震天動地。
「ク、クソ…ッ!覚えてろよてめぇ!!」
「今日は運が良かったな!けっ!」
轟君に肩を掴まれ威圧感に負けた彼らは放心状態が続いている男を引き摺りながら去って行った。
あそこまで雑魚キャラの捨て台詞を地で言えるのって凄いな。逆に彼らに感動した。
「あいつらに何もされてないですか?!どこも怪我とかしてないですか?!」
「大丈夫だ。轟君が来てくれたから被害は何もない。ありがとう」
「っ、良かったぁぁぁ…もう僕、稀世先輩が絡まれたの見た瞬間に血の気が引きました…」
へにゃりと本当に安心したような笑顔を浮かべた轟君を見た瞬間、無意識に私は彼の頭を撫でていた。何この子…可愛いんだけど。
体が大きいのにこの癒しの可愛いさ。こいつもギャップありかよ。
「つか、稀世先輩!こんな格好を見知らぬ他の男に何見せてるんですか?!」
「ちょ…轟君の上着が濡れるぞ…」
「僕の上着なんてどうでも良いです!僕にとったら稀世先輩のその姿を他の奴らに見せる事の方が不愉快です!!」
轟君が着ていたジャケットを頭から被せられる。
セーターなのだから別に服が透けてる訳でもないのだが…彼の必死さに負け、頭のジャケットはそのままにした。
可愛いから格好良いの切り替えが本当に早い男である。
実家にいる柴犬の桃太郎にするみたいに轟君の頭をワシャワシャと撫でているとドサッと何かが落ちる音がした。
横を見れば水族館のマークがプリントされた袋を落とし、顔面蒼白になったココがいた。
「稀世サン…まさか浮気デスカ?!」
「浮気ではないし君とは付き合ってもいないだろう」
「ワタシというものがありながら…!酷いデス!悲しいデス!残酷デス!!」
「一回落ち着け」
轟君の頭から手を離し、ココのもとへ行こうとするとセーターの裾を掴まれる。
ここで腕を掴むんじゃなくて服を掴むってところが可愛いとか思ってしまう私がおかしいのか。そうか。
前世という事を抜きにしたら本当に轟君はゴールデンレトリバーみたいな大型犬にしか見えない。
「貴方…稀世サンとどういう関係なんデスカ?ちなみにワタシと稀世サンは恋人になる予定の関係デス!!」
「僕は稀世先輩の会社の部下です。恋人になる予定…?超どうでも良いです」
「うぬぬ…稀世サン、ワタシこの人嫌いデス。凄くムカつきマス」
「意見が合いますね。僕も貴方が嫌いです」
ピシャーンッッと雷が落ちる。
イケメンとイケメンが揃うと本当にろくなことがない。無駄に注目を集めるのだ。
二人が言い争っている間にココが落とした袋を拾い、その中からタオルと服を取り出す。
(トイレは…あそこか。)
私との関係についての口論に白熱して私が離れたのにも気付かない二人。
そんな彼らを放っておいて私はさっさと服を着替えた。
濡れた髪は手首にしていた髪ゴムで一つに結ぶ。うん、スッキリした。
店の前に戻ろうとすると、少し離れた所で未だに口論している二人を柱に隠れながら撮影している男を発見。
その人物の事は前から知っていたので興味本位で話し掛ける事にしたのだが、話し掛けた瞬間に物凄く驚かれた。
「ああああ安心院編集長?!」
「すまない、驚かせるつもりはなかったのだが…悪いな瀬野君」
「いえ!ぜ、全然問題ないッス!…って俺の名前、ご存知なんですか?!」
「轟君と仲が良いのだろう?以前に同じ編集部の女子達から瀬野君の名前と顔写真を見せて貰ったんだよ」
「何それめっちゃ怖いッス」
「だよな」
イケメン轟君の情報を集め隊の彼女達は仕事と同じくらいその事に熱意を注いでいる。
その為、轟君関連で彼と最も仲が良い瀬野君の話も聞いた。
容姿は平凡だがフレンドリーで話しやすく何気にモテる男だと彼女達に教えられた。
情報の通り、瀬野君はかなり話しやすい。
彼から轟君とココの事を聞いていたら、いつの間にか話は彼と轟君が何故二人で水族館に来たのかの話になっていた。
「縁結びの神社にでも行こうかな…どう思いますか安心院編集長…」
「そう落ち込むな。佐藤君ならすぐに良い人が見付かるさ」
「……、安心院編集長のその言葉、めっちゃ心に染み渡ります。マジで嬉しいッス」
「くくっ、そりゃ良かった。…で?そろそろあの馬鹿達を止めるか瀬野君」
「あー…そうッスね」
十分くらいだろうか。
轟君とココはまだネチネチと話していた。いい加減、止めないと水族館を追い出されるぞマジで。
ちなみに瀬野君はイケメンとイケメンの闘いが面白くて写真を撮っていたらしい。
それに止めるのも面倒ッスからねと満面の笑みで言われた時は笑った。瀬野君とは仲良くなれそうだ。
「大体、俺の方が稀世先輩と仲が良いですから。あんたアレだろ?ストーカーだろ?」
「ストーカーではアリマセン!ワタシは稀世サンと純粋な関係なんデス!!」
「何が純粋だよ。佐波先輩と真昼先輩から証言は取れてるんだっての」
「嘘デスネ」
「嘘じゃねーし」
長いよお前ら。
ズビシと二人の頭に手刀をして黙らせた。いつまでネチネチと話している気だ。
瀬野君は轟君を、私はココを落ち着かせる。
ココに目立つ喧嘩は止めろと言い聞かせているが全く目線が合わない。
ずっとココが見ているのは…私の服か。
「可愛いデス稀世サン!ワタシもすぐに着替えて着マス!お揃いデスネ!!」
「…あいつ足速いな」
タオルと服を持ってダッシュでトイレに向かったココ。
お会計の時も思ったが行動が実に速い。
止める暇がない。
轟君達の方は轟君に瀬野君がちゃんと言い聞かせていた。瀬野君は頼りになるな。
「お待たせシマシター!稀世サンどうデスカー!!」
「はぁ…」
「イケメンって何着てもイケメンッスね。つか、ペアルックなんスか?」
「○※%★◎□¶#%?!?!」
笑顔で戻って来たココと溜め息を吐く私、そして感心する瀬野君と叫ぶ轟君。
全てはこの奇抜なプリティTシャツを着る私とココのペアルックに対する感想だった。
やっと轟君の友達の名前が出せました笑
ちなみにフルネームは「瀬野 大和」です。プチ裏設定。
これからの物語に彼の下の名前が出るのかは不明ですが、取り敢えず名前はこんな感じでありますm(__)m