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強敵

俺が得た情報を頭の中で咀嚼しているとマリカが声を上げた。


「あの、私が村を出た後街道に着くまで導いてくださったのは、大精霊様ですか?」

「ええ、そうです。貴方にはタイヨウさんに出会って貰わなくてはなりませんでしたから。村長にはマリカは精霊騎士と出会う運命だから追っ手を出さないようお告げを下しました」


どうやらマリカが危険な街道上で無事保護されたのは偶然では無かったようだ。

普通の精霊の巫女は各村で軟禁状態のはずだから、精霊騎士と引き合わせるためには自ら脱走するような跳ねっ返りが必要だったということか。


「ここに着くのは俺だけじゃ駄目だったってことか?」

「精霊の巫女であれば誰でも良かったのですけど、どの村でも今は軟禁状態ですからね。マリカさんが脱走して保護され、サンディオの奴隷商館へ向かう事が分かってからタイヨウさんを最寄の神殿へ召還したんです。空中神殿だったのはちょっと予想外でしたけど」


俺が最初の街で奴隷商館に行くことは想定済みですかそうですか。でも欲しいじゃん奴隷!

なんというか、掌の上で転がされてる感じがして凄く悔しい。なんとかして仕返ししたい。となれば…。


「あー、いいよ。分かった。とりあえず風呂だ。背中流してくれ。その胸に付いてる立派なスポンジでよォー。フハハハハ!」

俺が満面のゲスい笑みを浮かべるとマリカは小さく「うわぁ…」と声を上げる。


「良いですよ」

「良いのかよ!」

「私もハーレムの一員なのでしょう? こういう事は初めてですけど、新参ですから気合を入れてサービスしないといけませんね」


俺のセクハラ全開下ネタが通用しないだと…。伊達に長生きしてないってことか?

負けてたまるか! 何時だって俺は勝ち続けて来たじゃないか。

こんな所で躓いていられるかよ! 男として!




「良いお湯でしたね。これから毎日入りたいくらいです」


風呂上り。冷たいレモン水を飲みながら大精霊はご満悦といった表情である。

そうですか。それは良かったですね。いやよくない。


…結論から言うと俺は勝利を収める事が出来なかった。

単純に相手の攻撃力が高過ぎる。調整不足のクソゲーである。


俺もマリカや精霊組相手にそれなりに鍛えてきたつもりだったが、まだ甘かったようだ。

最初は勝手が分からずぎこちなかった大精霊だったが、すぐにコツを掴んだのか反撃に転じてきた。


それからはもう一方的な展開だ。

胸部装甲を兼ねた強力無比な兵器に対しほとんど成す術も無かった。


あっという間に3本先取されてしまい俺の負けである。

次は…次こそは負けない!


「タイヨウ様、まだ明るいうちから何やってるの…」

「マリカ…俺頑張るから。次は負けないから。今日は休むけど明日特訓に付き合ってくれ」

「んもう…」


マリカは顔を赤らめながら俺の背中をバシッと叩いてくる。

呆れつつも拒否しないあたり優しいな。何か甘い物を買ってやろうではないか。




そんなこんなで3日後の朝。

大精霊の「そろそろ大丈夫です」という一言をきっかけに全員で世界樹へ向かう。


内部に大精霊とマリカが入り、俺はエレメンタルソードに乗り込んだ。

精霊甲冑にディーネ、ホムンクルスにウインディ、エレメンタルソードにレイミーという割り振りだ。


まずレイミーの力で一気に大気圏を離脱し、母艦と天蓋の両方に世界樹の種を届ける。

大精霊とマリカが地上から魔力放出を行い、種を発芽させれば作戦成功だ。


もっとも上がどうなっているかは不明なため、いきなりクローキングした敵の目の前という事も有りえる。

出たとこ勝負だが止むを得まい。


「マリカ、聞こえるか」

「ちゃんと聞こえるよ、タイヨウ様」


作戦に際して通信の確保は必須条件だったが、世界樹の機能によって解決している。感度は良好だ。


『では作戦開始です。タイヨウさん、世界をお願いします』

「あいよ。それじゃレイミー、カウントダウン頼む」

「ふっふっふ、腕が鳴るね! それじゃ行くぜ、5、4、3、2、1…ゴー!!」


ドンっと背中がシートに押し付けられる。

機体は水平から上昇へ転じ、ほとんど真上を向いた。


高度計の数字がどんどん増えて行き、空の色が青から群青へ、やがて黒になった。

やがて唐突に全ての音が無くなり、機体が水平に戻る。


目の前に広がるのは黒と青の世界だった。

嗚呼、なんて光景だ。


「ハァ、ハァ、高度300キロ…。ニーチャンごめん、ちょっと休ませて…」

「レイミーお疲れ。ウインディ、代わってくれ」


ホムンクルスに入っていたウインディとレイミーが入れ替わる。


「周辺をスキャン中…。母艦の姿は見えないな」

「とりあえず適当にアクティブデコイ出しておくわねー」

「先に天蓋に向かうか」


宇宙に来て改めて天蓋を見ると、その大きさは現実離れしている。

どうやら小さな六角形の板が何十と集まって巨大な六角形を形作っているようだ。


「ハイパードライブで接近しよう。ウインディ、頼む」

「では行くぞ。3、2、1、スタート」


慣性制御があるためGは感じないが、視界内でテニスボール大だった天蓋が一瞬で目の前に迫った。

中心には軌道コントロール用だろうかドーム状の建造物が見えた。あれがターゲットだ。


意外と言うべきか、敵の気配どころか防衛機構さえ無いようだ。

ここまで来れるわけが無いと高を括っているのか、単に余裕が無いのかはわからないが、仕事がしやすいのは助かる。


キャノピーを開けると世界樹の種をアイテムボックスから取り出し、建造物の最上部へ固定する。


「設置したぞ」

「少し離れて下さい。こちらから魔力を照射して発芽させます。さあ、マリカ」

「よし、行くよタイヨウ様!」


再びキャノピーを閉めて離れると、おそらく世界樹があるであろう地点から種に向かって青い光が走った。

光は少しずつ勢いを増し、それにあわせて種に変化が起きる。

芽が出たかと思うと凄まじい勢いで根を張り始め、あっという間に制御施設を覆い尽くす。


小枝のようだった幹はすぐ太くなり、やがて宇宙に全く似つかわしくない灰色がかった大木が目の前に現れた。

大きさは地上にある世界樹本体の4分の1ほどだろうか。


「データリンク確立を確認…。制御施設のデータバンクへ侵入…。ファイアウォール無力化完了…。パスコード入手完了…。緊急自爆装置解除…。全システム掌握完了。マリカ、もう大丈夫です」

「あー、疲れたよ…」

「おいおい、これで終わりか?」


数ヶ月に渡って全人類を苦しめてきた天蓋はほんの数分で制圧されてしまった。

正直拍子抜けである。


「そうは言いますけど、現状大気圏を離脱できるのはタイヨウさん達くらいですし。加えて世界樹を使って強力な魔力照射が出来るのは精霊の巫女だけ。世界樹の分体を利用して敵のシステムを乗っ取る事が出来るのは大精霊である私くらいです。我々で対処できない事態が起きた場合はこの星は終わるという意味ですから、これくらいは当然でしょう」


俺達は今正に神が力を行使した現場に居合わせたという事か。

俺自身が当事者としてその一端を担っているためイマイチ凄いと思えない。


まあこれで仕事は半分終わったようなものだ。

残りの半分もこれくらいすんなり行くといいのだが…。


「これからどうする?」

「ちょっと休憩させて欲しいな…」

「マリカが休んでいる間、月の裏側を偵察して下さい。母艦か敵の基地を探して下さい」


人使いの荒い大精霊である。


ハイパードライブで月に接近し、音消しと姿隠しによるクローキング状態で周回軌道に入る。

だがいきなり見慣れない物体が視界に飛び込んできた。


「おいおい、なんだあれ」


月の裏側の中心部と思われる場所には恐ろしく高い塔のような物体。

地表では人型の物体が無数に動き回り、何か作業をしている。


遠くからだと寸法が分かりにくいが、ズームしてみると本物の人間ではなくゴーレムのようだ。

何かを作っているのか?


やがて彼らが群がっている物の全体像が見え、正体が分かった。

黒みがかった六角形の物体。ゴーレム達は月の裏側でせっせと天蓋を作っていた。


「工場は無かったわけだ。強いて言えばゴーレムが存在している所全てが工場になり得る」

「困りましたね。工場であれば設備を破壊すればそれで良かったんですが、この無数に居るゴーレムを全て潰していくとなるとどれほどの時間がかかるのか…」


ゴーレムは働き蟻のごとく月の裏側全体に散在し、巣のような中枢も無いようだ。


数体ずつ集まって一つの天蓋を作っており、作りかけと思われるものは数え切れない。

おそらくまとまった数が出来上がったら軌道エレベーターと思われる塔から上に持ち上げ、更にそこから天蓋本体がある場所まで運んで増設するのだろう。


制御施設はともかく、こいつらをどうにかしないと数ヶ月で新しい天蓋が空に浮かぶことになりそうだ。


「とりあえず軌道エレベーターを潰すか?」

「待てタイヨウ、…何か居るぞ」


ウインディの警告から数秒後、中継ステーションと思われる場所から巨大な物体が姿を現した。

真っ白なくじらのようなシルエット。

後ろから小さく炎を吐き、ゆっくりと泳ぐように滑り出てくる。

まさか。


「あれが、母艦か?」

「周囲に他の艦影無し。おそらくそうだ」


待ちわびたぜ、ようやくラスボスのお出ましだ。

読んで頂きありがとうございます。


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