平穏無事。
今回の作品は悪役令嬢の前世の記憶を持つという逆パターンを書いてみる事にしました。
『平穏無事という四字熟語、私の人生目標です。』
を宜しくお願い致します!!
『俺様の女に手を上げるたぁ…良い度胸じゃねぇか。あ?』
暴力反対派なんで叩く訳がない。
『君みたいな男好きは見るだけで反吐が出る』
じゃあ見るな。
『あの子以外ど~でも良いんだよね~。俺、お前だ~い嫌い』
私もお前が嫌いだ。
『…学園から消えろ。貴様みたいな者があいつに関わるな』
関わって来るのはあっちの方からだ。
『僕…君が凄く怖い…っ、何でこんな酷い事が出来るの…?』
私の家を潰したお前らはどうなんだ。
『あたしは…!ただ…貴女と話してみたくてっ…!!』
嘘泣き下手くそだな。
『貴様と貴様の血縁者は永久に国外追放とし、二度と俺様達の前に現れるな』
人の話を一切聞かずに一方的に決めつけて、無実の人間をこんなに痛め付けるか普通。こんなの…
「却下に決まってるでしょうが馬鹿野郎ーーーー!!!」
ガシャーーン!と部屋に響く破壊音。
若干の右手の痛みと共に聞こえた音の方を見ると、見事に壊れた目覚まし時計。
通算五個目の目覚まし時計さん、ご臨終です。
時計から手を退けて目頭を押さえる。
朝からこの疲労感と倦怠感はツラい…恨むぞ夢よ。
「はぁぁぁぁ、最っ悪だ…」
ベッドから立ち上がってカーテンを開けると空には嫌味なくらい輝いている太陽が昇っていた。私を塵にする気か。
顔を洗って歯を磨いて朝食を作って食べて着替えて身だしなみを整えて出勤。
そして毎朝こう唱えるのだ。
「今日も一日、平穏無事でありますように」
私の座右の銘。私の目標。私の願い。
何故私がこうも平穏に拘るのかを説明すると今日の夢が濃く関係している。
話を聞いて、何言ってんのこの人?となるかもしれないが、私には前世の記憶がある。嘘じゃない。本当の話だ。
しかもこの世界ではない異世界の時の記憶。
テレフラム王国という国に私は「マリオン・ドルトム」という名前で生きていた。
その世界には魔法や妖精が存在し、マリオンはそんな世界で貴族の令嬢として大切に育てられ、すくすくと成長していく。
優しい幼なじみと友人達に囲まれ、マリオンは幸せだった。
だがしかし。
ここで逆接を使った意味を察して欲しい。彼女の幸せは長くは続かなかった。
マリオンは少し人見知りでかなりのツンデレだったのだ。
それを理解して今まで優しく支えてくれた幼なじみも友人達もある人物の言葉がきっかけでマリオンから離れていった。
離れていくだけならまだ良かった。
彼らはある事ない事を吹き込まれ、マリオンを傷付けた。
心を許していた彼らに裏切られた彼女は限界だった。
そしてそんな彼女に彼らが最後に与えたものは国外追放と家の破産。全てを失った彼女は誰も信じる事が出来なくなった。
マリオンは最低最悪の悪役令嬢とされたのだ。
(…我ながら重いし酷いし辛いなおい。)
「マリオン」の記憶は私が物心つく前からあった。
最初は何の事かさっぱり分からなくて、分からないのに悲しくて、その記憶を理解していく度に泣いていた。
そして彼女の苦しさや悲しさを知っていくうちに最終的に辿り着いた感情は怒りの爆発だった。
怒りの最上級、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。
何だあの人の話を全く聞かない馬鹿な幼なじみや友人達は。
マリオンを何だと思ってるんだ。
ムカつき過ぎて六歳の夏に実家の壁に拳で穴を開けた瞬間を幼なじみにバッチリ見られたのは私の黒歴史に刻まれた。
それから私は前世から様々な事を学んで、それを教訓とした。
面倒な人には関わらず何事もない平穏無事な人生を送る、と。
そして時は流れて現世。
今はバリバリのキャリアウーマンとして私は生きている。
「おはよー稀世。…ん?既にお疲れモード?」
「安心院先輩助けて下さい!緊急事態発生でヤバいです!」
どうも、名前まで「安心」を求める女。
安心院 稀世、二十六歳です。