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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

テンパったAランク剣士は、咄嗟にオカマになる

作者: 咲夜

踊り子さんは男嫌い!の続き(?)です。長くなってしまいましたが、それでも良いよー!という心の広い方のみお読み下さい。

 

 噂だけは知っていた。

 今時珍しい踊り子が、Bランクで既に二つ名を与えられたが、男嫌い故にソロで活動している、と。

 その彼女の、わずかに伏せられた桃色がかった紫の瞳に。

 複雑な踊りを難なく熟す、しなやかな身体に。

 そこらへんのぺーぺー剣士顔負けの鋭い剣閃に。

 あれだけ動きながら間違える事なく呪文を唱える、淡く色づく唇に。

 その全てに、魅せられた。




 私ことイーニアスが紫桃の剣姫にひと目で堕ちたのは、Aランクに上がる少し前のこと。

 少し前からキナ臭い動きをしていたオーク達がある日、突然徒党を組んで街に向って来た。

 普段、知能が低く群れる事など殆どしないオークが群れを成し、自らの意思で街に向かう珍事に、ギルドから緊急招集がかかった。

 オーク単体の依頼ランクはCだが普段と状況が違う為、パーティーとかソロとか関係なく、必ず複数での行動が課せられた。

 回復に特化したクレリックやプリースト、防御結界術に特化したガーディアン(Cランク以下)は一般人の避難誘導に。

 後方支援のアーチャー、魔術師は街の外壁から通信士を通して前衛の援護を。

 その他のジョブの者は皆、Sランクガーディアンが守る街の門に近づかんとするオークを蹴散らす為、外へと向かって行った。



 「くそっ!一体いくついるんだ!!」


 「倒しても倒しても、埒があかん!」


 次から次へと湧いて出るオークに、皆の疲労が溜まり士気が下がる。

 まるで終わりの見えない悪夢の中に居るような感覚だった。

 戦い過ぎて疲れているのに、少しでも気を抜けば待つのは死。

 

「······っイーニアス!後ろだ!!」


「···っ!?」


 死角から不意をつかれて振り降ろされたメイスを辛うじて愛剣で受け止めるも徐々に圧され初めた、その時。


 シャララン シャラシャララン シャンッ


 重苦しい空気の渦巻く戦場に似合わぬ、軽やかな鈴の音が聴こえた。

 そして、


 ザシュッ


「ーっ!!」


 目の前に迫っていたオークの頭が、宙に跳んだ。

 鍔迫り合いをしていた私は、急に抜けた力にバランスを崩して膝を着いた。


 鈴の音は尚も続く。


 シャラン キンッ シャラシャララ ザシュッ キンッ


 時折、剣を打ち鳴らす音、斬りつける音が鈴の曲に交ざる。

 細くしなやかな身体を全身で動かし、器用に双剣を操り舞いながらオークを次々と切り伏せる女性の出現に、誰もが呆然として、目を奪われた。


「戦場を翔る猛き戦女神よ 勇猛な汝のや声を皆に スルーズヒルドフリスト!」


 彼女が胸の前に構えた左剣に、右剣を滑らせ高く剣を掲げた瞬間、身体から闘志が湧いた。

 それは私だけでなく、周りにいた皆も同じなのか、先程の沈みが嘘のように猛り声を上げている。

 続いて彼女は剣をしまうと、腰に巻いていた薄布を解き、たおやかな手で操り始めた。


 リィン シャラン リィン リィィン


 薄布がヒラリヒラリと翻り、端に付いた小さなハーモニーボールが優しい音を奏でる。


「心優しき慈愛の女神 たおやかな癒やしの手を皆に エイルファナシア」


 彼女が、ふわりと宙に薄布を放ち両手を掲げた瞬間、身体が軽くなる。

 どうやら、疲労回復の舞らしい。

 これならば戦える!と皆がいきり立って突っ走って行く後ろ姿を見つめる優しい紫桃の瞳が、やけに脳裏に焼き付いた。




 そして無事騒ぎが終息した後、彼女が紫桃の剣姫だと知ったのだが、同時にパーティーを組まないという話も聞き、お近付きになる術なく、またギルドで会うこともなく月日が流れー。

 依頼達成後の酒盛りを友人としていた所に、偶然にも彼女が現れた。


「おい、あれ。お前の愛しのミーシャちゃんじゃねぇ?何かパーティーといるけど」


「本当か!?またパーティーを組む気になったんだろうか」


 喜ばしい事だが、それはそれで声が掛けにくい。しかも男嫌いなら尚更だ。

 何とか穏便に。かつ、彼女を怖がらせずに引き抜く事は出来ないかと頭を悩ませている内に、雲行きが怪しくなる。


「ちょっとアレ。マズイんじゃねーの?ミーシャちゃん、完全にオコだぞ」


「っ!!行ってくる!」


 彼女の瞳が怒りに煌めいたのを見て、私は何も考えずに飛び出した。

 今にも引き抜かれそうな剣の柄を押さえ、内心テンパっていた私は。


「はい、ストップ」


「店内で抜刀はダメよ。やるなら外でやって頂戴。せっかくの美味しいお酒が台無しになっちゃうわ」

 

 何故か、オカマ口調で話していた。

 視界の隅で、友人がテーブルに突っ伏して肩を震わせているのが見える。

 アイツは後で絞める事にして···、どうする。

 口調を元に戻すか?

 だが、それはかなり怪しいだろう。

 一度口にしてしまったものは、取り返しが付かない。


 ······このまま、オカマを演じるしかない!!


 そう決めた私は、2つ下の妹を参考になんとかオカマを演じきり、更には勢いで彼女をパーティーに引き抜いていた。

 

なんだかんだで、結果オーライである。





 











 

 

 






 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] |器用に両手剣を操り舞いながらオークを次々と切り伏せる |彼女が胸の前に構えた左剣に、右剣を滑らせ高く剣を掲げた瞬間、 右手と左手に一つずつ剣を持っているなら、『双剣』ではないかと思うの…
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