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古往今来。

五年前に突如と現れた新星。


名雪 ノエルの描く漫画は繊細なタッチと魅力溢れる登場人物、心揺さぶる台詞など多くの読者達に絶大な人気を誇っている。


新刊が出れば重版は確実で、彼の漫画を映画化、アニメ化、ドラマ化をすればそれらは全て大成功を収めた。


そんな彼を世間は少女漫画界の神と呼んでいる。



「取り敢えず、これ原稿ねぇ。あ、そーだ。ねーねー今からお昼食べに行こ。俺、ラーメンが良いなぁ…きーちゃんはー?」

「待て待て待て。勝手に話を進めるな…雪音、話していたネームの方は順調なのか?」

「バッチリだよん。だから、ね?息抜きしたいから行こーよう」



私の手を引っ張って催促してくるマイペースをかき集めたようなこの男。


ネームがバッチリだという言葉は少し不安だが…ここで昼食を断ったら駄々をこねるのは目に見えていた。



(昼食を食べ終わったら雪音のマンションに直行してネームの確認………ん?)



体を後ろから引っ張られるとトンと背中に当たる広い胸板。


突然の事に反応しきれなかったが…何でだ。


少し上を見上げれば何故か爽やかで真っ黒という器用な笑顔を雪音に向けていた轟君。


一応聞こうか。何をしてんだ君。



「四月から少女漫画編集部に勤める事になりました轟 羽月です。すみません、稀世先輩との昼食はもう先約済みです」

「新入社員君ー?ふーん…俺、天ヶ瀬 雪音。男の嫉妬は見苦しいよん」

「構いませんよ。何事にも全力投球が俺のモットーなんで」

「あはー。暑苦しーそれー」



寒い…物凄く寒い。


私を母親と思っているのであろう轟君と担当漫画家という名の問題児の二人の子どもが目の前で喧嘩してる。


呆れていると周りがやけにザワザワしていたのに漸く気付いた。ん?何か注目されてる?


……………………しまった。


二人の顔を見るとそこにはイケメンが。

顔面偏差値が異常に高い彼らはいるだけで注目を集めてしまう。失念だった。


特にこの場で雪音が注目される事は避けたい。


彼は男という事を隠して少女漫画を描いている謎多き人気漫画家としても有名なのだ。

社内でも名雪 ノエルが天ヶ瀬 雪音と知っているのは極僅か。


最近では名雪 ノエルは超美女で恥ずかしがり屋さんだろうと噂されている。この男が超美女の恥ずかしがり屋さんとはウケるとしか言い様がない。



「あーったく、皆で食べれば良いだろう」

「待ってよー。きーちゃん、歩くの早ーい」

「うぅ…稀世先輩との昼食が…」

「残念でしたー」

「てめぇ…」

「キャラが変わってるぞ轟君」



どうやら彼らは相当合わないらしい。


確か前世でも彼らはよく喧嘩をしていた。

やはり生まれ変わっても合わないものは合わないのだな。


自分の事を「僕」と言っていた爽やかな犬は狂犬へと変貌、それを面白がっている雪音の頭を私は叩いた。



「ラーメンうまぁ。おっちゃん、おかわりー」

「天ヶ瀬さんまだ食うんですか?!もう三杯目ですよ?!」

「雪音の胃は宇宙なんだよ。前は寿司を百皿食べていた恐ろしい奴さ」

「百皿?!こんなに細いのに…」

「俺、食べても全然太らないし筋肉もつきにくいんだよねー」



そういう奴の事を女の敵と言う。


食べても食べても太らないとか…人生で一度は言ってみたい言葉。神様は不公平だ。


名雪が五杯目のラーメンを食べ終わっても腹八分目と言っていたが私達の昼休憩時間もそろそろ終わりそうなので強制終了。


ラーメン屋の店主がほっとしていた。



「轟君、この原稿を私のデスクの中に入れておいてくれ。私はこのまま雪音のネームを見に行くから頼んだ」

「俺も…と言いたいところですが分かりました…天ヶ瀬さん、何かしたら許しませんからね」

「はいはい。心配ご無用だよー俺ってば超紳士だからねん」

「…」

「何だいその疑った目はー。酷いなぁ」



私達を気にしながらも会社へと帰って行った轟君、この二人が会う時は要注意だ。


雪音のマンションに行くと相変わらず片付けが出来ていない部屋。アシスタントが来る前は私が手伝って綺麗にしているが、暫く間を空けているとこの通り。


洗濯物は散らかり放題、漫画に使う資料も積み上がり、雪音の片付けの下手さが窺える。



「えーっと、どこだったかなーここだったかなーんーと…あった!これこれー!」

「ネームの他にも何かあるのか?」

「うん!久しぶりにこの子が描きたくなって描いてみたんだーどう?懐かしいでしょー?」

「…!あ、あぁ。懐かしいな」



雪音が見せてきた絵には一人の少女の絵が描かれていた。


その少女の絵で私は雪音を前世の記憶を持つ生まれ変わりだと知った。



(本当に…懐かしい姿だ。)



微笑みを浮かべた少女、それは前世の私。


マリオンだった時の私の姿だった。

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