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王都の守護者

サンド湖の時と同様音消しと姿隠しが掛かっているようだが、ドロシア王女には見えているようだ。


「な、なによあれ。まさか黒騎士はあれに乗ってここまで来たの?」

「王女殿下、俺はサンド湖であいつと会った事があります。ここで戦うのは危険です。なので…」


俺はまた作戦を提案する。


「貴方は本当に無茶が好きなようね…。とはいえ迷ってる時間は無いわ。行くわよ」

「タイヨウ様、頑張って!」

「ああ。マリカ、クルス、黒騎士は頼んだぞ」


ウインディが精霊甲冑に宿り、俺はアインの腕に体を掴まれる。

そのままピッチャーのように振りかぶると、ドロシア王女は楔形の化け物へ狙いを定めた。


「行くわよ。せーの、ええい!!」


ぶおんっという風を切る音と共に、俺の体は空中に投げ出された。

そのまま高度を下げつつある楔形の化け物に一直線に向かっていく。


「ウインディ、奴の上に乗れ!」

『行くぞ!』


下からの強い風に押され、俺の体は楔形の化け物の上を取った。

そのまま着地に成功する。よし、上手く行った。


俺は最後尾を目指して船体の上を走る。

浮遊している仕組みは分からないが、ブースターノズルを破壊すればサンド湖で見せたような「打ち上げ」は難しくなるはずだ。


中の人が俺の存在に気が付いたのか、振り落とそうと船体が傾き始める。


「そうはいくかよ!」


俺は船体に直接触れず、風を蹴って水平を保ちつつ駆ける。

だが最後尾まであと10メートルほどという所で前方に2本のクローアームが現れ、俺を掴もうとする。


「くそ!」

『大丈夫だ、真ん中に突っ込め!』

「その言葉信じるぞ!」


俺はウインディの言葉に従い、2本のクローアームの真ん中に突っ込んだ。

次の瞬間。ボンッ!っと背中を強烈に押される感覚と共に、体が一瞬でクローアームの隙間をすり抜けた。

少し遅れて後ろでがちんっとはさみの閉じる音が響く。


『ふふん、だから言ったろ?』

「馬鹿、落ちる落ちる!!」


俺は武具庫からバトルピックを取り出して船体に突き立てようとするが、表面を削るだけで勢いは止まらない。

すると今度は上から強烈な風で船体に押し付けられた。

甲冑ががりがりと擦れる音を立て、勢いは端っこまで来てようやく収まった。


クローアームもここまでは届かないようだ。

俺は潰れた蛙のようになりながら考える。


「さて、ブースターを壊すか」

『何か良い考えがあるのか?』

「魔石爆弾ならいけるかもしれない」


というかいつまでも持って居たく無いし。

持ち主の親玉に返すべきだな。


俺は船体の最後尾に十字型に五つ並んだ噴射口を確認する。


「それじゃ、返すぜ!」


アイテムボックスから魔石爆弾を取り出し、一番上の噴射口に放り込む。

よし、あとは脱出だ。


「うお、なんか高くないか?!」

『大丈夫だ。それに高い所から落ちるのは慣れてるだろ?』


何時の間に高度を上げたのか、もうすぐ雲の中に入りそうだ。

すると爆弾が爆発したか、船体に轟音と衝撃が走り急激に高度が落ち始めた。

ええい、しょうがない!


「うおおおおおおお!!」


俺は空へ身を躍らせる。

だが落下速度はかなりゆっくりだ。


『だから大丈夫だと言ったろ?』

ありがとうウインディ、愛してる。


『…その言葉覚えておけ』

あら、前とは反応が違う。

駄目男に弱い風の精霊め、どういう風の吹き回しだ?


やがて俺は王都の南にある草原にふわりと着地する。

楔形の宇宙船も1キロほど先に盛大に煙を吐きながら墜落し、ずずんと地が揺れた。


…あれを調べれば俺達の敵が何者かわかるかもしれないな。

だがまずはマリカ達と合流しないといけない。

俺は街門へ向かおうと踵を返す。

だが。


「え、なんだぁ?!」


丁度楔形の宇宙船が墜落した辺りだろうか。

空から一筋の青い光が降り注いだかと思うと、残骸と思しき物体が次々空へ昇っていく。

やられた。これでまた証拠は残らない。

やがて残骸を全て引き上げたのか、青い光は収まった。


しばし呆然とするが、気を取り直して王都へ走り出す。

パスを通じて分かる限り、マリカは無事らしい。

戦闘も終わったようだし、黒騎士は始末できたようだ。


今回分かったのはあの楔形の宇宙船が降下艇のようなもので、宇宙にはあの青いトラクタービームを放った母艦がいるという事くらいか。

やがて街門が近づいて来ると、マリカがこちらに走りながら手を振っているのが見える。

あーあー、そんなに急いだら…。

あ、やっぱりこけた。俺は大きく手を振り返しながらマリカを起こしてやろうと走る足を早めた。




ダンジョンから出た2人の黒騎士は騎士団と冒険者を寄せ付けなかったが、マリカとクルスのバックアタックを受けるとあっさり自爆したそうだ。


俺は楔形の化け物が空へ逃げたとだけ言っておく。大体合ってるからこの場はいいだろう。

ドロシア王女はアインに乗ったまま再び終息宣言を出し、今後どれだけ黒騎士が来ようとも恐れるに足らずと言い切った。

俺たちが王都を離れても是非そうあって欲しいものだ。


ドロシア王女は今回の件でまた報酬をくれるという。

明日の午後迎えの馬車を寄越すと言い残し、後始末に取りかかった。


「そうそう、アインは私の一番のお気に入りという意味なの」

「単純にアイアンゴーレムの略称じゃなかったんですね」

「ええ、そうよ。…ねえタイヨウ、貴方私のアインにならない?」


おや、何時の間にフラグが立っていたのか。


「ええと、世界樹での仕事が終わってからでないとなんとも…」

「うふふ、断らなかったわね? 今はそれで十分よ。じゃあまた明日!」


ドロシア王女は天使のような笑みを浮かべるとアインを伴ってダンジョンへ入って行く。

色々な意味でその場ではそれ以上何も言えない。


俺は物言わぬアインから、責めるような視線を感じていた。

言葉は無くともマスターはガーディアンにとても愛されているようだ。


広場に集まった群衆の中に見知った顔を見つけた。セオフィラスさんだ。


「3級に上がったんだって? 今の状況では本当に頼もしい限りだ。二人で日に大銀貨6枚払うから、他に行かないでくれよ?」

「大丈夫ですって。それより手が足りないなら俺の知り合いの傭兵も連れて行きませんか? 日に大銀貨2枚でいいそうですよ。無口ですけど腕は保障します」

「おお、願ったり叶ったりだ。是非頼むよ」


これで日に大銀貨8枚。30日で金貨24枚分である。

人数が一人増えたとはいえ、まさかサンディオ・王都間の倍以上になるとは。

王都を離れるまであと5日。少し贅沢をしてもいいかもしれないな。


午後。ウインディが風呂に入りたいと言い出したため、マリカと共に公衆浴場へ来ている。

ディーネとランディも入りたいそうだが、ホムンクルスが一体しか無いためローテーションを組んで別の日にするそうだ。


「あぁー、いいお湯だ」

湯船に浸かると疲れが溶けて行くかのようだ。


俺はしばしホムンクルスについて判明した事を考える。

ホムンクルスに精霊が宿ると人口筋肉が稼動するため、新陳代謝のようなものがあるらしい。

魔力があれば食事は必要無いが、取っては駄目と言う訳では無いのだという。


何故ダンジョン最奥の隠し部屋にあったのかは謎のままだが、立地からして普通の人間に知られたくない物だったのは確かだ。

或いは精霊騎士でないと開けられない仕組みだったのかもしれないというのは考え過ぎか?

精霊が宿ることで真価を発揮するという点では精霊甲冑や精霊の巫女と同じだしな。


…まあある物は遠慮無く使わせてもらおう。

実際ホムンクルス無しで今回の騒動を切り抜けるのは、不可能ではないにせよ相当きつかった筈だ。


また今後世界樹へ向かう途中に黒騎士や降下艇に遭遇するような事があれば、今の戦力でも心許ない。

それだけ空を飛べるというのは大きなアドバンテージだ。


ゲームなどでは冒険の後半に空を飛ぶ乗り物を手に入れるのは定番だが、精霊騎士用の乗り物なんてあるだろうか?

騎士の乗り物と言えば馬だけど、空を飛ぶとなるとどうも格好が着かない気がするな…。


いかん、のぼせそうだ。そろそろ上がろう。

外に出るとマリカとウインディが俺を待っていた。


「タイヨウ様遅かったね」

「考え事してたらのぼせそうになったぜ。ウインディ、初めて風呂に入った感想は?」

「さっぱりしたのは確かだが、他の客が湯に浸かりながらあぁーとかうぁーとか言っていた理由は分からないままだ。もう何回か試す必要があるな」


あの声は思わず出ちゃう物だから、出してる方だって分かってないと思うんだけどな。

まあ本人のやりたいようにさせるか。


夕食中もウインディは一つ一つ食材を確認するかのように食べていく。

肉系が好きなようだ。酒は全く酔わないという。それは残念。


赤鷲亭に戻るとベッドで寝てみたいと言うので3人部屋を取った。

ホムンクルスに宿っていると、実体の無い精霊では味わえない事ばかりで新鮮なのだという。


「それじゃ今日はフルコースだったわけか。満足したか?」

「いや、まだやってない事が残っている」

「というと?」

「パスを繋ぐための儀式だ。お前達一度で良いと言ったのに何度もやっているだろ? 実際に体験すればその理由がわかるかもしれない」

「な!?」

「ふぇ?!」


俺とマリカは顔を見合わせる。

どうして何度もするのかと言われると…なかなか答えにくいものがある。


「あー、うん。それは確かにやってみないと分からないと思うけど、やってみても分からないかもしれない」

「ならやらないという選択肢は無いな。手順はお前達のを何度も見てるから知っている。タイヨウ、準備しろ」

「あわわわ、他人がする所なんて初めて見るよぉ…」


ウインディは魔石灯の明かりを搾って服を脱ぎ始めた。

マリカは興味津々といった様子で部屋の隅へ移動する。

こういう時唯一の男性である俺の意見は無視される運命にあるようだ。


『うふふ、明日は私だからねー』

『明後日は私です、タイヨウ殿』


どうやら精霊組の中では既に順番が決まっているらしい。


…結果から言うとホムンクルスの体は本物と寸分違わない構造だった。

ウインディ曰く複数回検証を重ねる事で得られる結果が違ってくる可能性があるため、今後も継続していく必要があるそうだ。


なおウインディとの儀式が終わった後マリカから控えめながら提案があったため、俺はすぐさま2回目の儀式の準備に取りかかった。

読んで頂きありがとうございます。

第二章は次話で最後になる予定です。

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