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大精霊

「戦闘準備だ。ランディはマリカへ、レイミーはホムンクルスへ。ウインディはエレメンタルソード、ディーネは俺だ」


世界樹の根元へ強引にエレメンタルソードを横付けし、マリカとホムンクルスを降ろす。

世界樹の中へ入る回廊で激しい戦闘が行われているようだ。


敵は黒騎士あたりだろうが、マリカとホムンクルスならやりようはある。

俺はすぐ高度を上げ降下艇に対処する。


3隻は世界樹の入り口上空を塞ぐように旋回していた。

接近すると3隻が揃ってクローアームから光弾を連射してきた。

だがウインディが宿ったエレメンタルソードは風の力で光弾を逸らし、爆風を遥か後ろへ置き去りにする。


俺は降下艇の下腹に背面飛行で接近し、クローアームを一つ一つもぎ取っていく。

最初は連携しているかのように見えていたが、俺がディーネにデコイを作らせて3隻の間を縫うように駆けると、味方への流れ弾も考えず光弾を乱射し始めた。


試しに1隻を盾にするように動くと流石に撃つのを控えたが、クローアームをわきわきさせるばかりで手の出しようが無いようだ。

そのまま密着したまま光弾を数発撃つと、1隻が観念したのか高度を上げ始めた。離脱する気か。


まあここに墜落されても困るし、逃げるならそれで構わないだろう。

もう2隻のクローアームも全てもぎ取ると、下で動きがあった。


腹に響く衝撃が連続で起きたかと思うと、マリカの魔力が枯渇しかけている。

まさか黒騎士が全部自爆したのか?


その考えを裏付けるように2隻の降下艇は高度を上げて離脱を試みる。

しばらく変な動きをしないか監視していたが、やがて後部から轟音と共に火炎を吹くと雲の間に消えていった。


どうやらまた空へ逃げたようだ。




俺はエレメンタルソードの高度を下げて世界樹の入り口前に降下する。

縦横5メートル程の筈だった入り口は爆発の影響か倍近い大きさになっていた。


奥へ進むと通路の地面や壁はでこぼこで、激しい戦闘があった事を窺わせる。


行き着いた先は縦横100メートル、高さ30メートルはあろうかという大空間だった。

入り口付近にはクレーターが複数あり、奥に行くほど数は少なくなっていく。


空間の最奥には巨大な祭壇があり、多くのエルフの騎士や冒険者がいた。

マリカとレイミーも無事なようだ。

一番奥の祭壇を防衛していたのか?


「マリカ、無事か!」

「な、なんとかね。いきなり黒騎士達が自爆したから焦ったよ。タイヨウ様が外で何かしたんでしょ?」

「降下艇は3隻とも追い払った。黒騎士の回収を諦めたんで全員自爆したんだろうな」


エルフの騎士や冒険者とマリカ達で黒騎士を挟撃する形になったものの、奥へ奥へと追いやられてしまい一時はこの空間で乱戦に近い形になったらしい。


黒騎士の目的が祭壇にあると気付いてからはなんとか防御を固めて耐えていたのだという。


「ニーチャンがあと5分遅かったら危なかったかもな! アッハッハ!」

『間に合って良かったです、タイヨウ殿』


ホムンクルスに入ったレイミーを、ランディを宿らせたマリカがサポートする事で何とか戦線を支えていたらしい。

上では押していたが、下ではカツカツだったようだ。


状況確認を終えた俺達に、エルフの騎士の隊長と思しき人物が話しかけて来た。


「冒険者の諸君よ、助力に感謝する。恩人に対し申し訳無いのだが直ちに外へ出て欲しい。現在世界樹の中には誰も立ち入らせるなとの命令なのだ」


俺達は言われるまま外に出る。冒険者は俺達を含めて30名ほどだろうか。

今日は後始末があるため、明日にでも個別に騎士団の詰所を尋ねて欲しいと言われた。

他の冒険者同様その場を離れようとしたが、俺だけ呼び止められた。


「竜に乗って楔形の化け物を追い払っていたというのは君か? にわかには信じ難いが…」

「タイヨウ・フジヤマといいます。多分俺ですね」

「多分というのは?」

「乗っていたのは竜じゃないんです。証拠は今すぐ見せられますが何しろデカイので」

「すまんがこのまま来てくれ。詰所の裏にある練兵場で見せて欲しい」


モリスと名乗った騎士団長は疲労を感じさせない足取りでどんどん進んでいく。

俺とマリカとクルスで後を着いて行くと、20分ほどで騎士団の詰所に着いた。

そのまま裏手の練兵場に連れて行かれる。


「ここならいいだろう、さあ出してくれ」

「相当デカイんで気をつけて下さい。いきますよ」


俺が戦神の武具庫からエレメンタルソードを出すと、周囲に居た騎士から悲鳴に似た声が上がった。

まあ驚くわな。


だがモリス団長は少し目を見開いただけで割と平然としている。

他の騎士達とは年季が違うようだ。


「な、なんだねこれは。石か鉄でできた竜のようではあるが…」

「5日ほど前に世界樹に来た時、精霊騎士であることを証明するためには火山にあるという伝説の精霊の剣が必要だと言われましてね。で、実際火山で見つけて来たのがコレです」

「精霊の剣?! これがそうだというのか!」


機体名がエレメンタルソードだし他に目ぼしい物も無かったしな。


「剣じゃないと言われればその通りですけどね。アッハッハ」

「しかも君は精霊騎士だというのか? …これは上の判断を仰がねばならんな」


エルフの上のお方とか面倒臭そうだけどけどしゃーないか。


「ちなみに大精霊様には世界樹に来いとしか言われてないんで、これからどうすればいいのか自分でも分かりません。とりあえず祭壇あたりを調べさせて欲しいですね」

「分かった、伝えておこう。とりあえず数日町に居てくれ。宿は何処だ?」

「宿木亭です。ゆっくりでいいですよ。しばらく温泉を楽しんでますから」


俺達は詰所を出て宿木亭へ向かう。

その晩は普通の3人部屋に泊まった。大浴場にも入っておきたかったしな。

こちらは泊まりでない客もそれなりにいて盛況だった。


大浴場と銘打っているだけあってかなりの広さがあり、足を伸ばしてゆったりと温泉を堪能する事が出来た。

内湯付きの部屋の風呂は3人入れば一杯になってしまう広さだったし、ようやく温泉に来れたという実感が沸いて来た。


まあそれでもロマンのために明日は内湯付きの部屋にするけどな!




2日後の朝。俺とマリカは世界樹へ向かっている。

昨日の昼に召喚状が届き、今日の朝9時に世界樹に来て欲しいとのことだった。


改めて世界樹を間近に見ると、そもそも質感は木というより石や金属に近いようだ。

遠くからだと常に薄い霧のような物で覆われているため確認できなかった。


地面から真っ直ぐ上に伸び、中ごろから少しずつ膨らんで頂上で一気にボリュームが増す。

入り口は世界樹本体ではなくありふれた岩石で出来ており、世界樹の根に当たる部分がそれを覆っていた。


衛兵は俺達の姿を確認すると中へ案内する。

通路はある程度均されていたが、まだどこか焦げ臭い。


しばらく進むと奥に祭壇があるドーム状の大空間に出た。

騎士達に囲まれて高そうな服を着た老エルフが10人ほど並んでいる。


あれがモリス団長が言っていたお偉方のようだ。

その中から一人が進み出て俺に話しかけた。


「この町の町長で、エルフ氏族会議議長のドゥエインだ。君は自分が精霊騎士であると主張しているそうだが、間違い無いか?」

「はい、その通りです。モリス団長に証拠もお見せした筈ですが」

「精霊の剣の事か。あれはそもそも本物の精霊の剣の姿を誰も知らんので無効だ」


言われて見ればそうである。じゃあどうしようか。


「では証明する手段が無いですね。自分としては世界樹の中を調べさせて貰えればそれでいいのですが」

「…少しなら構わん。本物の精霊騎士なら大精霊様の声を聞く事が出来るそうだが、可能か?」

「それはなんとも。こちらに呼び出された時は世界樹を目指せとしか言われませんでしたので」

「とりあえず大祭壇で祈りを捧げてみなさい。何か起こるかも知れん」


言われた通り祈りを捧げてみるが何も起こらない。

だが俺は祭壇に置いてある物が気になった。

この形はもしや…。


「あの祭壇の黒い板ってなんですか?」

「あれは代々伝わる黒石版だ。由来はよくわかっていないが大精霊様が授けた物だと言われておる」

「ちょっと手にとっていいですか?」

「触るだけだぞ。すぐに戻せ」


ドゥエイン氏が持って来たのは縦20センチ、横10センチほどのタブレット端末くらいの板。

俺が手を触れた瞬間光が宿り、大精霊という文字が浮かんだ。


『タイヨウさんタブレットを手に入れたんですね。私、大精霊です。そのまま喋りかけてくれれば大丈夫ですよ。これは前の世界で言う電話みたいなものですので』

「えーと、わかりました」

「な! 大精霊様と交信できる魔道具だと!?」


ドゥエイン氏は驚愕の表情を見せる。

俺はとりあえず話を進めるとしよう。


「言われた通り世界樹まで来ましたけど、これからどうすればいいんですか?」

『まずはこのタブレットを使って世界樹を起動して下さい。これは正確には樹じゃなくてテラフォーミングマシンなんです。戦いには向きませんけど、宇宙にいる彼らに対抗するには精霊の剣だけでは不足でしょうから』


さらっと言ってるけどとんでもない事実が明らかになったぞ。

世界樹がテラフォーミングマシンでしたとかさすがに予想の斜め上過ぎる…。


ドゥエイン氏を始めとするエルフの方々は唖然としている。

俺はタブレットを操作してメニューを呼び出す。

と言っても今操作できるのは起動ボタンだけのようだ。


「じゃあ起動しますよ」


俺が画面内の起動ボタンをフリック入力すると僅かに世界樹が震えた。

画面内では文字列が慌しく流れ、各部のチェックが行われているようだ。

タブレットから大精霊の声が響く。


『さて、起動完了まで少しかかります。それまでお話しましょうか』

「ええ、コッチも聞きたいことが山ほどありますからね」


長くなりそうだし、俺はその場にどっかりと腰を下ろした。

読んで頂きありがとうございます。

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