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単発短編

セミの歌 ≪LGMを聴きながら≫

作者: 茅野

(夏になって歌え)を聞いていたら、どうしても蝉の歌の様な気がしてきました。


アンチではないです。ドライブのお供にする程度好きです。


Little Glee Monster 夏になって歌え からイメージして、≪セミの歌 ≫です(苦笑)

 

 七年間、暗いところにいました。


 夏は涼しく、冬は温かい快適な住処でしたが、とても孤独でした。


 夜明け前に、その快適な住処から エッチラオッチラ 出てきて、近場の木に登り、木の表皮のザラザラした所を選んで、必死にしがみつきました。

 天敵である生き物達に見つかる前に、何とか また動ける体にならないといけません。 羽化 するのは、本当に命懸けなのです。



 何故生きなければいけないのか?


 時には悩んだりしますし、本当に楽になる道を選んでしまいたくなることも、勿論あります。

 特に、暗い寂しいところに一人きりでいた七年間は、頻繁にそのような気持ちになりもしました。



 でもね、このアタシに命をくれた 親が、いるわけですよ。


 その親たちも、きっと七年間を孤独に過ごして、ようやく広い世界に出てきた筈で……。

 そして種を残すために、一生懸命残り少ない日々を、命の限り歌い続けたのではないでしょうか。


 アタシたちの一生の中で、青春 といえる様な時間は、本当に短いのです。


 ところで、一つ 質問をしたいのですが、よろしいですか? 唐突に すみません。


 みなさんの生き甲斐って、なんでしょう?


 お仕事でしょうか。

 それとも、お勉強?

 あるいは 余暇を楽しむ為の、趣味でしょうか。


 いえ、何だって良いと思うのです。

 絵を描くこと、本を読むこと、歌うこと。

 お子さん、お孫さんの成長を楽しみにされているのだって、素晴らしい生き甲斐でしょう。

 スポーツで自分を鍛えるのも、チャレンジして優勝や入賞を目指すのも。

 勿論、恋愛だって素敵だと思います。


 生き甲斐というのは、人それぞれ違って当たり前ですから、文句を言いたい訳ではないのです。


 ただ、羨ましい様な気はいたします。


 本当に、人 には生き甲斐のレパートリーも多くおありで、何でもお選びになれますし、何より 自由 でございますよね。


 引き比べて、アタシたちセミは、大人になったとたんに歌を歌います。

 それが、それだけが、生き甲斐と言っても良いと思うのですが……。



 歌うときに使う腹筋に、アタシたちは自信がありますよ。

 大きな声でございましょ?


 アタシたちの、声の出し方ですか?

 自信があると言ったからには、ご説明させていただきます。


 乾いた羽を振るわせて、お腹を擦りまして音を出します。


 ミンミンミン!とか、ツクツクホーシ!とか、カナカナカナカナカナ!とか。聞き覚え、ございますよね。


 さらに、お腹の中に空気がはいったところがありまして、そこの筋肉を振るわせて ですね、 ここが他の歌虫たちと少し違うところなのですが 振動させて共鳴させて、もっと もっと大きな声を出すのですよ。


 歌うために 生まれてきたみたいでしょう、アタシたち。 体が歌い続けられる用になっておりますから。

 つまりは、命の限り歌うことが、恐らく アタシたちの使命なのでしょう。



 たとえ短い生涯でも、バトンを受け取ったのなら、次のモノに渡さないとならない。

 少なくとも、それを目指さなければならない。


 不思議ですね。何かどこかに刻まれているのですね。意思とは関係のないところで。

 結果的に 種を残すことに繋がるのですが、先ずは歌がないと始まらないのです。


 アタシの歌も、聞いて貰えるのでしょうかね。何処かで。


 観客が居なければ、意味がないのです。命を懸けて歌う意味も失くなってしまうのです。


 お相手が見付からなければ、見付けてもらえなければ、命はそのまま、散っていくだけなのですから。


 何か、くどくなってしまいまして、すみません。


 暗いところで過ごした七年間も、尽きる前に お相手と無事 出会いたいっていう夢も、不確かなものだと感じます。


 ですから、アタシたちにとっては 生き甲斐も歌。 残すモノも歌。

 歌は、私たちの命そのものなのです。


 毎年、同じ歌が聞こえてくるでしょう?

 でも、その同じ歌を歌っているモノの中に、去年と同じ命を持っているモノは、一つ足りとも残されていないのです。

 毎年、新しい命達が、去年と同じ歌を歌っているのです。


 だから、それをアタシたちは、未来と呼ぶのです。



 でも、自分の命が尽きた後の未来なんて、それこそ 幻 ですよねぇ……。



 太陽が登り切りました。 アタシの羽も、ようやく乾いてきたようです。

 ここよりも もっと高い所の方が、声が遠くまで届けやすいでしょうか。

 葉っぱの影になる所の方が、安心して歌えそうですね。



 そうです。アタシは七年間、生きてきました。

 そして、無事に地面の上へと這い上がって来られました。

 仲間の中には、七年の間に地表がコンクリートになってしまって、あそこから出てこられないモノだっているらしいのです。


 でも、アタシは出て来ることが出来た。


 羽も乾いた。 声も出せる。

 そして、飛ぶことも出来る。



 残り少ない日々を、思う存分、歌って生きようと思います。


 長い一人語りを聞いていただいたこと、感謝します!


 では、これで失礼いたします。

ありがとうございました。

何か語りたいことがございましたら、是非、感想などで残してください。

お話しましょうw

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