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到着

第二章開始です。

サンディオで半月かけてマリカの調整を終えた時点で、俺達はそれぞれ4級と5級に昇格していた。

ギルドマスター曰く、上に行ける実力がある奴はさっさと上がって貰う方針だそうだ。


フェリックスさんに隊商の護衛の仕事を紹介して貰った所、丁度王都行きの護衛を集めていたのがトムさんだった。

俺とマリカの二人で一日大銀貨3枚。食事付き。4級と5級冒険者による護衛報酬としてはおおむね相場通りの額である。

最近は魔物の出現頻度が多く、これから相場が上がるかもしれないらしい。


2頭曳きの馬車3台と護衛12人という大所帯だったが、馬に乗れないのは俺とマリカだけだった。

もっとも登録1ヶ月足らずで4級冒険者に昇格した俺は期待の新人ということで、そこまで居心地は悪く無い。

弓を持ったマリカと共に一番後ろの馬車の後部に陣取り、殿を任された。


道中は大体日に1度か2度は魔物の襲撃を受ける。

俺は槍、マリカはカモフラージュ用の弓でもほぼ瞬殺できる相手だったが、怪我人はそれなりに出ていた。

途中の町で荷物と一緒に負傷した護衛を入れ替え、王都まで無傷だったのは結局俺達だけだった。


そして今、俺達はエレメンタリア王国の王都エレメンティアにいる。


「二人とも長旅お疲れ様。おかげで無事王都まで来れたよ。サンディオに戻ったら紹介してくれたフェリックスに礼を言っておかないとな」

「こちらこそありがとうございました、トムさん。帰路の無事を祈ります」

「トムさんさよーならー!」


俺とマリカはトムさんから金貨9枚を受け取った。

サンディオから王都まで30日に及ぶ護衛の報酬である。


ここから世界樹までは更に1ヶ月の道程だが、護衛の仕事を探しつつ数日王都観光をする予定だ。


この1ヶ月で3度町に寄ったが、ベッドで寝れたのはそれだけである。

今日は噂の公衆浴場で汗を流し、柔らかいベッドでゆっくりと眠りたい。

…パスを繋ぐ儀式が行われるかどうかは協議の結果次第である。もっともマリカが反対派に回った事は一度も無いのだが。


到着は昼過ぎだったため、露店で買い食いをしながらトムさんに勧めされた宿を目指す。

市場は人でごった返しており東京都内の繁華街を思い出したが、それ以外の場所の人口密度はサンディオより少し多い程度だった。


ただ歩いている人たちを見ていると、普通の人間以外にエルフや獣人を多く見かける。

そういえば立派な街門に立っていた衛兵も獣人だったな。


トムさんと別れて歩くこと20分。大通りに面した赤い看板の宿屋が目的地だった。


「赤鷲亭へようこそ。一人部屋なら銀貨4枚。二人部屋は銀貨6枚。朝食と夕食は大銅貨5枚ずつだよ」


うーん、緑花亭と同じレベルと聞いていたが、やはりサンディオと比べると微妙にお高い。

まあ近くの公衆浴場のタダ券が付くそうだからイーブンか?


「二人部屋を3泊と朝食だけ付けて下さい。公衆浴場はもうやってるんですか?」

「あそこは朝9時の鐘からやってるよ。夜6時までやってるけど、日が沈むと混むから早めに行った方が良い」

早めに入ってから夕食にするとしよう。


「すごいんだねー、公衆浴場なんて初めて入ったよ」

「さっぱりしたろ?」

「うん、また入りたいな」


浴場を出て赤鷲亭へ帰る途中、マリカは初めて行った公衆浴場に感心しきりだった。

サウナのような物かと思いきや普通に湯船があり、異世界に来て初めて風呂に入ることが出来た。

王都を離れるまでは毎日入ろう。


適当な店に入って夕食をとり、ゆっくり休むことにする。

…疲れていたが儀式は行った。マリカの肌がホカホカのすべすべだったので仕方無い。




明けて翌朝。9時の鐘までゴロゴロしてから朝食を取る。

赤鷲亭の主人であるドミニクさんが言うには、王都に来たならダンジョンに行けという。


「え、町の中にダンジョンがあるんですか? 危なくないですか?」

「魔物は出ないよ。はるか昔に攻略されて、代々王族がダンジョンマスターになってるんだ」


そもそもの話、王都の下にダンジョンがあるのではなく、ダンジョンの上に王都が出来たと言った方が正しいらしい。


かつて世界が荒廃した時、人々はダンジョンに入り難を逃れた。

当時のダンジョンマスターは内部を街のように作り変え、何万人もの人々を住まわせたそうだ。


やがて長い長い月日を経て世界は再生し、地上へ出た人々が作った町が王都の原型になったのだという。

ダンジョンと言えば宝を餌に冒険者を餌食にするイメージしかなかったが、他の大都市もほぼ同じような成り立ちらしい。


もちろん町から外れた場所で魔物の巣になっているダンジョンも普通に存在し、そちらは俺のイメージ通りの物のようだ。

各地の管理されたダンジョンは非常時にはシェルターとして機能するそうだが、もう何百年も使われた事は無いそうだ。


王都ダンジョンの入り口は町の中心にある王城のすぐ近くにあり、周囲は多くの人で賑わっていた。

第一層の最初の部屋までは一般開放されており、中には土産物屋が立ち並んでいる。

さらに奥へと続く通路は高そうな装備で身を固めた騎士達が油断無く警備しており、不用意に入る事は出来ないようだ。


中はぼんやりと光る苔のような物が生えており、最低限の明かりが確保されている。

店の周囲にはさらに魔石灯があるため、祭りの出店のような雰囲気だ。


マリカは相変わらず甘いものに目がないようで、両手にカラフルな飴と砂糖菓子を持ちご満悦である。

ここ1ヶ月はほとんど口に出来なかったから、それを取り返さんとする勢いだ。


まあ昨日の夜確認した限りでは少し体が引き締まったようだから、王都にいる間は甘やかしてもいいか。

…胸は少しだけ育っていたようだが。マリカ、恐ろしい子!




午後。ゆっくり観光もいいが、南下の算段を整えておこうと思い冒険者ギルドに来ている。

もっとも精強で有名かつ国内最大規模の王都騎士団が実戦訓練がてら周囲の魔物を駆逐しているそうで、討伐依頼はほとんど無い。


代わりに交通の要衝だけあって隊商の護衛依頼が多く、世界樹までの仕事は容易に見つかった。

王都騎士団の哨戒圏外では魔物の動きが活発化しており、普段の倍の護衛が必要なほどらしい。

おかげで条件の良い仕事にありつけた。荷主は壮年のエルフである。


「セオフィラスだ。…ほう、登録1ヶ月足らずで4級冒険者になったうえ、サンディオから王都まで1ヶ月の護衛をこなして来たのか。相場より高めに出して正解だったみたいだな」

「タイヨウ・フジヤマです。こっちは相棒のマリカ。5級冒険者です」

「マリカです! よろしくお願いします」


報酬は二人で日に大銀貨4枚。食事付き。サンディオ・王都間の3割増である。

出発予定は6日後だが、護衛の数が揃わない場合は遅れる可能性もあるという。


セオフィラスさんは俺と細かな部分を詰め終えるとマリカに話しかけた。


「マリカさんはどこの出身だい? どうして冒険者に?」

「ええと、サンディオの向こうのパサラクアという村です。町の暮らしに憧れて冒険者になったんですけど、同じ時期に登録したよしみでタイヨウさんと組んでます」


よしよし、間違えずに言えたな。打ち合わせ通りだ。


「ハッハッハ、一度町での暮らしを味わうと村の生活は退屈だろうな。そういえばパサラクアにいた精霊の巫女が行方不明になったそうだが、何か知っているか?」

「い、いえ、精霊の巫女様はほとんど人前に姿を現さなかったんで、同じ村でも面識は無いんです。丁度私が村を出る直前でしたけど、どうして居なくなったのかは知りません」

「ふむ、そうか。知らないならいい。…よろしくな」

「はい、セオフィラスさん!」


なんとか怪しまれず乗り切ったか。

精霊の巫女は数が少ないから、同族にバレたら最悪保護の名目で引き離されてしまうかもしれない。

今はシラを切り通せば問題無いとは思うが、エルフ族最大の居住地である世界樹まで行ったらさすがに誤魔化しきれるかどうか微妙な所だ。


…その時は俺が精霊騎士であることを明かそう。


「タイヨウ様、どうしたの?」

「いや、なんでもない」


いかんな。難しい顔をしていたらしい。

出発まであと6日。準備をしつつ目一杯観光を楽しむとしよう。




翌日の朝。王城前に通り掛ると何やら騎士団の動きが慌しい。


隊列を組んだ騎士達が王城から次々と出てきて街の中へ散っていく。

ダンジョンの中には馬車が次々と入って行き、土産物屋の店主たちが不安げに中の様子を伺っていた。


俺は昨日マリカが菓子を買っていた露店の店主を見つけ声を掛ける。


「あの、何かあったんですか?」

「どうも夜明け前にダンジョンの奥へ行こうとした馬鹿がいたみたいでね。警備してた騎士たちが制止したらしいんだが、その、止められなかったみたいなんだ」


昨日見た高そうな装備に身を包んだ騎士たちを思い出す。


見えていただけで30人以上いたはずだが、それでも止められなかったってことか?

ただのいたずらじゃなさそうだ。だが何のために?


その時わっと声が上がり、人垣が左右に別れた。

豪華な装備の騎士たちに囲まれて現れたのは、白銀のドレスアーマーに身を包み、人形じみた整った容貌を持つ少女だった。

身長は160センチあるか無いか。ショートボブの金髪にくりっとした碧眼はやや幼い顔立ちに反し凛々しさ感じさせる。


「ドロシア王女殿下だ!」

「ダンジョンマスター! 何があったんですか!」


代々王族がダンジョンマスターを務めるという話だったが、彼女がそうみたいだ。

ドロシア王女は周囲の人々に向けて話し始めた。


「皆落ち着きなさい。ダンジョンの中に賊が入り込んだわ! これより騎士団が討伐へ向かいます。何も心配は要らないわ」


警備の騎士達が侵入者を制止出来なかったのは本当のようだ。

店主たちは王女の言葉に安心して笑顔を見せているが、楽観はできないだろう。

裏を掻いたにせよ、正面から突破したにせよ、侵入者が厄介な力を持っている事は確実だ。


そしてこのダンジョンには魔物が居ない。

つまり最奥にあるというダンジョンコアまで道を阻むものは何も無いということだ。


10階ごとのエルダーガーディアンと、最終階層にはダンジョンコアを守護するラストガーディアンが存在しているようだが、それが撃破されればダンジョンは侵入者の手に落ちてしまう。


それだけに警備には2級冒険者でも容易に突破できない防御力特化の精鋭を配しているという話だったが…。

とはいえ王女と近衛と思しき騎士達が後を追うらしく、俺達の出番は無いようだ。

俺達の出番は無いようだ。(フラグ)


読んで頂きありがとうございます。

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