愉快適悦。
突撃訪問宜しくココと常磐さんに連れて来られたのは人がごった返している水族館だった。
常磐さんが運転する車で来たは良いが…正直、日曜日という休日を舐めていた。
テレビでも良く取材されている人気水族館、平日でも混んでいる時は混んでいるのに休日なんてもってのほか。
この水族館にはテーマパークもあって、敷地面積の広さはかなりのもの。
ジェットコースターに乗った若者達の声や広場を走り回る子ども達、そして嫌でも目にするのは雰囲気にやられたラブラブカップル達だ。
(最近の若者は元気だよな…。)
自分はまだ二十代の筈だが、ラブラブカップルを見てこの精神状態。
心の枯れてる度が酷いと自分でも思う。
隣を見ると水族館にいる子ども達のように目をキラキラさせているココ。
本当に私と同い年とは思えない奴である。
「稀世サン、稀世サン!見て下サイ!とても大きい魚デス!可愛いデス!!」
「マンボウだなそれは。あのボーッと泳いでる感じは確かに可愛いな」
「ハイ!あっ、アッチはサメがいマス!!」
私の手を引いて色々な水槽に釘付けのココ。
ココの暴走抑制役の常磐さんはお時間になりましたらまたお迎えに参りますと言って颯爽とどこかへ行ってしまった。
常磐さんがいなくなった瞬間にココのテンションが上がったのは気のせいではないだろう。
「イルカショー…イルカショーを見まショウ!ワタシ、一番前で濡れてみたかったんデス!!」
「濡れ…?!おそらくココが考えている数十倍、ここのイルカショーは凄いんだぞ?本気か?」
「勿論デス!濡れても着替えれば良い!ダイジョブデス!NO problem稀世サン!!」
「………はぁ。ったく…仕方ないか」
以前、真昼がこの水族館のイルカショーの水飛沫は本当にヤバいと話していたが、たまには童心に帰ってみるのも良いかもしれないな。
楽しみデス!と興奮しているココとイルカショーの会場に行くと少し始まる時間には早かったのかまだ人が少なかった。
大人気の一番前の特等席も子ども達がレインコートを着て今か今かと待ち構えている。
レインコート…元気な子ども達でもレインコートを着て防御しているのか。
大丈夫か不安になってきたぞ。大丈夫かこれ。
「流石にレインコート着るか?…防御何もなしなの今のところ私達だけだぞ?」
「濡れるならとことん濡れまショウ!その為にこの服で着たんデスから!!」
「めっちゃ高そうな服だがな。しかも吸収性が良いカーディガンを敢えて選ぶとは…」
見るだけで良い生地である事が分かる。
こいつの金銭感覚がちょいとズレているのは前々から分かってはいた。
百八本の薔薇やら今朝もピンクの薔薇、そして今は高級な服を何も気にせず濡らす諸行。
忘れそうになるがココはこれでも世界的に有名な天才デザイナーなのだ。
「稀世サン!これ食べてみて下サイ!とても美味しいんデスよ!!」
「もぐもぐラブフラワーチョコ?」
「ワタシのオススメなんデス!中にはキャラクターカードが一緒に入ってるんデス!!」
「…愛蘭カードは手に入ったのか?」
「もう百枚ありマス」
「マジか」
袋を開けるとハート型や花型のチョコが入っていて、表面には可愛いキャラクター達の絵が描かれていた。
一つ食べてみるとチョコの中にはイチゴ味のマシュマロが入っていた。味は普通に美味しかった。
今度、真昼と遥にも買ってみよう。
二つ目を食べようと袋に手を入れた時、ココに肩を叩かれ見てみればまた目からキラキラ攻撃を出している。
「あ、あの…!稀世サンに是非あれをやって欲しいデス!!」
「あれ?」
「あーん、デス!ワタシの憧れなんデス!!」
「?!」
あーん…?!
ここで私にそれをやれと言うのか?!
既にココは目を瞑って口を開けている。
やるしかないのか。こんな公共の場でやるしかないのか。
チョコを取り出してココの口へと素早く放り込む。それを幸せそうに食べるココの頭を叩いてしまったが…許せココ。
恥ずかし過ぎて手が出てしまったんだ。
「エヘヘッ、いつものチョコよりずっとずーっと美味しいデス!キャラクターカードも愛蘭!流石、稀世サンデス!!」
「それは良かったな。もう二度とあーんなんてしないからな私は」
「えー…またして欲しいデス…」
「そのキラキラ攻撃にはもう屈しないぞ」
そんなやり取りをしているとイルカショーの始まる時間になった。
前のめりになって華麗なジャンプをするイルカを見るココに苦笑を漏らし、私もイルカに視線を移した。