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始まりは2000年前

マリカとドゥエイン氏もおそるおそるといった様子で俺の後ろからタブレットを覗き込んでいる。


『何から話しましょうか』

「俺が呼ばれた理由からかな」

『私が精霊騎士の召還を試みた瞬間、術式が無数に存在する平行世界から死んだばかりの資格を持つ魂を引き寄せたんです』

「資格?」

『黄金の魂を持っている事です。具体的には善良かつ不滅であること…。魂の器となる肉体は私が作りました』


不滅云々はともかく前の世界の俺はやっぱり死んでいたようだ。

なんというか、改めて死にましたと言われると妙な気分だ。

今俺は間違いなく生きているし、記憶もある。


『勿論報酬は用意しますよ。世界の危機を救って貰うんですから。有形無形問わず私に出来る事ならなんでもいいですよ』


ん? 今なんでもするって言ったよね?


「ほぉー、なら俺のハーレムに加わって貰おうか!」

『良いですよ』

「良いんかい!!」

『私が作った魂の器の寿命は普通の人間と大きく変わりません。100年くらい構いませんよ』


タブレットを通してくすくすと笑い声が聞こえた。

おのれ、そういうことか! 道理であっさり返事をしたわけだ。


「タイヨウ様…」


マリカが俺を哀れむような視線で見ている。

大丈夫だ、俺は負けない。

必ず大精霊をギャフンと言わせてやる。性的に。


「まあいい。それで、太陽を隠してる連中について分かっている事は?」

『彼らは2000年前に世界を崩壊させたテロリストです。別の星に向かったはずですが、何故か当時の姿のまま戻ってきたようです』


うへぇ、こいつは厄介だな。

戦力の全容は掴めないけど何をしようとしているかは分かった。


2000年前と同じくまた世界を崩壊させるつもりなのだろう。


「ならやる事は決まったな。あいつらを倒して太陽を隠してる日傘を壊すか退かす」

『そうですね。ただ宇宙に居る彼らに対してこちらから出来る事は少ないのが現状です。特に太陽を覆い隠している傘…仮に天蓋と呼びますがこの破壊は容易ではありません。そこで貴方の出番です』

「もう作戦が出来てるのか?」

『ええ。ただ天蓋は大きすぎるので直接的な破壊は難しいと思います。光学観測の結果中心部に制御施設と見られる建造物がありましたので、そこに世界樹の種を届けて欲しいんです。世界樹から魔力を照射して発芽させて、本体とデータリンクを確立すれば制御を乗っ取る事ができますから、あとは何処へなりとも移動させれば良いでしょう』

「目標は天蓋と敵の母艦の二つってことでいいのか?」

『世界樹から狙う目標としてはそうです。ただ天蓋はおそらく月で作ってから運んでいますから、生産設備が月の裏側にあったらここからでは手が出せません』


その時は月まで行って工場を破壊しなきゃならないのか…。


「精霊の剣で月まで行くのはきつそうだな…」

『そうでもないですよ。ハイパードライブを使えば10分かかりませんから』


そりゃあ朗報だ。とりあえず問題解決の目処は立った。


「何時から始める?」

『すぐにでもと言いたい所ですが、世界樹から魔力を放出するための準備に3日ほどかかります』

「分かった。それまでは待ちだな」


これからどうしようかと思った所でポーンという音がした。


『起動が完了しました。今そっちへ行きますね』

「そっちってどういうこと?」


俺の疑問に答える前にタブレットの大精霊という文字が消え、画面が暗くなる。

そして祭壇上方の巨大な根の隙間から誰かがゆっくりと降りて来た。


背中まである銀髪に銀色の瞳。

とんでもない美人だがかなり小柄なようだ。


服はトーガという奴だろうか。

地面へ降り立つと分かるが背はランディよりさらに低い。

にもかかわらずディーネを超えるのではと思える胸部の膨らみがあった。


「受肉する時はこの体なんです。一部がちょっとアンバランスなんですけど作り直すのも大変で」

「私は良いと思う」


思わず即答してしまった。悔しいけど俺の好みのタイプだ。

そこでそれまで沈黙を保ってきたドゥエイン氏が話しかけて来た。


「大精霊様、そしてタイヨウ殿。今目の前で起こった事で君が精霊騎士である事は分かった。太陽が隠れた原因や、君がそれをどうにかしようとしている事も」


随分殊勝な態度になったものだ。

まあ今まで謎だった太陽が隠れた原因と犯人が分かったのだから当然と言えば当然か。

これで正真正銘世界の命運を託される形になってしまったわけだ。


「それで?」

「我々に出来る事は無いか? 必要なものがあれば何でも言ってくれ!」


他の老エルフ達も頷いた。


「じゃあ景色の良い広い内風呂付きの部屋を用意して貰いましょうか。準備が出来るまでそこで英気を養いますよ」

「なんだそんな事か! だったら私の別荘を使うと良い。眺めの良い場所に温泉を引いてあるからきっと気に入るぞ」


町長の別荘とは期待できそうだ。

…風呂を何に使うかは言わない方が良いかな。終わったらちゃんと掃除しておこう。




町長の別荘は中心部から少し離れた場所にある立派な屋敷だった。


権力者の別荘だからある程度は予想していたが、ほとんど宿屋一件分近い広さがある。

俺、マリカ、ホムンクルス、大精霊の4人で使うには明らかに広過ぎだ。


屋敷付きの執事やメイドまで居て至れり尽くせりである。

とりあえず荷物を置くとリビングに集まった。まだまだ大精霊に聞きたいことは沢山ある。


「とりあえず聞きたい事をガンガン聞いていくからな」

「ええ、構いませんよ」


大精霊は優雅に用意された茶を飲みながら余裕の表情だ。

なら最初から核心を突くか。


「世界樹はもともとこの星にあったのか? それとも別の星から来たのか?」

「分かりません。ただ私が世界樹の管理者として目覚めた時、この星はまだ生物の生存に適さない不毛の大地でした」


それだと元々この星にあったのか、他の星から来た誰かが世界樹を植えたのかは分からないな…。

まあいい、次だ。


「精霊騎士はどんな時召還されるんだ?」

「この星が滅亡の危機に陥った時ですね。実は召還は今回が初めてなんです。今まで文明が滅びた事はあっても星が死ぬ程ではありませんでした。ですが太陽が完全に隠れれば最悪世界樹が枯れてこの星は不毛の大地に還ってしまうでしょう」


ちなみに召還には大量の魔力が必要でおいそれと使える物では無いらしい。

1度召還したら最低1000年置かないと世界樹への負担が大きすぎるのだという。


「精霊甲冑や精霊の剣はアンタが作ったのか?」

「いいえ、両方とも2000年前滅んだ魔科学文明の遺産です。武器に関しても放置されていた物を回収しただけです。私は観測や環境調整が主な仕事で、ゼロから何かを生み出すことはほとんど出来ません」


ということは魔科学文明は精霊を軍事利用する所まで行ってたってことかよ…。

とんでもない技術を持っていたようだ。


「そもそも精霊ってなんなんだ?」

「世界を安定させる役目を持った世界樹の精霊…つまり私の代わりに細かい仕事をしてくれています。世界を支える縁の下の力持ちですね。意思を持った魔力の塊と言い換える事も出来ます。人類が誕生した当初は厳しい環境だったので精霊の助けが必要だったんです。魔科学文明では彼らを解析・利用することで様々な事に利用していました。ただ星を壊すほどの兵器が出来てしまったため、一時的に世界中から精霊を引き上げざるを得なくなってしまいましたけどね」


便利な精霊の力をあてにして様々な兵器を作っていたら、ある日突然精霊が居なくなってしまったのか。どれほどの混乱があったのかは想像するしかない。


星を壊すほどの兵器というと、某SF映画のデッドスターみたいなものか?

どのみち当時の人類が持つには早すぎたという事か。


「テロリストの詳しい正体を知ってるか?」

「元々世界樹を御神体として信仰するグループの一派でした。精霊が消えたのは多くの人が世界樹信仰をないがしろにしたからだという持論で、次第に過激な行動を起こすようになっていったようです」


だんだん魔科学文明滅亡の原因に近づいてきたか。


「テロリストはどうやって世界を滅亡させたんだ?」

「彼らが魔科学文明滅亡の引き金を引いたわけではありません。せいぜい背中を押した程度です。直接の原因は科学分野の過剰な発展による環境破壊です。当時は自動であらゆる有機物をエネルギーに転換するシステムが稼動していましたので、全ての動植物が資源化していました。当然大地も海も荒れ果てましたけど、崩れかけたバランスは精霊を利用することで維持可能と見込んでいたのでしょう。しかし私が精霊を引き上げたため計画は破綻し、地上は人が住める環境では無くなってしまいました」


自業自得と言えなくも無いけど微妙な所だ。

大精霊は文明が滅亡すると知ってなお精霊を引き上げてしまった。


それでも星が壊れるよりマシだと判断したのか。

…まあ今文句を言ってもどうしようも無い。


だがそんな環境になったのに今でも人類は生存している。

何故かと思ったが俺は王都での騒動を思い出した。


「地上を追われた人たちはダンジョンに逃げ込んだのか」

「その通りです。ダンジョンは世界樹から大気中へ放出された魔力を大地から吸い上げ、再び世界樹へ還すためのシステムでした。世界樹がある限りダンジョンも機能し続けますから、世界樹によって再び地上の環境が回復するまでダンジョンの中で過ごす事は可能だったわけです」


そして環境が回復した後でダンジョンから出た人々が今の王国を作り上げたと…。

これで大体聞きたいことは聞いたか。

読んで頂きありがとうございます。

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