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法界悋気。

「アラフ・レジャーラン」はユラシアと同様、マリオンと友人関係にあった男だ。


普段は全く喋らず、行動選択は本を読んでいるか好きな花を手入れしているかの二択。


見た目は背が高いが少し猫背気味で、一部の人達にはその威圧感で怖がられていた。

たが実際の性格はとても温厚で彼が怒った姿は一度も見た事がない。


真っ黒な髪と瞳を持ち、服も黒系統のものを好んで着ていた彼を人々は「黒の主」と密かに呼んでいた。


そんな寡黙な彼も好きな花の話であれば別で、花が好きだったマリオンとずっと花の話をしていた。



「雪音が描くこの子はいつも笑顔だな。泣く姿とかは描かないのか?普段は色々な表情をもっと描いているじゃないか」

「んー…描きたくないんだよねぇ。その子の絵は笑顔限定なんだー」

「笑顔限定?」

「嫌なんだぁ…物凄く嫌ー。その子が泣いてる姿を描くのはねぇ。だからデビュー作も違う女の子で描いたのー」



それは前世の記憶が関係あるから?とは聞けない。自分から正体を明かす事になる。


紙に描かれたマリオンは「あの子」が現れる前までの明るく幸せそうな時のままで時間が止まっていた。



(本当に厄介な記憶だな…苦しい思いを思い出す度に気持ち悪くなる。)



紙を机に置いて本来の目的であったネームを確認すると、雪音が言っていた通り珍しく順調に進んでいた。



「また一週間後に来る。部屋、散らかすなよ」

「もう行っちゃうのー?早くなーい?」

「私もまだ会社に仕事が残って「きーちゃんさぁ」……何だ」



立っていた私の腰にソファーに座っていた雪音の腕が絡み付く。


前世でも思ったがこいつはスキンシップが多い。

アラフの時も無駄にくっついて来られた時のマリオンのドキドキを返せ。


彼女は純情乙女だったんだからな。


私の場合はもうこのくらいではキュンともスンとも心臓が鳴らない。



「またか。今度は何に心がやられたんだ」

「今日は違うー…ただ甘えたかっただーけ。俺だって嫉妬くらいするんですぅ」

「誰に嫉妬するんだ。まさか…轟君か?」

「むーん…きーちゃんは俺の担当なのに、知らない間にワンコロと仲良くなってるとかー何それ嫌だぁ」



定期的に雪音は漫画のネタが浮かばなかったり、気分が晴れないと心がやられたと言って落ち込み期に入る。


そうすると抱き着くなどのスキンシップをしてくるが今回は嫉妬?しかも轟君?はぁ?


お腹にグリグリと頭を擦り付けてくる雪音のフワフワした髪を眺めてから思わず溜め息。



「ワンコロとは轟君の事か?」

「当たり前ー。あんなにきーちゃんになついてる姿見たらそう呼ぶしかないじゃーん」

「…やはり轟君はそうなんだな」



この様子だと彼らはお互いにまだ前世の記憶を持っているという事に気付いてなさそうだ。


もし彼らがその事に気付いてしまった時は絶対に面倒な事になる。彼らがこれからあまり会わないように願うしかない。



引っ付いていた雪音を剥がして、不機嫌な様子の雪音の頭を優しく撫でた。


こうなった雪音には頭を撫でるのが一番効く。



「はぁ…別に嫉妬なんてしなくても大丈夫だ。轟君は私の事を母親だと思っているだけだ」

「ふーん、母親ねー………って母親ぁ?」

「そうだ。心配しなくても変わらずに時々は夕飯も作ってやるし掃除もしてやる」

「いやー…そうじゃなくてぇ…」

「健康第一だからな。安心してこのままネームを続行してくれ。じゃあまたな」

「え、嘘?!ちょ、きーちゃん?!」



雪音がまだ何か言っていたが扉を閉めて、気にせずマンションを後にする。


私と轟君の仲が良さそうに見えた雪音は私がもう夕飯作りや掃除をしなくなり、サボると思ったのだろう。


サボるなんか言語道断だ。


私がやらなかったら雪音の部屋が大変な事になってしまう。関わるのは癪だが担当編集者として大事な漫画家を見過ごす事は出来ない。



「嫉妬とは案外可愛…ゴホン。ふん、子どもっぽいにも程がある」



一週間後にまた雪音のマンションに来る事を忘れないように手帳に記入し、雪音の携帯にもメールを送った。


ついでに忘れているであろう〆切の日付もな。

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