるからだいじょーぶっ!」
「どこからその、確信が………」
「まぁまぁ、仕事でしょ?早く片付けよ?」
「はいはい。今回も確実に頼みます。」
「仕事は確実に手早く、ね!」
「えぇ。」
「よーし!やる気出てきたぁ!!今日の分をさっさと片付けるよー!」
「あなたは、乗るまでが遅すぎる。」
片腕を突き上げるグリフォンにサァムは持っていたレシピか何かの紙を手渡した。
「いいのいいの!さぁて、キリキリ行きますかぁ~!!」
ギャグが書きたいです・・・・
なぜシリアスチックに・・・・・・
グリフォンはお気に入りのキャラなのでこれから先も出張る可能性が高いです。
明るくハキハキした子って扱い易いんです
ハングさんにちょっとSっ気が見えたのは気のせい・・・じゃないです。きっと。
>>次回『いかれたお茶会へようこそ』