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ちょっとぬけてる槌使いが戦いへ  作者: CHITA
第一章
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初心者殺し

 ゴブリンといえば、皆さんはどういう風貌を想像するだろうか?

 こげ茶に近い薄暗い緑の体色。

 ごつごつでピンとした耳。

 黒い瞳の周りは濁った白が占めている眼。

 筋肉質な両腕両足だが、腹はでっぷりとしている。

 

 皆さんの想像した姿はほぼ会っている。ほぼである。しかし…

 棍棒ではなく磨き抜かれたような短剣と盾を持ち、

 幾度も戦い傷だらけとなった金属のヘルムと胸当てを身に着けている。

 ましてや、その装備で俊敏に動く様は反則といえよう。


 なぜこんな話の振り方をしたかは薄々分かった方も多いだろう。

 意気揚々と冒険者組合から支給された槌を背負い、草原へ向かった私。

 幾度か歩いた茂みの近くに、その件のゴブリンがいたのである。

 ---はぐれゴブリン、と表示されたモンスターは、遠目からでも私に気づいていたようで、短剣と盾を構え闘志を漲らせ私の行動をじっと見ていた。


 ゲーム開始初期の経験値稼ぎとして出現するゴブリン又はスライムなどといった、倒すのが簡単なお手軽モンスター。

 それがまさか、私が振り下ろした槌を右へ僅かに避け恐怖など皆無といった無表情で、私の腹部へ深々と短剣を突き刺した後、ぐりぐりと捩じってきたときには目が飛び出しそうになった。

 いや、実際に出そうになったと訂正しよう。痛覚設定をいくらか低く設定してあるはずなのだが、一点へと集中されて痛みと熱が発してきたときには目を見開いて絶叫した。

 そして私の視点左上にある赤いバーのHP(体内残存生命量)と青いバーのMP(体内残存魔力量)のうち、私の生命活動に関わる赤いバーがぐんぐんと右端から左端へ縮まっていくのである。


 その時の思考は単純である。死ぬ。その二文字が私の脳内を支配したのである。アニメやマンガで見られた死ぬ間際に様々な思い出が湧き出すでもなく、死にたくないとの一心に精一杯抗う、なんていう熱い展開なんてありはしなかった。

 リアルのように感じられるゲームだからという可能性も考えられるが、その時の私は本当に死の危険を感じたのである。「あぁ…私はここで死ぬんだ。」と、ふいに思ってしまったのもしょうがないのではないか。


 それくらいにリアルであった、と表現してもいいだろう。実際に生きているかのようなゴブリンが私の腹部へ容赦なく短剣を突き刺す。数字で構成されたこの世界、ここの人々、ここのモンスターが前もって設定されて行った行動ではなく、その場で実際に思考し、判断し、行動する。そう、まるで現実の私たちとそう違いないような動きを目の前のモンスターが行ったことで、ゲームと現実が無意識に混ざり合った思っていい。


 私はどうにかこのゴブリンに対して最後に抗った。どうにかしてこの目の前の死神から逃れる為に。私は爪をゴブリンに突き立て、眼前の皮膚を通り越し肉まで私の爪で傷だらけにしてやろうと。だがそんな行動も空しく私の命は灯となり、ふっ、と私が束の間に吹いた吐息によって赤いバーは左端へ消えていった。



 ---そして







 私が最後に見た光景は今だ腹部に突き刺さった短剣と目の下から頬にかけて縦に数本の傷を残した歴戦の戦士を思わせるゴブリンの顔であった。





 




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