目移りしてしまう相棒方
「あい、次ぃー、職業希望用紙と身分証出しなぁ」
受付のおじさんは前の人を案内し終わると、私へと声をかける。
私は手に持っていた用紙をおじさんへ手渡すと、おじさんは幾度か用紙と身分証に視線を落とす。
「冒険者希望・・・。嬢ちゃんは使いたい武器は決まってるか?」
「まだ」
このゲームは沢山の武器が使えるそうで、実際どんな種類があるのか知らない私は使いたい武器がまだ決まっていなかった。それを聞いたおじさんはカウンターから右へ指さして、
「この先を奥まで行くいい。そこに小広場がある。色んな種類の武器を揃えてあるから、沢山試してよく吟味しな。使いたい武器が決まったらその広場にいる者に声をかけな、そうすりゃその後の案内をしてくれる。」
おじさんはそう告げると「次ん奴用紙と身分証出しなぁ」と、半ば投げやりに私の後ろに並ぶ人へ声をかける。何度も同じことを告げているのだろう、声から疲れがにじみ出ているようだった。
私は小さく「ありがと」と告げると、後ろから「おう嬢ちゃんもがんばんな」という返答が返ってくる。投げやりだが私を気にしてくれていたのだと思って、少し胸が暖かくなった。
私は私専用の武器が待っているという小広場まで気持ち軽く歩いて行った。石畳の床をザッザッと音を鳴らしながら歩いていく。私と同じく周囲を歩くプレイヤーも迷いなくこちらに進んでいることから、私たちの向かう場所は同じなのだろう。
いざ、ゆかん。武器が待つ広場へ。
…私は今まで考えていた小広場という意味を考え改めねばなりません。
それは冒険者組合の中にある小広場へ入ることで、ここを訪れたプレイヤー全員がそう考えることでしょう。数百人は易々と入ろうかというほど広く、石造りの壁際には剣、槍、弓、斧、槌…と武器という武器がずらっと並んでいる様は、どこかの闘技場を想起させます。
ましてや、この小広場にはフルプレートの鎧を着たかかしが規則正しく何百体と並んでいるため壮大であり、どこか不気味さを彷彿させるものがありました。
実際通路を抜けてこの小広場に来たプレイヤーは通じて同じ反応をしているのを見ると「やっぱり私だけじゃないんだなぁ」と共感できる部分がありました。
小広場の壁際を中ほどまで移動して、壁際に立てかけられるようにずらっと並んでいる武器を見つめる。
金属のシルバーの鈍い輝きを放つ剣、私の身長より頭二つ分長い槍、しなやかなに曲がった木をぴんっと張った糸が支える弓、薪を切る斧よりも一回りも二回りも大きい斧、ずっしりとした金属を頭にもつ槌、これから共に戦いを切り抜ける相棒であろう武器が何十と壁に立てかけられている。
沢山の武器が並んでいる中で本棚に入れられた辞書ほどの分厚い本なんてものもある、どんな武器になるのだろうか?
ここから私はこれから使っていくであろう武器を選ばなければならない。身体の内側から飛び出すのではないかという胸の高鳴りを抑え、普段なら絶対に目にしない武器の数々を見て回る。沢山の武器を見て回ったが胸の高鳴りが収まる様子を見せない。それもしょうがないだろう、これを見て胸が高鳴らないはずがないのだから。ここに立ち並ぶ武器でモンスターと死闘を繰り返すのだから。どんな恐怖も相棒がいれば乗り切れる、そんな武器を選ぶのだ。
まずはどれから手に取ればいいだろう。わくわくが止まらない。