ドストライクマン!!究極の独りぼっちの正義のヒーロー!世界平和の為に人々に爆笑されながらも誰にも見えない敵と闘うヒーロー!!
正義のヒーロー ドストライクマン!!彼は今日も街のど真ん中で人々から罵声を浴びつつも世界の平和の為に誰にも見えない敵と独りぼっちで戦うのであった!!
「また怪人が現れたのを感じる、今日も人々の平和を守りに行かなくてはならない!俺以外の誰にも全く見えない悪の怪人を倒す為に!」
バイクのエンジン音を鳴り響かせてドストライクマンは渋谷の街にやって来た。
明らかに必要以上に飾り立てたカウリングのおもちゃチックなバイクの後ろには大きなプロペラが2つ付いている。
出立ちは赤と黄色と青のド派手な組み合わせで俗に言うヒーローそのものであり目は緑色の光を放っていた。
あの有名な交差点の角にバイクを止めると大声で叫び始めた。
「皆さん、怪人が暴れています、危険ですからココから離れて下さい」
人々は訝しげな顔をして通り過ぎていく。
中にはスマホで写真を撮る人や指をさして大笑いしている若者もいる。
歩行者用の信号が青になり人々はいっせいに渡り始める。
「危ない!渡ってはいけない!」
ドストライクマンは出せる限りの大声をあげて叫び続けるが誰1人として言う事を聞く人はいない。
そうこうしているうちに女性が横断歩道の真ん中でいきなり倒れた。
まわりの歩行者が数人立ち止まる。
彼氏と思われる男が女性を抱き上げながら
「誰か救急車を呼んで下さい」と叫ぶ。
近くの人が携帯を鞄から取り出して話し始めた。
救急車を呼んでいるようだ。
ドストライクマンは倒れた女性を抱き上げている男に駆け寄り彼を背にして両手を広げてまた大声で叫んだ。
「怪人にやられたのです、早くこの場から離れて下さい」
「ふざけるな!人が倒れたんだぞ!」
倒れた女性の彼氏らしき男が怒鳴りちらす。
それを皮切りに周りの人々から罵声が飛び交う。
「お前はさっきから何を遊んでるんだ!」
「怪人?どこにいるんだ、そんなもん!!頭は大丈夫かあ?」
「中二病はどこかの公園で遊んでろ!」
ドストライクマンはそんな罵りをよそに大声で雄叫びを上げた。
「ドストライクマーンパーンチー!!」
「ドストライクマーンキッーク!!」
まるで空手の演武のようにドストライクマンはパンチやキックを誰もいない空間に浴びせかける。
「怪人め!罪のない女性に手を挙げるとは許せん!ドストライクマーンダブルパーンチ!」
周りの人々は呆気にとられて眺めている。
「トドメだー!ドストライクマーンジャンピングダブルドストライクキッーク!!」
ドストライクマンは誰もいない空間に思いっきり飛び蹴りをした。
「思い知ったか怪人め!これに懲りて2度と悪さをするなよ!!」
「皆さん、怪人は退治しました、もう大丈夫です」
「彼女のことはよろしく頼んだよ」
倒れた女性を抱き上げてる男にそう言い残すとドストライクマンは派手なバイクにまたがり爆音と共に去って行った。
「今のは何だったんだ?」
「可哀想に自分を正義のヒーローか何かだと思い込んでいるのだろうなあ」
「危ない奴だったなあ、季節の変わり目はあの手の奴が現れるから気をつけないとね」
「あれってめっちゃ有名な奴じゃね?」
「あーあれがドストライクマン?笑える!」
杉本大介、それが彼の名前だ。
両親は秘密結社の研究員として働いていたが彼が3歳の誕生日に忽然と姿を消してしまった。
その後、孤児院で育った彼は18歳になった時に園長先生から両親の遺言として預かった手紙と鍵を手渡された。
手紙には住所が書かれていた。
彼はすぐにその住所を訪ねた。
そこには古びた家が建っていた。
玄関のドアは壊れていて難なく中に入れた。
そのまま奥に進むと彼はある事に気がついた。
「この部屋は見憶えがあるぞ」
「そうだ、俺は両親とこの家で暮らしていた!」
「地下だ!確か地下室があったはずだ!この鍵は地下室の鍵としか思えない」
彼は家中を探しまくりキッチンの床のすき間から地下室へと続く階段を見つけた。
「よし降りてみよう」
薄暗い階段を降りると錆びた鉄の扉が現れた。
ドアノブの鍵穴に両親の形見の鍵を差し込む。
「開いた!やはり地下室の鍵だったんだ」
扉を開けると古びた家の地下室とは思えない近代的な設備が整っていた。
驚きつつ部屋に足を踏み入れた瞬間モニターが作動し始めた。
「大介よ、突然で驚くだろうが聞いてくれ!お前には重大な任務がある、それは正義のヒーローとなってこの世界を守る事だ!そこにある緑のハチマキを頭に巻いて、変身!と叫んでみろ」
「と、父さん?」
彼はいう通りにした。するとみるみるうちに正義のヒーローへと姿を変えた。
「お前は今日から地球の平和を守る為に悪の組織と戦ってほしい、敵の数は少ないが全員が透明で誰もその姿を見ることは出来ない、よって彼らの存在を知っているのはこの地球上で私と母さんだけだ、だからこそお前にはその悪の組織と戦う運命を受け入れてほしい、そして私と母さんの正義の意思を継いでほしいのだ!」
「すまない大介、もう時間がない、あとはそこに置いてあるマニュアル本を読んでくれ!愛している我が息子よ」
そこでモニターは切れた。
「父さん、母さん、俺はやるよ!地球の平和を守ってみせる」
手に取ったマニュアル本の表紙にはこう書いてあった。
ドストライクマン説明書
その日から今日が3度目の敵との闘いであった。
1度目は新宿、2度目は銀座、そして3度目が渋谷だ。
どうも敵は人通りの多い場所を選んで現れるようだった。
その為に彼はすでに有名人となっていた。
SNSには彼の誹謗中傷が書き並んでいた。
「敵なんか居ないのにドストライクマンパーンチとか痛すぎ」
「1人でタコ踊りして楽しそう笑www」
「あいつまだ捕まってねえの?」
「今度現れたら俺がボコる!」
「今日初めて見たけど痛すぎて哀れすぎ」
「あのアホみたいに目立つバイクあるアパート発見」
「なんかもう集ってるみたい!」
アパートの部屋で横になりながらスマホでSNSをのんびり見ていた大介は驚いた。
「うそ、アパートバレた?」
窓から外を見るとたくさんの人がアパートの前にたむろっていた。
「ああバイクにカバーかけ忘れてた!」
よく見るとそのバイクを持ち上げて運んでいる。
大介は慌ててアパートの外に出た。
「そのバイクは私のです、やめて下さい!」
「あーお前のバイク?ならお前があのアホか?」
「アホではない!俺は地球の平和を悪の組織から守ってるんだ!」
「は?敵とかいねーじゃん!いつも1人で遊んでるだけじゃん!」
「違う!奴らは変身した俺以外に見ることが出来ないんだ!」
「はいはい、正義のヒーローさんなら俺より強いよなー?」
金髪のお兄さんが足を蹴りつけてくる。
「ちょっと止めろ、止めろってもう」
「強いんならやり返して来いよ」
正義のヒーローが一般人に手を出すわけにはいかない。
大介はバイクを奪い返すと素早くエンジンをかけ爆音とともに走り出した。
「くそー平和の為に戦っているのに!」
「だいたい一般人がヒーローを蹴るとか信じられん!」
「もうヒーローとか辞めようかなあ、楽しい事なんて何もないし、彼女も出来ないし、こんなに一生懸命なのに皆んなからバカにされるし、笑われるし、命をかけて頑張ってるのに笑われるってなんなんだよ!!」
その日から公園でのホームレス生活を始めた。
バイクは拾ったブルーシートで覆っておいた。
風呂にも入れないまま5日目が過ぎた時に怪人が現れたのを感じたが大介は寝転んだままだった。
「もう行くのやめよう、馬鹿らしいや」
寝転びながらSNSを見ていると悲鳴にも似た書き込みが次々と羅列されてくる。
「隣を歩いてた人が突然血だらけになって動かない、どうしよう」
「なんか知んないけど、どんどん人が血だらけになって行く」
「子供が、子供が大怪我をしたの、救急車を呼んだけど来ないの、警察も来てくれない、池袋の南武百貨店前、誰か助けて下さい」
「た、大変だ!くっそー、行くしかない」
すぐに変身してバイクを飛ばし池袋の南武百貨店前に着いた。
そこで彼は驚くべき光景を目にした。
怪人がデカイのだ!
5~6mはあるだろうか?
「いままでの怪人は人間サイズだったのにコイツは厄介だな」
バイクを降りると怪人に向かって大声で叫んだ。
「おい怪人!それ以上暴れると許さないぞ!!」
その光景を見ていた人々は苦笑いをしたり爆笑したりしていた。
しかし次の瞬間、彼らは驚愕した。
なんとドストライクマンはみるみる大きくなっていったのだ。
これには大介自身も驚いていた。
そして思い出した。
「そうだ、確かマニュアル本にドストライクマンは自動的に敵とほぼ同等の大きさになると書いてあった」
「ドストライクマンジャンピングドストライクダブルキッーク!」
なんとか敵を倒したが、いつもと勝手が違っていた。
2つのビルは崩壊し十台以上の車が壊れていた。
大型怪人を羽交い締めにして人々が退避するまで必死に動きを封じていたのが功を奏して闘いによる怪我人は1人も出なかったのがせめてもの救いだった。
変身を解いてバイクで公園に戻ると彼はすぐにスマホでSNSを開いた。
「今日はいつも以上にめちゃくちゃ言われていれてんだろうなあ、ビルや車をつぶしちゃったもんなあ」
しかしそこには大介が心配していた誹謗中傷は全くなく予想外の褒め言葉が並んでいた。
「今日ドストライクマン大勢の人の前で巨大化したらしいよ」
「ドストライクマンってマジでヒーローやん!」
「なに?本当に敵が居たってこと?」
「なんか見えないけど怪人の足跡らしきものが多数残っていたらしい」
「もうドストライクマン最高!カッコ良すぎ!!」
「マジで守ってくれてたんだ!もうドストライクマンに感謝しまくり!」
「ドストライクマンさん大好きです♡」
「え?褒められてる?」
「うそ!俺ってマジでヒーローって認められた?」
SNSの書き込みに驚いているとブルーシートをかけ忘れたバイクの周りに人が集まって来ていた。
「ヤバい、また持ってかれるかも」
大介は慌ててバイクの側に駆け寄った。
そこには先日、大介に蹴りを入れてきた金髪のお兄さんもいた。
金髪のお兄さんは大介を見ると
「すんませんでした」
と言い深々と頭を下げた。
「いや、あの、もう良いよ」
「本当にすんませんでした、まさか本当に怪人と闘われてるとは思いませんでした、すんませんでした」
金髪の側にいたサラリーマン風の男性が
「彼がドストライクマンさんなのか?」
と尋ねた。
金髪は大声で答えた。
「そうです、皆さん、この方が正義のヒーロードストライクマンさんです」
周囲から大きな歓声と拍手が起こった。
その日からアパートに戻ったドストライクマンの部屋のドアの前にはたくさんの手紙やお菓子などが毎日置かれるようになった。
中にはハンバーガーやコンビニ弁当を置いていってくれる人達もいた。
いつ敵が現れるから分からないヒーロー活動の為にまともに働けなかった彼には心からありがたいものであった。
しかし三ヶ月も過ぎるとほとんど置かれなくなってしまった。
「なんでせっかく本当のヒーローになったのに怪人のやつは現れないんだ」
「もう2日も何も食べてない、このままでは餓死してしまう」
「しかし今となっては俺がドストライクマンだと誰もが知ってるし前みたいにパンのミミとか貰いに行くのも気がひけるなあ」
「うーむ、仕方ない、一回だけ一回だけ渋谷で敵と戦うふりをしよう、そうしたらまたお弁当とか持って来てくれるだろう」
そして彼は渋谷のあの交差点で存在しない敵と闘うふりをした。
「ド、ドストライクマンパンチ」
「ド、ドストライクマンキック」
前とは違い本当に敵が居なので驚く程ぎこちないのだが周りの人々のリアクションも前とは違っていた。
「ドストライクマン頑張って!!」
「負けるなドストライクマン!!」
「ありがとうドストライクマーン!!」
「ありがとう!」
「ありがとう!!」
誰1人としてドストライクマンを笑う人はいなかった。
そしてアパートのドアの前にはまたお菓子やパンやお弁当を置いていってくれるようになった。
だがやはりそれも数週間で全くなくなってしまった。
「しかない、もう一度だけ、もう一度だけ、闘うふりをしよう」
そして一年近くが過ぎた。
ドストライクマンは今日も存在しない怪人と戦うふりをしている。
いつかまた本物の怪人が現れるのを心から願いつつ。
大介は気づいていなかったがSNSには少しずつではあるが、こんな言葉が書き込まれるようになってきていた。
「ドストライクマンって本当に敵と闘ってるの?」