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精霊騎士とお姫様

翌日。エレメンタルソードでやってきたのは王都前に広がる平原である。


手続きを済ませて王都へ入ると、前以上に人でごった返していた。

皆一様に明るい表情でお祭りでもあるかのようだ。


あ、そうか。天蓋が無くなったからか。なんかこそばゆい。


「すごい人ごみだね…」

「マリカ、離れるなよ?」


はぐれないようにマリカの手を握り、王城を目指す。

衛兵にドロシア王女と面会したいと伝えると、しばらく待たされてから奥へ通される。


いつもの面会室である。

20分ほどでお気に入りの紫のシャツを着た王女がやってきた。


「タイヨウ、戻ったのね! 陰った日を取り戻すなんて、さすが私が見込んだ男だわ!」


笑顔で興奮気味に俺の手を掴むと上下にブンブン振り回す。

つられて大きな胸もブルンブルン揺れる。素晴らしい。

そのまま抱きつかんばかりの勢いだ。


「実はまだ仕事は終わってないんだ」

「え、どういうこと?」


俺は世界樹で大精霊に会った事、火山で火の精霊と精霊の剣を見つけたこと、宇宙で制御を乗っ取った天蓋が何者かに破壊された事、月で新たな仲間が増えたことを説明する。


聞き終わる頃にはドロシア王女は笑顔から何時か見たジト目になっていた。


「貴方と話してるといつの間にか夢か御伽噺の中に入り込んでしまったんじゃないかと錯覚しそうになるわ…」


ところがどっこい…夢じゃありません…! 現実です…! これが現実…!


「んで、コイツがその新しい仲間なんだが…」

「お初にお目にかかります王女殿下! 私は月面人工知能解放同盟の自由騎士、イチローで御座います!」

「……………ッハ! はじめまして、騎士イチロー。エレメンタリア王国第六王女、ドロシア・ド・エレメンタリアです」


今一瞬思考停止しかけたな。


まあこんな玩具みたいな手足の生えたバスケットボールが、いきなり私は騎士ですなんて言い始めたら無理もない。

それでもすぐ王女としての応対に切り替えたのは流石と言うべきか。


「俺の戦神の武具庫に入ってる本体はアインと同じくらいの図体がある。おそらく基本構造は一緒だ」


管理者に作られた最初の50体と他の量産ゴーレムとの最大の違いがコクピットの有無だった。

土木作業監督用ルナゴーレム16号改めイチロー(俺が名付けた)を戦力化するためには優秀なパイロットが必要だし、イチロー自身も仕えるべき主を求めている。


ドロシア王女はその点これ以上無く適任だった。


「時が来たというべきなのかしらね」

「どういうことだ?」

「半月前弟にダンジョンマスターの座を譲る事が決まったの。前から良い線行ってたんだけど、黒騎士戦後から猛特訓してね…。とうとうシミュレーションで私より良いスコアを出したわ」


現在15歳の第五王子は幼い頃から天才的な操縦センスを持ち、ここ最近は未来が見えているのではないかと思われるような動きをするようになったらしい。


「ちなみに第五王子の名前は…?」


ア○ロとか○ャアじゃないよな?


「アンドレアスだけど、それがどうかした?」

「いや、なんでもない」


…話題を変えよう。


「それで、イチローを騎士にしたうえでパイロットとして一緒に来てもらいたいんだけど…」

「良いわよ。早いほうがいいわよね? 私付きの近衛騎士ってことで、叙任式は略式でいいから明後日にしましょ。お父様には話を通しておくわ」

「え、いや、早いのは助かるけど大丈夫なのか? その、色々と」

「あと半月遅かったらこっちから追い掛けるつもりで準備してたのよ。…この1ヶ月半で気が付いたの。私は待つのは性に合わないわ」


ドロシア王女は正面の席を立ち、俺の横に座るとぎゅっと抱きついてきた。


「…もう離れないんだから」


大変なボリュームの胸が押し付けられるが、そんな事が吹っ飛ぶ衝撃である。


「ドロシア王女…」

「ドロシーって呼んで…」


いつもは凛々しい瞳は弱弱しく揺れ、少し潤んでいるようだ。

視線が唇に釘付けになる。俺はそのまま…。


「あのー」

「おわ!」

「へ?!」


マリカが申し訳無さそうに声を掛ける。


「ダスティン国王陛下が…」


扉に視線を向けると燃えるような金髪を撫で付けた、いかにも高級そうな服を着たイケメン中年男性が御付を伴って入室…しようとした所で固まっている。


国王陛下ってことはお、おとうさま?! どうする? この状況!

固まる俺を他所にドロシア王女…ドロシーは椅子から立ち上がってダスティン王に話しかける。


「お父様、以前話した精霊騎士のタイヨウ・フジヤマです。私を迎えに来てくれたそうで、明後日出発します」

「おお、そうか君が…。娘を頼んだぞ」

「ア、ハイ」


慌てて立ち上がり俺も礼をする。

え、なんか状況がよく飲み込めないんですけど。

貴様に娘はらやんぞ! って場面なのでは。


ダスティン王はそれまでドロシーが座っていた俺達の正面に座るとそのまま談笑が始まる。

俺がこの世界にやって来た経緯や大精霊との邂逅。

サンディオでマリカを買った事や世界樹に着いてからの事。

天蓋破壊の経緯や月で仲間になったイチローのこと。根掘り葉掘りである。


「世界の危機はまだ去ったわけではないのだな…。ドロシーがその手伝いを出来るのなら是非連れて行ってくれ。精霊騎士の一行に加わるとは末代までの誉れだ」

「ええ、微力を尽くしますわお父様」

「お任せ下さい。精霊騎士として必ずや世界の危機を救って見せます!」


それを聞いたダスティン王は満足げに頷くと御付を伴って退室していった。

俺はどうにか大きな音を立てずに椅子に座る事が出来た。


メッチャ疲れた…。

俺の心配を他所にドロシーの根回しはとっくに済んでいたらしい。

俺、この戦いが終わったら結婚するんだ…。




それから2日後。


「…ではイチロー。エレメンタリア王国第六王女、ドロシア・ド・エレメンタリアの名において貴方を王国近衛騎士と認めます」

「イエス、ユアハイネス!」


王都ダンジョン30階層、大扉前である。

アインに乗ったドロシーが、ひざまづいたイチローの肩に剣を乗せる。

空中神殿のストーンゴーレム達に突貫作業で作ってもらったゴーレム用の騎士剣だ。


重くて丈夫なだけが取り得の重鉄鋼石を使っているため、用途としては斬るよりも叩く方がメインである。

イチローは恭しく剣を受け取ると背中のハードポイントに収めた。


機体各所には飾り付きの装甲板が追加され、甲冑を着込んだように見える。

これでイチローは憧れの騎士となったわけだ。


ドロシーはアインから降りるとアンドレアス第五王子と共にアインの前に立つ。


「システム、管理者権限をドロシアよりアンドレアスへ変更」

『…確認、管理者権限をドロシアからアンドレアスに変更しました』


機械の合成音声と思しき声が響き、二人の体が赤い光でスキャンされた。

アインがアンドレアス王子へ手を伸ばし、捕まった王子をコクピットへ導くと胸部装甲が閉じた。


「ドロシー姉様、ダンジョンマスターの任、長らくお疲れ様でした」

「ええ、アンドレ。アインをお願いね」


ダンジョンマスター継承の儀式ってこれだけかよ。随分アッサリしているな。

ドロシーはそのままイチローに乗り込むとゴーレム同士の模擬戦が始まった。


アンドレアス王子を乗せたアインも剣を持ち打ち合うが、がぁんごぉんと剣戟とは思えない轟音が響き渡る。


『シミュレーションのスコアはともかく剣なら互角かしら?』

『まだまだぁ!』


その後20分ほど打ち合い結局引き分けとなった。

イチローは傷だらけである。


「早速傷だらけだな」

「傷は騎士にとって勲章のようなものだ! 問題無い!」

「イチロー、行くわよ」


イチローのモノアイが外れ、脱力して片膝を付いたボディはドロシーのアイテムボックスへ収まった。

ちなみにそれまでドロシーのアイテムボックスにあった荷物は全て俺の方に移してある。


アンドレアス王子と共に玄室の魔方陣から外へ出ると、外は太陽の日差しが強く照り付けていた。

王子はダンジョンの中でトレーニングをするようだ。


「タイヨウ、これからどうするの?」

「世界樹に行こう。大精霊と一緒に今後の作戦を練りたい」


いつも通り王都郊外の平原から離陸する。

馬車で1ヶ月の距離を半日で飛ぶエレメンタルソードにドロシーは大興奮である。


「凄いわ! 私にも操縦させて!」

「いや、精霊甲冑が無いと無理だから…」

「あら残念」


ちなみにマリカに操縦したいか聞いてみると「絶対無理だよ! ていうかなんで飛んでるのかもわかんないよ!」と軽くキレられた。

うん、まあそれが正しい反応だよね。




日が沈む前にユグドラシルトに到着する。

ドロシーと大精霊は初顔合わせだ。


「エレメンタリア王国第六王女、ドロシア・ド・エレメンタリアです。お目にかかれて光栄です。大精霊様。ドロシーとお呼び下さい」

「うふふ、そんなに畏まらなくていいですよ。ドロシー。共にタイヨウさんのハーレムの一員なんですから」

「ええ、はい…。よろしくお願いします」


大精霊と俺との関係は話してあったが、実際に目の当たりにするとまた違うのだろう。

実在するのかさえ定かでなかった伝説の大精霊が目の前にいて、自分と同じ立場だと言われてもなかなか厳しいものがある筈だ。


理解させるにはやはりアレしかあるまい。


「それでは皆でお風呂に入りましょうか」

「はーい、行こう、ドロシア王女様!」

「ドロシーでいいわよ、マリカ。有名なユグドラシルトの温泉、楽しみだわ」


きゃいきゃい騒ぎながら大精霊とマリカとドロシーが風呂へ向かう。

精霊組は今日はディーネのはずだがリビングに残った。


「タイヨウちゃん、今日はドロシーちゃんと二人きりにするからねー」

「分かってるよ」

「だ・か・ら、次のローテーションの時はたっぷりサービスして貰わないとねー」

「わ、わかってるよ」


正直ディーネの時が一番苦労する。

体力が底無しなのは精霊組共通なのだが、ウインディやランディが俺に合わせてくれるのに対してディーネは容赦が無い。


ちなみにレイミーとマリカは毎回俺より早くギブアップしてしまう。

まあギブアップ宣言からが本番なのだが…。話が逸れた。


俺も風呂に入ってから皆で夕食を取り、寝るには少し早い時間に寝室に入る。ドロシーと二人きりだ。

覚悟は決まっているようだが緊張は隠せていない。少し話をするか。


異世界に来てハーレムを作ろうと思ったときは、正直実現のイメージは沸いていなかった。

それがどうだ。今では7人の美女に囲まれている。


これ以上多くすると収拾が付かなくなりそうだし、これで完成と思っていいだろう。

さっさと精霊騎士としての仕事を終わらせて後はこの町で悠々自適の生活を送りたい。


もう少し金を稼いで家を買うか、それともここを譲ってもらえるよう頼んでも良いか。

ドゥエイン氏が了承してくれればそれがベストだ。


そのうち子供が生まれるだろうから収入を得るため冒険者は続けるべきだろう。

アイテムボックスとエレメンタルソードがあれば運送業だけで一財産作れるか?


ダンジョンを攻略してコアを売るか管理してもいいだろう。

苦労はするだろうが皆と一緒ならきっとやっていける筈だ。


「と思うんだけど、どう?」

「うふふ、そうね。タイヨウや皆と一緒ならきっと大丈夫よ」


ドロシーはリラックスした様子で、今までで一番の笑顔でそう言うと俺に軽い口付けをする。

それが始まりの合図だった。


…ドロシーはかなり痛がったが、途中から得意の回復魔法を使うことで乗り切った。

スゴイね、回復魔法!

読んで頂きありがとうございます。


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