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精霊の剣

第三章開始です。


「ようやく着いたか…」

「ようやく着いたね…」


目の前には巨大な世界樹と町を囲む壁。そして立派な街門が見える。

王都を出発して1ヶ月。俺達は世界樹の町、ユグドラシルトへ到着した。


「長かったな…」

「長かったね…」


波乱に満ちた道程だった。

セオフィラスさんの他に荷主を2人抱え、一行は馬車7台と護衛30人に膨れ上がっていた。


どの商人も護衛の確保に苦慮しており、予定をずらしてでも仲間と一塊で移動しなくては道中の安全を確保できなくなっている。

魔物の出現頻度は更に増え、少なくても日に3回。多ければ5回以上を数えた。


一番多かった日は8回だったか?

森狼の群れに丸一日追跡され、食事を取る暇さえろくに無かった。


それでもウチはまだ恵まれていた方だろう。

野営の際はランディの石壁で馬車の周囲を囲んで安全を確保できたし、ウインディの気配察知で魔物の動きをいち早くキャッチできた。

ディーネのおかげで水は使い放題である。


他の護衛からは感謝され、セオフィラスさんからは是非専属の護衛になって欲しいと懇願された。

勿論丁重に断わらざるを得なかったが。


途中で3度町に立ち寄り護衛の交代と休息を取ったが、どの町も騎士団は魔物の対応で精一杯。

冒険者は隊商の護衛に取られギルドは人手不足に陥っている。


この状況が長く続けばいずれ何処かで破綻すると、誰もが薄々感じていた。

そして現状をどうにかできそうなのは、どうやら俺だけらしい。


重いなー。重過ぎる。こんな面倒事はさっさと済ませてしまうに限る。


セオフィラスさんから護衛の報酬を受け取り、別れを惜しむ間も無く俺は歩き出す。

とにかくさっさと世界樹へ行こう。


街門を抜け、世界樹までまっすぐ伸びる大通りを歩く。

世界樹を囲むユグドラシルトの町は世界最大のエルフの居住地であり、住人のほとんどがエルフだ。


町並みとしては緑が多いものの、建築物は王都とそれほど変わり無い。

壁の中に多くの人を住まわせるためには、どうしても同じような構造にならざるを得ないらしい。


最大の特徴は大都市と言って良い規模にも関わらず管理ダンジョンを抱えていないという点だろう。

他のほとんどの大都市が管理ダンジョンを抱えている事を考えると、成り立ちの違いは明らかだ。


言い伝えによると町の原型を作ったエルフは空からやってきたらしい。本当かよ…。

まあ今この町に住む人々にとってはどうでも良い事だ。




世界樹の中は空洞になっており自由に入れるという話だったのだが、中へ続く道は衛兵にガッチリ固められている。

どうも太陽が陰ってから何度も漆黒の鎧を着た不審者が目撃されるようになり、警戒のため封鎖中らしい。


やむを得ず俺は自分が精霊騎士である事を明かす事にした。


「私は大精霊様によって異世界から召還された精霊騎士です。この子は精霊の巫女です。世界樹へ向かうように言われて2ヶ月も旅を続けて参りました。どうか通して下さい」

「あーはいはい。分かったからあっちへ行ってくれ。仕事の邪魔だ」


あれ、全然相手にされない…。これは予想外だ。

どうも精霊騎士を名乗る偽物が月に一人か二人は現れるそうで、同じ手合いと思われているようだ。


「えーと、どうすれば信じてもらえますか?」

「言い伝えによればここから見える火山に精霊の剣があるそうだから、それを持ってくれば信じるだろうよ。火トカゲの巣だから気をつけてな。ちなみに前に来た奴は山のように大きな火竜を倒したけど剣は落としたとか言ってたぞ。アッハッハッハ」


周囲の衛兵も揃って笑い始めた。俺はともかくマリカの事も信じないとは、正直拍子抜けだ。

だがこれはチャンスかもしれない。


言い伝えが本当なら精霊の剣とやらが手に入り、火の精霊を仲間に出来る可能性がある。

王都方面から来ると巨大な世界樹の陰に隠れて分からなかったが、ここから徒歩で3日ほどの場所に火山があるらしい。

今日は宿を取って明日を準備にあて、明後日の朝出発するとしよう。


セオフィラスさんにオススメとして教えられた宿へ着くと、懐かしい温泉特有の臭いがする。


「宿木亭へようこそ。3人部屋は一晩銀貨6枚。朝食と夕食はそれぞれ大銅貨5枚だよ」

「2泊と朝夕3人分お願いします。温泉があるんですよね?」

「ああ、自慢の大浴場さ。ちなみに大銀貨3枚で内湯付きの部屋もあるがどうする?」

「…内湯付きでお願いします」


皆で入れる事を考えれば5倍出す価値はある。多分10倍でも出しただろう。

心の中でセオフィラスさんに礼を言っておく。


「タイヨウ様、なんだか凄いオーラが出てるよ」

『多分ろくでも無い理由だ』

『あらあら、今日一日でローテーション回しちゃう気なのかなー?』

『英雄色を好むと言います。タイヨウ殿らしいですね』


食事は美味しいし温泉も色んな意味で最高だった。

ちょっと風呂場で張り切り過ぎてのぼせる寸前だったが…。

落ち着いたらずっとここで暮らしたいくらいだ。




翌日も十分に英気を養い、俺達は意気揚々と火山への道を進む。

とはいえ火山へ向かう道はろくに整備されておらず、当然騎士団も哨戒していない。

魔物の出現頻度は輪を掛けて多くなった。


火山のふもとまで行くと木や草はほとんど生えておらず、かろうじて山腹へ続く道のような物が分かるといった程度。

独立峰のため風が強く、不安定な火山岩の地面は足を滑らせやすい。


もっとも俺達の場合はランディが地ならしをしてくれるため快適そのものである。

殺風景でやや歯ごたえのあるハイキングコースといった風情だ。

もっとも普通のハイキングコースには火を吹くトカゲは出ないだろうが。


そこかしこに体長1メートルほどの赤いトカゲがおり、山道を10分進めば一回は火炎の吐息を浴びせてくる。


ある時はランディの岩鎧で。ある時はウインディの風で。ある時はディーネの水で。

炎を防ぎ歩を進めていく。何故か火を吹くだけで近寄って来ないため、倒さずスルーしていく事にした。


中腹まで進むと洞窟があり、日も傾いて来たため中で夜を明かす。

入り口の警備は精霊組任せである。

こういう時睡眠が不要な精霊の存在は有難い。




翌日。山頂火口に到達したが火竜の姿は見えない。

火口の縁から100メートルほど下った辺りでボコボコと赤い溶岩が熱を放つのみだ。


火口の横穴に台座に刺さった剣があるかと思ったがそういう訳でも無いようだ。

さてどうしたものか。

精霊の剣はとりあえず置いておき、火の精霊を探すか。


マリカ達を火口の縁に待たせ、精霊甲冑にランディを宿らせて火口へ降りていく。

溶岩に到達したが火の精霊の気配は無い。


「火の精霊さーん! 精霊騎士が来ましたよー!!」

『タイヨウ殿、この先に空間があります』


溶岩まで降りた俺達の真横に空間が? ということは…。


「溶岩の中を潜るのか…」

『距離的には20メートルほどです。数分で到着できます』


ランディがそう言うと溶岩に浮いていた鎧がずぶずぶと沈み始めた。


『基本は水泳と変わりません。潜ったら真っ直ぐ進んでください』

「流石に暑いな…」


当然前は見えないのでランディのナビで進んでいく。

呼吸は問題無いが甲冑の中はサウナ状態だ。汗が滲む。


『もうすぐ手が壁に付きます。…はい、ここから上がって下さい』

「ぐおー、暑い…」


結局着いた時には汗だくになっていた。こりゃ死ぬとすれば脱水症状が原因だな。


溶岩から上がった先は縦横3メートルほどの狭い通路で、ゆるやかに下りつつ数百メートルほど先へ続いていた。

終着点は50メートル四方ほどの部屋だ。上からはうっすらと日の光が差し込んでいる。


そこに鎮座するのは大きく翼を広げた竜のようなシルエット。

だが頭部にあたる場所には透明なガラスのような物で覆われた2つの座席があった。

コクピットのようだ。


さらにその後ろ、機体中央にはこれまた透明なカバーで覆われた銃座があり、一人乗り込めるように見える。

まさかの3人乗りである。


「この形はまるで戦闘機…。もしかしてこれが精霊の剣なのか?」

『へへーん、正解だぜ!』


この声、まさか!


「火の精霊か?!」

『当たりだよ、精霊騎士のニーチャン!』


ボッという音と共に戦闘機…精霊の剣に火が入った。


『こいつはあたしが見つけたんだけど、上が塞がってて飛び立てないんだ。アンタ土の精霊を連れてるだろ? 上の岩を退けてくれよ』


俺は言われるがまま壁を登り、ランディの力を使っていくつかある岩を地盤にめりこませていく。

やがて岩が全て埋まりきった時、ぽっかり空いた穴は直径30メートルほどになっていた。

これで飛び立てるだろう。


「よーし、良いぞ!」

『乗りなニーチャン! とりあえず外に出よう』


天井から下へ降りるとキャノピーが開いており、俺は2つある座席のうち前に座る。

…しかし計器やスイッチの類が何も無い。

とりあえず座席の手摺部分を掴むと、甲冑のバイザー内にデータが投影表示された。そういうことか。


「行けそうか?」

『その前にあたしに名前を付けてよ! カッコイイのがいいな』

「えーと、じゃあレイミーで」

『レイミーか!なかなか良いじゃん! よろしくな、ニーチャン』

「…ちなみに俺の名前はタイヨウだ」

『分かったよ、タイヨウのニーチャン』


まあいいか。好きに呼んでください。


どのような力か機体が真上に上がっていく。

やがて天井を抜け、空へ出た。そのまま高度を上げていく。

ここはどうやら山頂火口から少し横にあった小さな第二火口の底のようだ。


轟音を聞きつけたか、山頂火口の縁からマリカがこちらを見ていた。

あそこならぎりぎり着陸できるか?


「レイミー、あそこまで頼む」

『よーし、行くぜ!』


ゆっくりと近づき、狭い平地へなんとか着陸する。


「タイヨウ様! 何それ?!」

「多分これが精霊の剣だ。火の精霊と一緒に見つけた」


バイザーに投影表示された文字列の中にエレメンタルソードという単語がある。

精霊が宿れる事といい、精霊甲冑とリンクしている事といい、間違い無いだろう。


『レイミーだ。よろしくな、精霊の巫女!』

「あ、私はマリカだよ。よろしくね、レイミー」

「マリカ、後ろに乗れ。ホムンクルスは一旦仕舞おう」


このまま世界樹まで戻れば良いのかな。流石にこれなら信じてくれるだろう。

読んで頂きありがとうございます。

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