くろもけけっ
こうじろうは、うまれてからなんねんかたったので、もうあかちゃんではありません。
じぶんで、ふくをきて、トイレへいって、ごはんがたべられます。
じぶんひとりで、なんでもできる、と、いつもおもっています。でも、なんだか、きょうは、つまらそうなかおをしています。
「こうじろう、はやくきがえなさい。」
こうじろうが、つまらそうなかおをしていても、おかあさんはおかまいなしでこえをかけます。
おかあさんは、つまらそうなかおを、しているげんいんを、しっているからです。
「こうじろう、といれのでんきけしてない。」
「こうじろう、すいどう、だしっぱなし!」
おかあさんが、ひとこえかけるたびにこうじろうのほっぺがふくれていきます。
ほら、まるでカエルさんみたい。
「こうじろう、はをみがきなさい。はやくしないと、おむかえバスがきちゃうよ。」
こうじろうは、おかあさんを、うるさい!とおもいましたが、うるさいがことばにならなかったので、わざとはをみがきませんでした。
あさごはんをたべて、わざと、ようちえんのスモッグで、くちのまわりのたべカスをグイッと、とくいげにふいてみせました。
「やだっ!きたないな~!だめじゃない!そんなところでふかないで!」
こうじろうは、おかあさんにおこられましたが、おこってまゆげがたれさがった、おかあさんのかおをみると、なぜか、すこしきぶんがよくなりました。
「こうじろう、ひろってきたガラクタすてたの、まだおこってるの?」
おかあさんは、おこりながらおさらをかたづけます。
うん、そうだよ!あれは、ガラクタなんかじゃないもん!
ゴシゴシして、サビサビなのを、ピカピカにするんだったんだから!
こうじろうは、そう、こころのなかでさけびましたが、なぜか、それはことばになりませんでした。
また、ぶすっ、とふくれてしたをむきました。
「いつもきたないものを、おへやにいれないでっていってるじゃない。それをこうじろうが、だまってかくしてたからでしょ。」
こうじろうは、なんども、きたなくない!ガラクタじゃない!うるさい!とおもいましたが、どうしてもことばにはなりませんでした。
しばらく、したをむいているうちに、おとうさんが、まぁまぁ、といいながら、かいしゃへでかけ、おむかえバスがやってきました。
こうじろうは、ようちえんにつきました。いつもなら、すぐにあそびにでていくのですが、きょうは、なんだかおもしろくありませんでした。
ボンッ!!
サッカーボールが、おおきなおとをたててて、こうじろうのせなかにおもいきっりぶつかりました。
ふりかえると、ともだちのゆうすけが、キシシシシッとわらいながら、てをふっています。
ゆうすけは、わらっていますが、こうじろうは、ぐぅ~~~~~っとはらがたってきました。
コロコロと、あしもとに、ころがっていたサッカーボールを、おもいっきりけりました。
バシン!!
おおきなおとをたてて、サッカーボールがぶつかったのは、こうじろうが、だいすきな、りなちゃんでした。
しかも、サッカーボールはいきおいよく、ストレートにりなちゃんのかおのまんなかにゴールをきめてしまいました。
わぁあ~~~~ん!わぁあ~~~~ん!
りなちゃんは、はなぢをながしておおなきです。
りなちゃん!ごめんね!
こうじろうは、すぐにあやまろうとしました。
でも、どうしても、ことばがでてきません。りなちゃんのすもっぐが、まっかになっているのをみて、こわくなってしまったからです。
まわりのおともだちが、せんせいをよんできました。
「あらあら、たいへん。」
せんせいは、あわててりなちゃんをかかえてつれていきました。
のこったせんせいが、どうして、こんなことになったのかききました。
みんな、くちぐちにこうじろうが、やったんだといいました。
「だめじゃない。こうじろう。りなちゃんにごめんなさいはしたの?」
また、みんながくちぐちに、まだーまだー、といいつけます。
「ちがうもん!ゆうすけが!ボールぶつけてきたんだもん!ゆうすけがわるいんだ!」
さっき、ごめんねをいうつもりだったのに、こえにでませんでした。
なのに、いうつもりのなかったことが、おおきなこえで、くちからでてきます。
こうじろうは、じぶんのこえにおどろきました。
せんせいは、けさのおかあさんとおなじような、まゆげのさがったかおをしました。
おかあさんのときは、きぶんがよかったのですが、いまは、ぜんぜん、きぶんがよくなりません。
じぶんもないてしまいそうです。
「こうじろう、ぼーるは、かってにうごかないよね?」
せんせいは、こうじろうのかおを、じっとみています。
だって、さいしょに、ぼーるをぶつけられたのはじぶんで、けったのはゆうすけで、ゆうすけに、ぶつけようとおもってて、でも、ぶつかったのはりなちゃんで。
せんせいに、どうしてりなちゃんに、ボールがぶつかったのか、せつめいようとしました。
でも、いっしょうけんめいことばに、しようとしてもできませんでした。
「わざとじゃないもん!!!」
いっしょうけんめいかんがえたのに、さいごにこうじろうのくちからでてきたことばは、ごめんなさいでは、ありませんでした。
なぜか、いいたくなかったことばは、いつもよりもおおきなこえになりました。
せんせいの、たれさがっていた、まゆげがぐっとつりあがります。
「こうじろうは、もう、ようちえんに、こないくていいです。」
そういったきり、ぷいっとせなかをむけて、あるいていきました。
いつも、やさしいせんせいが、とってもおこっているのがわかります。
りなちゃんに、けがをさせたから。でも、あれは、ゆうすけが、、、、こうじろうのめから、じわっとなみだがにじみます。
「ようちえんなんか、もうこない!!みんな、しんじゃえ!!!!」
なみだといっしょに、くちからとびでたことばは、おおきなどなりごえになりました。
さみしいきもちとは、まったく、はんたいのことばが、くちからでてきました。
せんせいも、おともだちも、ゆうすけも、みんなおどろいてこうじろうをみています。
こうじろうは、そのなかを、いそいではしりぬけて、そのままようちえんのそとに、とびだしました。
うしろで、せんせいやおともだちが、よんでいましたが、ぜったいにとまりませんでした。
こうじろうは、はしってちかくのおがわに、つきました。そこにはえている、くさやはなをわざとブチブチと、おとをたててむしりました。
「おかあさんのばか、まいにち、うるさい!なんでも、すてるな!!ゴミじゃない!!」
むしりおわると、また、はしりだしました。
つぎは、おがわのちかくのいけに、つきました。そこでは、てあたりしだいに、いけのなかにいしをボチャンボチャンと、なげこみました。
「ゆうすけのばか!おまえがわるいんだ!」
おおきいいしも、ちいさいいしも、ぜんぶなげこんでしまうと、また、はしりだしました。
こんどは、いけのちかくの、はやしをとおりぬけます。そこでは、てのとどくかぎりの、きのえだを、ポキポキとおって、とおります。
「せんせいのばか!みんなのばか!わざとじゃないのに!」
えだをおって、とおりぬけて、また、しばらく、はしっていきました。
しばらくはしると、おじぞうさまのほこらのある、いわやへつきました。
いわやのうらに、ゆうすけと、つくったひみつきちがあるので、そこで、しばらく、くらそうとかんがえていました。
ふと、ほこらをみると、にっこりとわらった、おじぞうさまのかおが、みえました。
こうじろうは、なんだか、こわくなりました。でも、すぐに、わらったかおに、はらがたってきました。
「なにがおかしいんだ!!ついでだ、ばーか!!」
シャーーー、シピーシピー。
こうじろうは、おじぞうさまにむかって、たちしょんをしてしまいました。
そのまま、フン!!とはなをならすと、ドスンドスンとあしをならして、ひみつきちにむかいました。
「みーんな、いなくなっちゃやいいんだー。」
こうじろうは、また、ふん!とはなをならして、ひみつきちのなかに、ドスンとすわりました。
そして、ぼんやりと、りなちゃんのなきがおを、おもいだしながらねむってしまいました。
こうじろうが、めをさますと、あたりはうすぐらく、ゆうがたになっているようでした。
ゆっくりとおきあがると、おなかがぐぅとなりました。いわやのまわりを、みまわしても、たべられそうなものはありません。
「しかたがないから、いえにかえってやる。」
いえにむかって、あるきはじめると、うすくらがりのみちが、どんどん、くらくなってゆきました。
くらくなるまで、いえにかえらなかったら、おかあさんにおこられます。
きょうも、また、おこられるかなと、おもいながら、いえにかえりました。
こうじろうが、いえにつくと、だれもいません。それどころか、でんきもついていません。
いえにはいって、でんきのすいっちを、なんどもパチパチましたが、でんきはつきませんでした。
テレビもスイッチをいれてみましたが、つきませんでした。
「そうだ!」
こうじろうは、あわててそとへとびだしました。ゆうすけのおうちに、いけばだれかいるかもしれないと、おもいました。
いそいで、ゆうすけのおうちにいって、げんかんのドアをおもいっきり、たたきました。
「ゆうすけ!ゆうすけ!」
てがいたくなるほど、ドンドンとドアをたたきましたが、だれもでてきませんでした。
こうじろうのめに、ジワッとなみだが、にじんできました。
しかたないので、いえにかえろうとして、うしろをふりむくと、どこのいえにも、あかりがついていないことにきがつきました。
「でんきがついてない!」
もちろん、ゆうすけのおうちにも、でんきはついていませんでした。
こうじろうは、こわくなって、きんじょのおうちのドアを、てあたりしだい、たたいてまわりました。
「だれかいませんか!だれかいませんか!」
そのうちに、どんどんとくらくなってきて、つきあかりだけが、あたりをてらすようになりました。
こうじろう、こわごわ、じぶんのうちにもどりました。
「そうだ!おばあちゃんにでんわを、しよう!」
くらがりのなかを、てさぐりで、でんわをかけました。でも、でんわは、ツーツーツーと、なるだけで、どこにもかかりませんでした。
こうじろうは、ようちえんにいってみようと、おもいました。でも、せんせいが『こなくていいです』といっていたのを、おもいだしました。
しぜんに、ポロポロとおおつぶのなみだが、こぼれて、ゆかにポタポタとおちました。
なみだを、スモッグのそででふくと、あさごはんのケチャップのにおいがしました。
こうじろうは、おかあさんのかおをおもいだして、きゅうにわるいことをした、きぶんに、なりました。
いなくなっちゃった?みんな?もうだれにもあえない?
ぼんやりと、でんわのまえでくらがりをみつめていると、くらがりよりもくらい、クロいモケモケしたものが、くらいところからワサッワッサッとわきでてきます。
クロいモケモケは、クニョクニョとうごき、プッ、プッと、あちこちに、ちいさなクロいモケモケを、はきだしていきます。
はきだされた、ちいさなクロモケは、すぐにクニョクニョとおおきくなって、いろんなものを、ドンドンクロくしていきます。
みているうちに、こうじろうのすぐそばまで、クロいモケモケがやってきたので、ころがるように、いえのそとにでました。
そとにでると、あちこちにクロいモケモケがいて、ドンドンふえていっています。
「ああ。」
こうじろうは、クロいモケモケに、おいかけられるように、はしりだしました。
そのあいだも、クロモケはふえつづけて、クロいっしょくにぬりつぶしていきます。
「みんないなくなれ!なんて、いったせいだ。」
こうじろうは、どんどん、はしります。そのあとを、おいかけるように、クロモケがひろがります。
ベチャリ!こうじろうは、こけました。
めのまえに、ひるまむしった、くさやはながちらばっています。なみだといっしょに、はなみずがでました。
「ごめんなさい。おかあさんもごめん。」
たちあがって、スモッグのそでで、はなみずをふいて、また、はしりました。はしらないと、クロモケが、ドンドンおいかけてきます。
べちゃり!また、こうじろうはこけました。
ひるまにいしをなげこんだ、いけはクロモケでいっぱいになっています。また、なみだとはなみずが、たれてきました。
「ごめんなさい。ゆうすけもごめん。」
また、たちあがりましたが、スモッグのそでで、なにもふきませんでした。たれたはなみずとなみだが、くちのなかにひろがります。しょっぱい。どんどん、はいってきましたが、こうじろうはそのままにして、また、クロモケにおわれるように、はしりだしました。
ピシャリ!ベチャ!また、こうじろうはこけました。
かおになにか、あたったのでころんだまま、みあげると、ひるまにへしおったえだが、ぶらさがったままになっていました。
なみだとはなみずが、いちどたれて、カピカピになった、ほっぺたのうえに、さらにたれてきました。
「ごめんなさい。せんせいもごめん、みんなもごめんよぉ~。」
おいおい、ないたまま、たちあがって、ないたたまま、またはしりだしました。
しばらく、はしると、おじそうさまのほこらがある、いわやにつきました。
なかをのぞくと、おじぞうさまは、おこったかおをしたまま、クロモケにくわれているとちゅうでした。
「ごめんなさい!ばかはぼくです!みんながしぬなら、ぼくもしにます!ごめんなさい!」
こうじろうは、おおきなこえで、ほんとうにおもったことをいいました。
でも、そのあいだも、クロモケはどんどんおおきくなって、じぶんも、おじぞうさまも、ぜんぶをクロくのみこもうとしていました。
「おい!こうじろう」
ユサユサと、だれかがゆさぶります。こうじろうは、ハッとめをさましました。
めのまえに、ゆうすけがいます。でも、それいがいは、まっくらです。
「あ、どうしよう!ゆうすけ、だれもいないんだ。クロモケがぜんぶたべちゃった!」
「クロモケ?」
くびをかしげる、ゆうすけのうしろに、うっすらと、いわやのほこらがみえました。
ゆっくりと、ひみつきちからでると、あたりはふつうのゆうがたで、がいとうがポツリポツリと、ひかってみえました。
「こうじろうのおかあさんもせんせいも、ほかのおとなも、すっげー、さがしてる、かえろ。」
ゆうすけが、てをさしだします。
「うん。」
こうじろうは、だまってゆうすけと、てをつなぎました。
「きょう、ごめんな。せなかにボールぶつけて。」
「うん。」
ふたりで、かえろうとしましたが、こうじろうは、きゅうにほこらにひきかえして、おじぞうさまに、ごめんなさいとあやまりました。
ゆうすけが、ふしぎなかおをしたので、おじぞうさまにたちしょんをしたことをうちあけました。
ゆうすけはあおいかおで、じぶんのズボンのまえを、てでをおさえました。
「チンチンはれあがるって、ばあちゃんがいってたぞ。おれも、あやまっといてやるよ。」
ゆうすけも、いっしょにおじぞうさまに、あやまってくれました。
「きょう、ゆうすけが、わるいっていってごめんね。」
「うん。」
いえにかえった、こうじろうは、おかあさんにさんざんおこられて、かえってきたおとうさんに、げんこつをもらいました。
でも、おかあさんとおとうさんは、いっしょにこうじろうをさがしてくれた、きんじょのひとに、なんどもおわびやおれいをいって、あたまをさげています。
おこられるのもげんこつも、しかたないとおもいました。
つぎのひ、ようちえんで、りなちゃんとせんせいに、あやまりました。
せんせいはわらって、まいにちようちえんに、きてよろしいといってくれました。
でも、りなちゃんは、きょうからはモトカレよ!ディブイのカレシなんかいらないわ!と、おこったままでした。
ちょっと、かなしかったけど、だれもいなってしまうより、はるかにましです。
ゆめでも、あんなこわいのは、にどとごめんだと、こうじろうはおもいました。
あれから、しばらく、はれあがるんじゃないかと、こうじろうはおふろのときやトイレのときに、パンツのなかをのぞきこんでひとりでドキドキしていました。
でも、おじぞうさまは、バチをあてないでおいてくれたみたいです。
ゆうすけがいっしょにあやまってくれたからかな。と、こうじろうはこころのなかでおもっています。
そして、いつのまにか、なんでもひとりでできる、とおもうことはなくなりました。
なぜかはわからないけど、きぶんがいいので、そのままりゆうはかんがえていません。
ずいぶん前に書いた童話です。データ整理で出てきました。
文章供養ということで公開いたします。(権利は手放しませんよ)
お楽しみいただければ幸いです。