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リベンジマッチ

翌日の朝。

鎧を着たホムンクルスを「知り合いの無口な傭兵のクルス」として紹介し、王女と合流する。


新設部隊の訓練は第一層の最初の部屋からスタートする予定だ。


重甲冑と大盾で固めた騎士を宮廷魔道士がサポートする事で生存性を高め、地上部隊と挟撃できる体勢になるまでひたすら防御しつつ後退。

ドロシア王女が30層に到達するまで時間を稼ぎ、玄室手前で「奥の手」と共に撃破するという算段だ。


訓練を指揮することになる10名ほどの上級騎士と共にダンジョンを降り、経路を確認していく。

今日は30層大扉の前で野営する予定だ。


「ドロシア王女、奥の手って具体的には何なんですか?」

俺の質問にドロシア王女は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「うふふ、それは着いてからのお楽しみね。絶対に驚くわよ」


幾度か休憩を挟み、やがて30層の大扉前に到着する。

時刻はおそらく夕方あたりだろう。


明日の朝に「奥の手」の作動確認を済ませ、地上へ戻る予定だ。

不寝番は必要無い。ある意味ここが王都の中で一番安全な場所だった。


だが夜半過ぎ、ドロシア王女の声で全員が起こされる。


「総員起床! 集合して!!」

「ドロシア王女、どうしたんですか?」

「ダンジョン入り口付近で戦闘が起きているわ。おそらく奴らよ」


奴らと言われて思いつくのは…。


「黒騎士ですか! 数は?!」

「…今のところ12ね。2人が足止め役で10人が一塊でこちらに移動している。このペースなら4時間ほどでここまで来るわね」


前回よりかなり早い。ルートはもう分かっているということか。


「どうします?」

「奥の手を使うわ。でなければ10人もの黒騎士を止めるのはまず不可能よ」


ドロシア王女はそう言うと大扉を開く。通路の奥にはアイアンゴーレムが居る。

上級騎士たちは知っていたようだが、俺は奥の手の中身を知って心底驚いた。


というか王女が羨ましくなってしまった。

こんなの異世界じゃなきゃまず不可能な事じゃないか!


とりあえず食事を取り、俺は王女へある提案を行った。

奥の手を最大限に活かし、10人の黒騎士を倒す確率を上げる方法だ。


王女と上級騎士達は俺の提案に呆れ、俺とマリカがそれを実行出来る事に驚き、実際に奥の手を活かせるか検証し、ゴーサインが出た。


「タイヨウ。貴方達はなんというか、ユニークね。私たちじゃまずそんな発想思い付かないし、実行も出来ないわ」


ドロシア王女の意見に上級騎士達も揃って賛同する。


「ハッハッハ、褒めるのは黒騎士を全員始末してからにして下さい」

「褒めてないんだけど…。でもこれで希望が見えてきたわ」


それまで重く立ち込めていた悲壮感は消え、期待と熱気が一行を支配していた。

仕込みを終え、全ての準備が整った所で閉じていた大扉が開く。


手に手に大斧を持った10人の黒騎士たちが入って来た。


俺とホムンクルスと上級騎士達は扉から50メートルほど離れたアイアンゴーレムの後ろに隠れている。

扉が閉じ、黒騎士たちが移動を開始しようとした瞬間。













彼らの真上に本物のアイアンゴーレムが降って来た。




ずん、という音と共に一番後方に居た2人の黒騎士が着地の際踏み潰され、ぴくりとも動かなくなった。


黒騎士達は慌てて振り返るが、さらに2人がアイアンゴーレムに掴まれ、奈落へ放り投げられる。

ばしゃりという音と共に俺が隠れていたアイアンゴーレムがただの水になり、上級騎士たちが突撃する。


「ウインディはホムンクルスへ、ディーネはマリカへ、ランディは俺だ」


入れ替えが終わり、俺とウインディは上級騎士たちの後を追う。

挟まれた6人の黒騎士は前衛と後衛3人ずつに分かれたようだ。


大扉の上の足場から、マリカが背中を見せた前衛の黒騎士にウォーターショットを放つ。

体勢を崩すと上級騎士たちが殺到し、数人がかりで引き倒して滅多打ちにする。


俺とウインディも前衛の1人ずつと対峙した。

俺は黒騎士と大斧同士で打ち合い、鍔競りになった所でランディのパワーを活かし切って奈落へ突き落とす。


ウインディは器用に盾で黒騎士の大斧を捌き、まずメイスで左手を砕いた。

次いで大斧の柄を蹴りで跳ね上げると右手も潰し、大斧を奪って両足を削ぐと無力化した。


アイアンゴーレムは意外と機敏な動きで後衛3体の黒騎士を牽制し続け、傷だらけになりながらも前衛壊滅まで時間を稼ぐ。

前衛が壊滅すると挟撃が成功し、後衛の3人は背中にウォーターショットやメイスの一撃を食らい始める。


結局後衛の3人は大斧を捨て、赤い魔石爆弾を取り出した。

無力化された前衛を巻き込んで自爆する気か!


一人は上級騎士たちが滅多打ちにした方へ。

もう一人はアイアンゴーレムに潰された方へ。

最後の一人はウインディが無力化した方へ。


それぞれアメフト選手の如く駆け出す。

また証拠を隠滅する気か。そうはいくか!


「クルス、爆弾を奪って俺に寄越せ!」


魔石爆弾は黒騎士達がアイテムボックスから取り出すと徐々に輝きを増し、最高潮になるか地面に叩きつけると爆発すると予想している。


ならば、もう一度アイテムボックスへ収納しなおせばどうなる?

ウインディは駆けて来た黒騎士の前に立ちはだかり、すれ違いざまにメイスを一閃。


ガァンと硬質な音が響き、まだ輝きの薄い魔石は空へと打ち上げられる。

更に一陣の風が吹き魔石爆弾は俺の方へ落ちてきた。

俺は手でキャッチせずそのままアイテムボックスへ収納する。


…サンディオから王都までの道程で分かった事があった。

マリカの菓子や果物がいつまでも腐らない事から、俺のアイテムボックス内では時間が経過しないらしい。


つまり時間経過か衝撃で爆発する魔石爆弾は、俺のアイテムボックス内ではいつまでも爆発しない事になる。

魔石爆弾を奪われた黒騎士は、ウインディが無力化した仲間を抱えると奈落の底へとダイブしていく。


俺は急いでウインディと共に玄室の方へ退避した。

後方では上級騎士たちがアイアンゴーレムの陰に隠れるのが視界に入る。


次の瞬間離れた2箇所で大爆発が起き、通路が僅かに揺れた。

さらに数十秒後、はるか下からずんっと微かな衝撃が伝わってくる。


煙が晴れ、アイアンゴーレムの後ろから上級騎士たちが顔を覗かせる。どうやら無事なようだ。

俺が爆風でボロボロになったアイアンゴーレムに近づくと胸部装甲が開き、中からドロシア王女が顔を出した。


「作戦は成功ね。反応は無くなったわ。ここの黒騎士たちは全滅よ」




ドロシア王女が言っていた奥の手。

それはラストガーディアンであるアイアンゴーレムに、ダンジョンマスターである王女が乗り込んで直接操作するというものだった。


ちなみにダンジョンマスターが搭乗可能という特徴は他のダンジョンのラストガーディアンにも共通しているのだという。


「私がダンジョンマスターになったのはアイアンゴーレム…。アインの操縦が兄妹の中で一番上手かったからよ。王都のダンジョンマスターは代々そうやって決められているわ」


全高10メートルを超える鉄の巨人に乗り込んで操縦するなんて、異世界でしか不可能なロマンだ。

羨ましい…。


それを知った俺はアインの大きさと重量を活かすため、作戦の提案を行った。


大扉の上にランディの土魔法でアインが乗れる足場を作れるかが鍵だったが、ぎりぎりまで時間を掛けて補強することでなんとか実現できた。

アインは王女が操作すれば壁登りが可能なほど精密な動きが可能であり、マリカと共に配置は上手く行った。


あとは入ってきた黒騎士の注意を引くためディーネの水でアインの偽物を作り、扉が閉まったら上の足場から本物のアインが飛び降りて奇襲。

初撃で3人以上を仕留められれば及第点だったが、結果は2人を圧死させ2人を奈落へ落とす事に成功したわけだ。


マリカはアインが居た足場へ留まり、上から魔法で支援。


黒騎士に対して俺、ホムンクルス、上級騎士5人×2グループで抑えられるかは賭けだったが、事前のミーティングで可能な限り有効そうな戦術を提示していたためかどうにかなった。


黒騎士たちはまんまと作戦に嵌ってくれたわけだ。

こちらは1人の損害も出さず10人の黒騎士を撃破できた。大成功と言っていいだろう。


「やりましたね、王女殿下!」

「我々の勝利です!」


上級騎士たちが降りて来た王女へ駆け寄り、勝ち鬨を上げる。


「まだよ。入り口には足止め役が…。え?」


目を閉じてダンジョン入り口の状況を確認していた王女が戸惑いの声を上げる。


「足止め役が外へ出ようとしているわ。逃げる気かしら」


オイオイ、外へ逃げたとしてどうやって王都の外へ出るんだよ。

…いや、前回もそうだがそもそもどうやって警邏中の衛兵に見つからずダンジョンの入り口まで来たんだ?

夜明け前とはいえあんな目立つ格好で歩いていたら気付かれない筈がない。

今回はダンジョンの外にも騎士団がいるはずだし、全て蹴散らして歩いて王都から出るのはいくらなんでも無謀だ。


だが、もしサンド湖で見たアレが来ていたとしたら?


「殿下、我々も行きましょう」

「…そうね。私がアインに乗った状態なら、玄室の魔方陣を使って第一層の最初の部屋まで転移できるわ。急ぎましょう」


ダンジョンマスターがラストガーディアンに搭乗すると、ダンジョンの全機能が制限無く使えるようになるらしい。

所謂エマージェンシーモードか。


俺たちは魔方陣に乗り、第一層に転移した。

第一層の最初の部屋は騎士たちが黒騎士と戦闘を行った直後か、多くの負傷者で溢れていた。


指揮官に事情を聞くと最初は足止めに徹していたものの、つい数分前に外を目指して動き出したのだという。

ミニガンと榴弾で損害を受けたものの、防御に徹したため死者は出ていなかった。


「私たちは黒騎士を追うわ。タイヨウ、マリカ、クルス、行くわよ!」


アインに乗ったドロシア王女と俺たちはダンジョンの外を目指して階段を昇る。

明かりが見えた。もうすぐ外だ。階段を昇り終え、状況を把握する。


2人の黒騎士がミニガンと榴弾で入り口広場にいる騎士団や冒険者を追い払っているのが見える。

そして空には…。


「ハハ、また会ったな」


左のはさみしか無い楔形の化け物がゆっくりと高度を下げようとしていた。

読んで頂きありがとうございます。

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