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今やるべき事

翌朝。ゆっくり朝食を取り9時の鐘の少し前に冒険者ギルドへ到着する。

職員は昨日の騒動の後始末か誰もが忙しそうだ。


受付に居たギルドマスターは俺を見つけると小走りで近づいてきた。

というか昨日の今日で大丈夫なのか。


「ギルドマスター、怪我はいいんですか?」

「回復魔法をしこたま掛けて貰ったうえ一晩寝たんだ。もうなんとも無いわ!」


さすが元とはいえ1級冒険者。体の作りが人間離れしているようだ。

俺とマリカは奥へ通される。


「緊急招集に応じた連中には個別に話をしている。回復魔法で怪我は治っても、まだ起き上がれない連中もいるしな」


傷は治っても失った血は戻らないため、全員が回復するにはもう数日必要だろう。


「で、本題だが…。今日の朝一番でドロシア王女からタイヨウを3級へ、マリカを4級へ推薦する書状が届いた。ウチとしても今回の黒騎士撃破の功績を鑑みて妥当と判断し、昇級を決定した。おめでとう。登録2ヶ月足らずで3級になった奴はそう多くない。自慢していいぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「それと、緊急依頼の成功報酬として二人で金貨8枚。王国から特別報酬として白金貨3枚だ。全部金貨だから38枚あるか確認しろ」


ギルドマスターの後ろに居た職員が金貨の入った革袋を差し出す。

俺は枚数を確認するとアイテムボックスへ放り込んだ。


「はい、確かに」

「渡す物は以上だ。ご苦労様。それで、お前らこれからどうする予定なんだ?」

「5日後には世界樹行きの隊商の護衛に付く予定ですけど、今回の騒動で遅れるかもしれません。それまでは準備と観光ですね」

「ダンジョンはしばらく封鎖だろうから、あとは明日の蚤の市くらいしか無いな。まあ王都を楽しんで行ってくれ」


冒険者ギルドを出て露店で菓子を買い漁るマリカを待つため中央広場でベンチに座る。


手持ちの金はこれで白金貨5枚分を超えた。

世界樹までの護衛を終えたら更に白金貨1枚と金貨2枚ほどが手に入るから、十分な額を稼げたといえる。

もっとも着いた後でどうなるかは全く分かっていないのだが…。


果たしてこれで終わりなのか?

ドロシア王女は今後2級以上の冒険者を10人単位で招聘して防衛に当たらせるそうだが、それでも十分とは言えないかもしれない。


かつて世界が荒廃した時、人々はダンジョンに入って難を逃れたという。


空を見上げると変わらず元気の無い太陽が見えた。

この状況が悪化したり長引けば世界はいずれ荒廃していくだろう。


その時逃げ込むべきダンジョンが失われていたとしたら…。

それこそが敵の狙いか?


人類の存続を危うくする存在だ。悪には違いない。

だが正体は謎のままだ。


漆黒のパワードスーツを身に着け、ミニガンや榴弾砲といった兵器で武装した敵。

サンド湖で見た宇宙船から降下して来たのだろうか?

どの道一筋縄では行かないだろう。


…そういえばホムンクルスは役に立つのか?

ちょっと検証しないといけないな。

俺は満面の笑みで砂糖菓子を抱えて歩いてくるマリカを見ながら午後の予定を修正した。




王都から徒歩1時間ほどの森の中。

マリカにランディを宿らせて魔法を確認している。


石礫は強力だが生成にやや時間がかかるため、水弾ほどの連射は効かないようだ。

他には石壁や泥沼などなかなか実用的なものが揃っており、多くの敵を相手にする際は役に立つだろう。


精霊甲冑に宿ると動きはやや重くなるがパワーと防御力が上がり、溶岩に落ちても平気なため安定感がある。

黒騎士を相手取る場合、まずウインディの機動力で接近し、ディーネの霧と水人形で撹乱。ランディのパワーで止めを刺す格好になりそうだ。


そしてホムンクルスに精霊3人を順番に宿らせてみる。


ウインディは170センチ近くあるモデル体型に、腰まである緑の長髪が美しいクールな軍人タイプ。

ディーネは青髪セミロングで160センチほどの巨乳癒し系お姉さんタイプ。

ランディは茶髪ボブカットでマリカ以上ディーネ以下の背の貧乳童顔委員長タイプ。

なんというか、見事に性格が見た目に表れている。


ホムンクルスの素体は魔力容量はそこそこだが出力ラインが細く、魔法より接近戦の方がメインになりそうだという。

パワーとスピードはなかなかのもので、精霊甲冑を着た俺より少し劣る程度。

俺とホムンクルスが前衛でマリカがサポートに回ればなかなか強力なトリオになりそうだ。


問題があるとすれば戦闘中「中身」が入れ替わる際、顔と体型が変わってしまう事か。

ウインディとランディが入れ替わると装備のサイズが合わなくなるため注意しなくてはならない。

普段着なら少しくらい丈が違っても問題無いが、鎧や兜はそうはいかないだろう。


検証を終えて王都に戻るともう日が沈みかけていた。


公衆浴場で汗を流し、赤鷲亭でホムンクルス用の装備をどうするか全員で協議した結果、とりあえず全身甲冑にメイスと盾で行く事が決まった。

完全に黒騎士相手前提の備えだ。

2体3体と同時に出てきた時のため、やるべきことをやっておくとしよう。




翌朝。甲冑を見に王都で1、2位を争う大きな防具屋へやってきた。

防具専門店「巨人の盾」には王国中から甲冑が集まるのだという。


ダンジョンや遺跡で発掘された物の中には、稀に着用者の体に合わせて自動でサイズを調整してくれるものがあるそうだ。

我々の目当てはそれである。


とはいえ数は少なく、全体から見れば1割も無いだろう。

値段はというと下は白金貨2枚から上は白金貨20枚まで。

財布と相談するならそこまで良い物は買えなさそうだ。


だが一つ一つ見ていると、一番高い物と遜色無いオーラを放ちながら白金貨3枚という物があった。

重厚な黒鉄で出来たバケツ頭の全身甲冑である。


ワケ有り品ですね、わかります。


店員に聞くと素材は良いがとにかく重くて動くのもきついのだという。

鎧を隅々まで見ていくと、気になるものを見つけた。


背面の腰より少し上あたりだろうか。ピンポン玉ほどの大きさのくぼみが4つある。

またしても店員に聞くと用途は不明らしい。

これってまさか…。


俺はラストガーディアンの部屋の奈落の底にあった、隠し部屋で見つけた宝石を思い出す。


「すいません、ちょっと試着していいですか?」

「はいどうぞ! こちらの部屋をお使い下さい」


4畳半ほどの試着スペースに入り、くぼみに例の宝石をはめてみる。

4つ目の宝石がはまると鎧の背面装甲がひとりでに開いた。どうやら当たりのようだ。


試しにウインディが着装してみると、真の機能が開放されているらしい。


「ふむ、装着者から常に魔力を吸い上げて魔術的な障壁を展開するようだ。並みの人間では長く持たないだろうが、ホムンクルスならかなりの時間全力でいけるだろう」


決まりだな。

俺は店員を呼んで会計を済ませる。


このまま着て帰ると言うと驚かれたが、これから武器屋に行くのだ。

いちいち脱ぐのも面倒だし問題は無い。


すぐ近くの武器屋でメイスを見繕うとしよう。

いくつかぶんぶんと振り回し、重くていいからとにかく丈夫な物を選ぶ。

2本で金貨5枚。今はこんなところでいいだろう。


耐久性を重視した金属製の中盾は金貨3枚。

武器も防具も上を見ると本当にきりがない。


財布と一切相談せず買い物ができるようになるのは当分先だな。

まだ白金貨1枚分以上の資金があるが、王都での買い物はこんな所だろう。


宿へ戻ると手紙が2枚届いており、1枚はセオフィラスさんから。

護衛の確保が思うように行かず、別の仲間と合流するため出発が3日ほど遅れるそうだ。


もう1枚はドロシア王女からだった。

明日の昼前には後始末が一段落付くから、午後から黒騎士対策の相談に乗ってほしいそうだ。




翌日。俺は買ったばかりの燕尾服、マリカは白のワンピースで迎えの馬車に乗り王城へ向かっている。

ホムンクルスはアイテムボックスの中だ。


王都は既に黒騎士の襲撃など忘れてしまったかのように平穏を取り戻している。

だが俺は薄氷の上を歩いているような感覚に陥り、やり場の無い焦りを感じていた。


結局の所、世界樹へ行かなければ状況は動かない。

そう自分に言い聞かせるが、表情に出てしまったようだ。


「タイヨウ様、何か焦ってる?」

「ん、ああ…。また黒騎士が来たらマズイよなーって」

「でも一番焦ってるのはドロシア王女様だと思うよ」

「だろうな」


たった2人の黒騎士相手に精強を誇っていた筈の王都騎士団は散々に蹴散らされ、冒険者ギルドへ協力を要請せざるを得なかったのだ。

体勢が整っていない今、黒騎士が一度に10人も来れば王都ダンジョンは確実に陥落するだろう。


黒騎士対策の構築は最優先課題のはずだ。

そのために俺を呼んだのだろうが…。


馬車が王城に入り、更に案内の衛兵に連れられて奥へと入っていく。


10畳ほどの応接室で待たされること20分ほど。

以前見たのと同じ白銀のドレスアーマーを着たドロシア王女が護衛を連れて入室した。

立ち上がろうとする俺たちを制してさっさとソファに腰掛ける。


「ああ、そのままでいいわ。手紙で伝えたとおり、黒騎士を倒した貴方に対策を立てて貰いたいの」

「やつらがまた来るとお考えですか?」

「当然よ。私が敵の指揮官ならできるだけ早くまとまった数を送り込むわ」


敵が何らかの手段で戦闘状況をモニターしていれば、一部の冒険者でなければ黒騎士を抑えられない事はバレている。

王都ダンジョン侵攻を諦めていないのなら、後はいつどれだけの戦力を送り込むかだけだ。

そしてそれは早ければ早いほど良い。


俺は戦いの中で気が付いた事や実際に実行した事を伝える。


遠距離戦は挑まず接近戦に持ち込むこと。霧の魔法で視界を遮り、大盾を斜めに構えてとにかく走る。

複数で囲んだら武器を破壊し、膝や踵などを狙って機動力を奪うこと。

目潰しも有効だろう。

火力の源である両手と背中の筒を潰したら、引き倒してメイスで滅多打ちにするか間接部に鎧通しを打ち込めば良い。

ただし追い込まれると自爆することがあるので十分注意が必要だ。


俺の話を一通り聞き終えた王女は口を開く。


「飛び道具さえどうにかすれば、後は重甲冑相手とそこまで変わらないという事ね。ただし自爆には注意が必要と。…彼らは何だと思う?」

「分かりませんが、倒すべき敵である事だけは確かです」

「ええ、それはそうなんだけど…、まあ今はそれで十分ね。貴方ダンジョンの警備隊に来ない? 今なら十人長待遇よ」

「申し訳ありませんが世界樹へ向かう途中でして。7日後に隊商と共に出発いたします」

「あら残念。なら明日の朝から明後日の夕方まで時間を取れない? ダンジョンの中で黒騎士戦を想定した戦闘訓練の計画を立てたいの」

「分かりました」


新設予定の警備隊は30層までひたすら地形を生かした遅滞戦闘を行うらしい。

地上から入ってきた部隊と挟み撃ちにすれば時間を掛けて少しづつでも損害を与えられる。

その間にドロシア王女が30層まで到達できれば、今回活かせなかった「奥の手」を使えるそうだ。

読んで頂きありがとうございます。

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