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【轟 羽月視点01】

少女漫画には格好良いヒーローと可愛いヒロインが必ず登場して、最後は必ずハッピーエンド。


それが少女漫画の鉄則。




小学五年の時に姉貴に勧められ、暇潰しで読んでみたらいつの間にか少女漫画にどっぷりハマっていた俺。



「お前、何で男のくせに少女漫画なんて読んでんだよ!ダッセー!!」

「…」

「おい!聞いてんのか?!」

「るせぇな。今、感動的な場面だから黙っててくれる?ウザイ。邪魔。ウザイ」

「二回もウザイって言われた?!」



…と、この様に馬鹿にされても気にしなかった。


少女漫画のキラキラとした世界観にどんどん引き込まれ、逆に女子達と話が盛り上がった。


特に少女漫画の世界観で好きなのが魔法とかのファンタジー系。


何故かその類いの話を読むと胸がザワついた。



「羽月さ、そんなに漫画が好きなら漫画家か出版社とかで働くとかしたら?」

「…誰が?俺が?」

「あんた以外に誰がいんのよ。そうね…羽月は絵の才能が皆無だから出版会社とかが良いんじゃない?少女漫画の編集部とかどう?」

「それ最高だわ姉貴」



高校最後の夏、進路に迷っていた俺は姉貴のその言葉で即座に決心。


編集者として素晴らしい作品をたくさんを描いている漫画家さん達を支えられるとか…何それめっちゃ良い!!


そうと決まれば俺の行動に迷いはなかった。


嫌いな勉強も必死に頑張って、第一志望だった大学へ入学。どこの出版会社で働きたいかを決める為に積極的に色々な出版会社の見学会に参加した。



「おぉ、やっぱし凄ぇな朱雀出版。就職先候補の中ではダントツに最高だわ」

「ビル高っ…他の出版会社と別格過ぎじゃね?」

「そりゃあな。あ、そーいや…運良くあの人に会えたりしねぇかな今日」

「あの人?ここに知り合いでもいんの?」

「この前、俺の従兄弟がここの営業部で働いてるって話したろ?そいつが話してた噂の編集長の事だよ」

「噂の編集長?」



その編集長の話を聞くと、とにかく凄い人だと分かった。


まず、伸び悩んでいた編集部の売り上げをたったの一年で回復させ、非公式での部下からの上司にしたい人物アンケートでは常に第一位という凄腕。


ちなみに死ぬ程モテモテらしい。


俺の従兄弟もその編集長の事をリスペクトしてんだよ、と呆れながら話された。


確かにそんな凄い武勇伝を持つ人ならどんな人物なのかが気になってくる。



「しかも聞いて驚け。お前の行きたい少女漫画編集部の編集長だぞ」

「マジ?!うわ…ヤバい。俺もめっちゃ会いたくなってきた!!従兄弟さんからその人の名前とか聞いた?!」

「何か珍しい名字だったぜ。えーあー…あし?あみ?あ…あー、あ!安心院だ!!」

「あじみ?」



どんな字を書くんだと言おうとした時、ビルの中でその名前を呼ぶ声が聞こえた。


入り口の近くに立っていた俺達はビルの一階を見渡せる位置にいて、すぐに声を出した人を見付ける事が出来た。


そしてその人の駆け寄る先にいた人物を見た瞬間に俺は雷に撃たれたかの様な衝撃を感じた。



「安心院先輩!頼まれてた資料です!!」

「すまん、助かった真昼。これでノエルもヤル気を出すだろ…出なかったら最後は力業だ」

「ノエル先生を動かせるのは安心院先輩だけですからねぇ。応援してますね!!」

「あぁ、行ってくる」



俺達のすぐ横を歩いて行ったその人を見送った俺は尋常じゃないくらい心臓が鳴っていた。


彼女が動く度に揺れる艶やかな短い黒髪と切れ長の綺麗な焦げ茶色の瞳。真っ白な肌とそれと正反対の真っ赤な唇。


女の人にしては高い背が姿勢良く歩く姿は何故か神々しかった。



「超美人…あれはヤバいわ…」



友達が呟く言葉に頷くのが精一杯。俺は人生で初めて一目惚れをしてしまったらしい。


漫画を読んでて、流石に一目惚れはしないだろと思っていた今までの俺を殴りたい。


現在進行形で俺は一目惚れをしたんだ。


大好きな少女漫画の編集長が好きになった女の人とか…自分で少女漫画的な人生を歩むとはな。


人生何があるか分からない。



「俺決めた。ここの編集部に就職する!絶対にする!絶対に!!」

「おいおい…まさか編集長が決め手とか言わないよな?」

「悪いか」

「………はぁ、お前って決めたら一直線だよな。良いんじゃね?俺もここ本命にするし」



社内見学をして益々この出版会社で働きたくなった。


その為には今以上に努力しなくてはと考え、就職が決まるまでは命の糧の少女漫画を本棚の奥へと封印した。それは地獄の日々だった。



そんな地獄の日々を過ごし抜いた俺は朱雀出版社の面接で漫画への情熱をとにかく語り、少女漫画についても力説。


夢中過ぎて後半の記憶が残っていなかったが、無事に採用通知が届いた。大声を出して喜んでいたら昼寝をしていた姉貴にうるさいと頭を叩かれた。


可愛い弟の人生の大事な瞬間を一言で済ませるって酷くないか。


まぁ結局、俺が姉貴に敵う事はないし姉貴が本気で怒るとガチで怖いのを知ってるから何も言わねぇけどさ。

次も羽月視点です。

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