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危急存亡。

ペンを置いた音がやけに大きく聞こえた。


シン…と静まり返る部屋。

周りは今にも屍となりそうな者達ばかり。


燃え尽きた。燃え尽きたよ私。


天に拳を突き上げ、いざ叫ぼうではないか。



「終わったぁぁぁぁああああ!!!」

「解放された!私達は自由だ!」

「今日は宴じゃーーー!!」



凝り固まった肩と首を動かして思う。

年取ったなって…もうあの十代の頃にしていた徹夜と比べ物にならないくらい体が重症だ。


バッキバキだ。バッキバキ。


時計を見れば〆切まで後一時間ある。

ゆっくり印刷所に行っても大丈夫な時間だ。


アシスタントの皆も涙を流し抱き合っている。

これからの皆の予定を聞けば満場一致で寝ると答えるだろう。



「今なら灰となって風に流されそうです私…」

「お疲れ真昼。今度、ケーキ奢ってやる」

「う"ぅ…愛してます安心院先輩…!」

「轟君もお疲れ。本当に助かったよありがとう」

「お役に立てて良かったです…」



メイクも髪型も可愛くしていた真昼もスーツを着こなしていた轟君も流石に徹夜という名の爆弾にやられ、もうヨレヨレだ。


私も顔が酷い事になっているに違いない。


仕上がった原稿の最終確認をして印刷所へ持って行こうと立ち上がった時、意識が飛びかけていた田中先生に手を握られた。

涙と鼻水でグシャグシャになった顔は流石に可哀想で持っていたティッシュを渡した。


〆切を守るのは苦手な人だけど、いつも最後は必ず良い作品を描いてくれるから田中先生は憎めない。



「安心院先輩、印刷所には私が持って行きます!田中先生の担当は私で本来はもっと私が頑張らなくちゃいけなのに…」

「良いんだよ。私が大変な時は真昼に助けて貰ってるから。支え合っていくのが一番、てね」

「~~っ、惚れちゃいます!安心院先輩!!」



田中先生とアシスタントの皆と別れ、真昼は印刷所に。私と轟君は会社へと戻った。


このヨレヨレの状態で編集部に戻るのは気が引け、一旦休憩室にて休む事にした。

自販機で買った炭酸水を口にすると少しだけ疲れが取れた気がする。


缶コーヒーを渡した轟君は必死に目を開けている様子が何だか可愛いかった。


何かの動物に似てるんだよな…何だろう。



「…炭酸水、って珍しいですね。普通は眠気覚ましのコーヒーにしません?」

「私はコーヒーが苦手だ。それに、炭酸水は私にとって最高の覚醒アイテムなんだよ」

「くくっ、編集長って面白いって言われませんか?何か独特な雰囲気を持ってて良いですねとか」

「それは貶してるのか褒めてるのか?」

「凄く褒めてます」

「あっそ…………あー、しかし疲れたな…」



大袈裟かもしれないが共に〆切という戦場を生き抜いたからだろうか、轟君と仲良くなった。


彼の鉄壁の爽やかさを乗り越えて素の轟君と話せた、みたいな?


疲れを纏った今の轟君を編集部の女子達が見たら確実に襲うな。捕食者になるだろう。



「僕、少女漫画が好きで自分から少女漫画の編集部に志願したんです。それともう一つ、志願した理由あるんですけど…何だと思いますか?」

「さっぱり分からん。パスだな」

「ちょ、答える気無いでしょう。編集長ですよ編集長!貴女が理由です!」

「………は?私?」

「はい!凄腕の編集長がいるって聞いて、そんな人の下で働きたいなと思って少女漫画の編集部に!予想以上にハードで驚きましたけどね」



でも楽しかったです!と笑った轟君の顔が一瞬、あいつに重なって見えた。


私を尊敬して編集部に来たと話す部下の話は嬉しいが内容が頭に入って来ない。



(似てる?いやいや、あいつはこんな男!って感じではなかっただろう…。)



疲れも消し去る轟君の爽やかな笑顔が今は悪魔の笑顔にしか見えない。


重なって見えてしまったあいつの面影。


否定したいのに冷や汗が止まらない。



「編集長の事…真昼先輩みたいに下の名前で呼んで良いですか?」

「な、何で名前で呼ぶんだ」

「え?!えーっと、ほら!安心院先輩ってのも少し呼びづらいじゃないですか!ね!」

「…、」

「では決まりで!これから宜しくお願いしますね!稀世先輩!!」



『じゃあ決まり!これからはマリオンちゃんの事、マリちゃんって呼ぶね!!』



ピッタリと重なり合ったあいつと轟君。


一度認識したらもう知らんぷりは出来ない最悪の記憶、あいつとの記憶が全て蘇る。


あいつはマリオンの大切な友人の一人だった。

可愛い顔して腹の中は真っ黒。


小悪魔通り越して悪魔の頂点に君臨するサタンの様な人間。



「あれ、稀世先輩?何か顔色が悪くなってますけど…って!炭酸は降っちゃ駄目ですよ?!」



動揺し過ぎて持ってた炭酸水を降って謎の精神統一をするしかなかった。



(神様、徹夜明けにとんでもないもの持ってきたな。)



さっきまで爽やかイケメンだと思っていた轟君の顔に今猛烈に炭酸水をぶん投げたいです。



『マリちゃん大好き!マリちゃんは僕の大切なお姫様なんだよ?ずーっと一緒にいようね!』


『ちょっと!キモ女が気安く僕に触らないでくれる?つか話し掛けんなし!!』










「ユラシア・シェルマン」



兎の皮を被った悪魔。可愛い系男子代表。


金髪碧眼の美少年は爽やかバスケ部のエース(仮)になっていたようだ。



〜注意点〜


なつかれてしまった模様。


しかも同じ編集部の部下。




「今度一緒に飲みに行きたいです!僕、稀世先輩の話とか凄く聞きたいんで!!」

「あぁ…分かった…。いつかな…いつか…」




吐血しそうです。

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