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廃忘怪顛。

九重さんが愛している愛蘭は「魔法少女ラブフラワー」というアニメのキャラクターらしい。


三人の少女が魔法少女に変身して悪者から地球を救う物語。


それぞれの少女達の名前には花の名前が入っていて、三人の中でリーダー的ポジションの少女が九重さん曰く私に似た愛蘭。


長い黒髪と切れ長の黒真珠のような瞳。

クールな見た目の中には熱い情熱と正義があり、決して悪を許さない素晴らしい魔法少女。


…………と、息継ぎなしで語ってくれた九重さん。


遥と真昼は拍手を送り、私も息継ぎなしでここまで語れる彼に驚かされた。



「そんな素晴らしい彼女に似た素晴らしい稀世サン!コレは運命としか言えマセン!!」

「はぁ…九重さん、悪いが私は貴方と恋する気はない。諦めて私以外の愛蘭に似ている人を探して下さい」

「そ、そんな…っ、稀世サンに会った瞬間にワタシの中でビビッときたんデス!こんな事は初めてだったんデス!簡単に…諦めたくないデス…」



シュンという効果音がつきそうな程落ち込んでしまった九重さん。

こんな感じの光景を前にも見た気が…と思い出そうとすると今度は泣き始めた九重さんにギョッとする。


泣く姿はまるで叱られた時の子ども。


ポロポロと落ちる涙が九重さんの膝の上で握った手を濡らしていく。

本当に厄介な人に会ったと思う反面、彼の純粋さを嫌いになれない私もいる。



「でも…稀世サンにずっと迷惑を掛けるのは嫌デス。稀世サンに嫌われるのはもっと嫌デス…」

「…………結婚は無理です」

「ハイ…グスッ…」

「結婚、は!です。普通に友人としてなら、その歓迎…します、よ」

「、」



涙を引っ込めて私の顔を見てくる九重さんとずっと目を見合わせているのが恥ずかしくなり目線を反らす。


友達になって欲しいなんて久しぶりに言った。


大人になるとたった一言でも言い辛くなる…九重さんの純粋さが少し羨ましいと思った。


反らした目線を九重さんに戻すと何故かまた泣いていた。実に涙腺が弱い人である。



「良いんデスカ…?ワタシ…稀世サンに迷惑掛けマシタ…凄く困ってたのやっと分かりマシタ…」

「最初は確かに驚きましたが好意を持たれる事に嫌な気はしません。結果的にストーカーではありませんでしたしね…友人は嫌ですか?」

「い、嫌じゃないデス!とても、とても嬉しいデス!宜しくデス稀世サン!!」

「っ?!」



椅子から立ち上がった九重さんは何をするかと思いきや抱き着きあまつさえ頬にキスしてきた。


叫ぶより先に手が出る。


出会った時と同じようにパーで殴った。

九重さんはスキンシップの感覚がどうやら海外寄りだったようだ。



「九重さん…?」

「ス、スミマセン!嬉しさのあまり思わずしてしまいマシタ!でも稀世サンからのビンタは何だか嬉しいデス…エヘヘ」

「!!ドMを私は今見ている!王子容姿でドM…これは漫画資料に使えるぞ…!!」

「イケメンでドM、一度に二度美味しいとか幸せ過ぎて気絶しそうです私!!」

「遥と真昼は取り敢えず口を閉じようか」



この仕事馬鹿とイケメン馬鹿は駄目だ。


私の手形がついた頬を嬉しそうに押さえる九重さんを見て少し早まったかと思ってしまった。


ソファーに座り直した九重さんは端に置いていた薔薇の花束から五本だけを取り出し、刺の部分にハンカチを巻いて私に渡してきた。



「今のワタシの気持ちデス。いつか百八本の薔薇の花束を貴女に受け取って貰えるように頑張りマス!」



五本の薔薇の意味。


「貴女に出会えて心から嬉しい」


顔が熱くなる。

こんなにも真っ直ぐな言い方をされたら誰だって照れるものだろう。


王子の豪速球の破壊力はかなり凄い。



「九重さんっていうのも堅苦しいですよねぇ…あ!ココさんなんてどうですか?」

「おぉ、良いアダ名じゃないか。ココさん、これから宜しくな。良いネタ提供感謝するよ」

「急に距離を詰めたな」

「アダ名最高デス!是非、稀世サンにも呼んで欲しいデス!!」



遥と真昼まで期待した目で見てくる。


呼び方一つで何故こんな事になるんだとも思うが九重さんの目力に負けた。


コ、ココさん…と言った瞬間にまた抱き着かれ頬にキスをされた。で、パーで殴る。



「ワタシの名前を呼ぶ稀世サンがあまりにも可愛くて…!この体がいけないんデス!ワタシの言う事を聞かないんデス!!」

「それは困りましたねココさん。縛ってやりましょうか?ん?」

「え…本当デスカ…?」

「頬を染めないで下さい。喜ばないで下さい」



その後も敬語はなしだとか「さん」付けしなくて良いだとか色々とあり、終始ココさ…じゃない。


ココのペースだった。


嵐のような奴だったとココが会社を去った後に遥と真昼と話したのが二日前。


現在は日曜日の朝九時半過ぎ。

ニュース番組を寝起きの頭でぼんやりと見ていたら、最近友人になった男が映し出された。


眠気も一気に吹っ飛ぶ。



「今回のドレスはワタシの愛しい人をイメージして作りマシタ!今までの作品の中で一番デス!」



画面に表示されている文字には「イケメン天才デザイナー!最高傑作を恋人へ!!」と書かれていた。


飲んでいたコーヒーを口から吹き出した。

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