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ウォレスティン・リルバーン 著 精霊騎士の相対性異世界ハーレム理論

最終話です。

翌日。


「では行くぞ」

「ああ、頼む」


母艦が青い光に包まれて空へと上がっていく。

主を失った母艦は動かす事が出来ず、軌道上までトラクタービームで引き上げる事になった。


もっとも母艦が大きすぎるため研究所の動力炉は過負荷によって制御不能に陥ってしまう。

所長はそれを知ってなお実行すると譲らなかった。


「軌道上まで引き上げたら母艦に研究所をぶつけて自爆する。残骸はほとんど残らない。月のゴーレムは軌道エレベーターを解体させた後は放置すれば魔力切れで土に還る。これで魔科学文明の残滓は全て消える。私も安心して眠れるよ」

「分かった。ありがとう」

「元は我らの撒いた種だ。私こそ礼を言う。ありがとう、光の精霊。いや、精霊騎士よ」


レイミーのブースターで軌道上に上がると、母艦と研究所は大きな光に包まれる。

後には何も残らなかった。


俺は月に進路を取り、イチローを通してルナゴーレム達に軌道エレベーターの解体を命じる。

巨大なエレベーターの解体には1年ほどかかり、終わった頃にはちょうどゴーレム達の貯蔵魔力が尽きるようだ。


月に1回程度進捗を確認するだけでいいだろう。

これで俺の精霊騎士としての仕事はとりあえず終わりである。




ドゥエイン氏とダンスティン国王への報告を終え、別荘改め我が家のリビングに腰を降ろす。

ダスティン国王は公式に混乱の収束を宣言し、その立役者である俺とドロシーの婚約を発表した。


情報が伝わると、ドゥエイン氏は婚約祝いとしてこの屋敷を譲ると申し出てくれたのだった。

報告の度に良い屋敷ですねとか、将来こんな屋敷に住みたいなーなどと褒めまくっていた甲斐があったというものだ。


「あー、終わった終わった!」

「おめでとう、タイヨウ様」

「タイヨウ、よくやったわね」


マリカとドロシーが俺を労う。


『そうだな、よくやったぞタイヨウ』

『さっすがタイヨウちゃんねー』

『私はタイヨウ殿を信じておりました』

『ニーチャンならこのくらい朝飯前だろ!』


人魂状態の精霊組も口々に俺を褒める。なんだかこそばゆいな。そして…。


「これでタイヨウさんの夢は叶ったということですかね」


最後に改良ホムンクルスに入った大精霊、改めセレナが入ってきた。




肉体が破壊された大精霊だったが、再び肉体を作るには数十年かかってしまうらしい。

そこで試しに研究所で5体貰った改良ホムンクルスに入れるかどうか試してみたのだが、これが上手く行った。


だが同時に大きな問題も発覚する。ホムンクルスから出られなくなってしまったのだ。

詳しく調べてみると、改良ホムンクルスは魔力の大きな精霊でも入る事が出来る代わりに出る事ができなくなっており、この状態で死亡すると精霊も一緒に死んでしまう。


活動寿命は100年前後だが、休眠状態なら千年単位で持ちそうだという。

これはおそらく精霊を捕らえて生贄にするための檻だったのだろう。


生殖能力まであると分かった時は流石にひっくり返りそうになったが…。


精霊を捕らえる檻にして命を生み出すゆりかご。

改良ホムンクルスは魔科学文明最後にして究極の遺産だった。


真っ青になる俺達をよそに大精霊は事も無げに微笑んだ。


「世界樹の魔力循環機能は生きていますし、タブレットがあればある程度外部から操作できます。それに世界樹の中には既に私以外の反応があるんです。多分ですけど危機的状況になったら新しい人工知能が発生するんじゃないですか? 私はむしろ今の状況を歓迎していますよ」

「なんでだ?」

「星を壊さないため止むを得ないとはいえ、私は2000年前多くの人々を見殺しにしました。また同じ決断をしなくてはならない日が来るのではないかと考えると、正直怖かったんです。破壊される前の肉体は寿命も生殖能力もありませんでした。ハーレムに加わっても子は残せず、タイヨウさんが死んだらまた一人で仕事に戻るだけです。でも今ならタイヨウさんの子供を産めますし、皆さんと一緒に人間として一生を終えるのも悪くないと思います」


数千年孤独に人々を見守るだけだった所に俺がやって来て、思うところがあったのだろうか。

大精霊は最初に感じた人形のようなイメージが消え、ワクワクが抑えきれない子供のようである。

正直凄く魅力的だ。


「分かったよ、よろしくな」

「はい!」


思わずどきっとするような笑顔だった。


「そうなると大精霊っていう呼び名も変えた方がいいか?」

「そうですね。タイヨウさんが付けて下さい」

「えーと、じゃあセレナで」


銀髪と銀色の瞳は月の輝きのようで、彼女のイメージにぴったりだ。


「セレナ…良い名前ですね。ありがとうございます」




その後全員で協議した結果、マリカ、ドロシー、セレナの子供が生まれるまで精霊組は今までのホムンクルスでローテーションを組むこととなった。

その後は二人ずつ改良ホムンクルスに入って子供を生み、俺はその間最終決戦で鹵獲した黒騎士の鎧への転換訓練を行う。


全員が改良ホムンクルスに入れば精霊甲冑はただの魔道甲冑になってしまうので、その時点でお役御免である。

また日の目を見る事があるとすれば、俺の子供たちが望んだ時だろう。


これからはみんなのために5年後10年後を考えなくてはならない。

ハーレムは完成して夢は叶ったが、俺の人生はむしろこれからが本番だった。






「お久しぶりです、ロドニエル・リルバーン男爵にティムオル騎士団長」

「こちらこそ。世界を救った精霊騎士にしてダンジョン踏破者、タイヨウ・フジヤマ殿」

「…お前らどうした。3人だけなのに気持ち悪い呼び方して」

「そう言うなよティム。たまにはちゃんと呼ばないと、正式な呼び方を忘れそうでさ」


「そういえば一人目がもうすぐなんだよね? そっちの嫁さん達は皆元気なの?」

「マリカは臨月だ。ドロシーとセレナは両方5ヶ月でお腹が目立ち始めたよ」

「ふむ、この先半年で3人生まれるのか。目出度いな」

「お前らはどうなんだよ。ティムは盟主なんだからこういうのは避けて通れないだろ?」

「まだ僕らが戻って1年足らずだからね。カリエス兄さんが禁断の魔道具で魔物を大発生させたおかげで、領内を安定させるのに手一杯なんだ。はっきり言ってそれどころじゃないよ」

「俺も騎士団の巡回や現地視察でここへ戻ったのは1ヶ月ぶりだ。領内の治安維持体制はようやく目処がついた所だ」

「どうしても手が足りないなら言えよ?」

「もうタイヨウに手を借りるような事にはならないよ」

「うむ、その節は世話になった」


「あ! タイヨウさん来てたんですか。また話聞かせて欲しいんですけど!」

「あ、ああウォレスさん。どうも」

「ウォレスティン兄さん、ほどほどにね」

「タイヨウさん、この間聞いたサンド湖での戦いをですね、もう少し詳しく教えて欲しいんです。ファナロスの奴がどうにもイメージが沸かなくて良い挿絵が描けないと言いましてね。私がタイヨウさんのインタビューに基づいて書いた文章では臨場感が足りないと! 我が弟ながら全くなんて言い草でしょうね!」

「わ、分かりました。そういえば前に決まらないと嘆いていた本のタイトルは決まったんですか?」

「国が編纂中の『新精霊騎士伝説』は固い内容になりますから。こっちは私のセンスに従って勢い重視で決めました!こんなのは如何でしょうかね、タイヨウさん!」


精霊騎士の相対性異世界ハーレム理論 fin

最後まで読んで頂きありがとう御座いました。

この後冒頭にプロローグ・エピローグを追加します。

あとがきについては活動報告で詳しく書く予定です。

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