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ちょっとぬけてる槌使いが戦いへ  作者: CHITA
第一章
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先行きが不安なのはなぜ?

「やぁ、お嬢さん。私は南通り憲兵隊所属であります。身分証を確認しても?おや・・・まだ、身分証をお持ちでないようだ。北通りから来られた方かな?ここ南のほか東通り、西通りを通るには身分証が必要になる。是非とも北通りの門入口にある冒険者組合で作られることをお勧めしますよ。」


 意気揚々と一歩を踏みだしたら大通りの角の方に立っていた憲兵さんの方に止められてしまった。どうやらこの噴水を中心に十字へ伸びている大通りはそれぞれ東通り、西通り、南通り、北通りという名称で通りを分けられているようだ。その大通りをそれぞれ担当している憲兵さんがいるのだろう。通りの端にそれぞれ一人づつ青い濃紺色の軍服を着た憲兵が立っている。


 私は一度憲兵さんに通行を許可されなかった南通りを見て、私は一度拒否されて諦めるような女ではないのですよ、なんて諦めが悪い根性を見せながらさきほどの憲兵さんから離れた場所からもう一度南通りへと入ろうとする。


「やぁお嬢さん。私は南通り憲兵隊所属であります。おや、先ほどのお嬢さんではないか。身分証を作って来られたのですね。では確認いたしますね。ふむ・・・どうやら身分証をお持ちでないようだ。どうされましたか?・・・あぁ!場所が分からなくなってしまったのですね。忘れっぽいお嬢さんだ。宜しかったら私が冒険者組合まで案内して差し上げましょう。」

 

 巌のようながっしりとした憲兵さんは、小さな笑いを漏らした後私の案内をしてくれるという。

見張る立場である憲兵が案内してくれるというのにも驚きですが、彼が背を向けているうちに人混みの中を使って通り抜けようとした私に気づいたのかが不思議でなりません。会話の内容から私がどうやら忘れっぽい子と思われていることには、いささか反論の余地があるでしょう。私はちゃんと覚えていますよ、東通りに行けばよいと……ん?西通りだっけ?


 ついさっきのことを忘れてショックを受けている私は憲兵さんに連れられ北通りの門の近くにある冒険者組合へ向かった。彼は冒険者組合へ向かう道中、あそこの焼き菓子は酸味のあるフルーツを使っていてさっぱりと食べられるとかあそこの飴細工はかわいいものが多いなどとお勧めの屋台を教えてくれる。


 この幅広い大通りの両端にはまるで大きな祭りがあった時のように屋台が隙間なく隣接している。その沢山の屋台ではこの世界(ゲーム世界)の住人も含め沢山の人々で賑わい、笑顔と熱気で溢れていた。そよそよと吹く風ではためく屋台の布はゲームの世界とは思えないように滑らかに動き、現実世界とそう大差ないことにとても驚いた。あの布は触ってみたら現実のように柔らかいのだろうか。


 憲兵さんが言うにはここの北通りは身分証なく誰でも訪れることができるため多くの人々に愛されている大通りなのだと言う。まるで観光地を案内してくれる憲兵さんという印象を受けながら、私はそんな彼の大きな背中の後を付いていく。ここの武器屋は安いわりに質が良いだとか、その隣の防具屋は金属製防具は量が少ないが革製防具はここが多く取り揃えられていて是非ともおすすめだ、と今後冒険に出るだろう私に良いお店を案内してくれる。

 へぇ、とかほぉとか、ボキャブラリーに乏しい反応を返しながら私は憲兵さんが案内してくれるお店をきょろきょろと見て回る。


 大通りの一部の屋台ではほぼ全体を白い布で覆われ、テントと同色の簡素な白い布をまとった男性が木の串にお肉のようなものを刺して売っている。

 別の場所では小さな広場なのだろう、泥で汚れながらもきゃっきゃと笑顔を漏らしながら子供たちが転がりまわって遊んでいた。それを母親たちだろうか、叱っていたり、微笑ましく見ていたり、ハラハラ心配したりと子どもを見守っている。


 ついさっき私の横をすれ違った人は冒険に出ていたのだろうか。銀色の鈍い輝きをもつ鎧を纏い、背中には小さな傷をつけた大剣を背負っている。大剣を背負い髭を蓄えた男性は胸を張って堂々と歩く様はどこか誇らしげだ。その男性の後ろを狼のような黒い毛皮を纏った男性が肘でつつきながら隣の女性をいじっているのを見るとパーティなのかもしれない。


 ここは現実とは違った笑顔が溢れている。生きる死ぬという世界で生活しているからだろうか、ここの人々はまるで死ぬ間際まで楽しんで笑いあっているかのようである。


 「お嬢さん到着だ。ここが冒険者組合。この建物の中に入って受付で身分証を作りたいと言えば身分証を発行してくれる。お嬢さんが冒険にでて南通りを通るに相応しい力量を身に着けたら、私は喜んで南通り案内しよう。ではお嬢さんご武運を。」


 私は憲兵さんのお勧めする場所をきょろきょろと見て回っているうちに冒険者組合に着いたようだ。南通りを通れるほどに強くなるのだ、と言った憲兵さんは私に眩い笑顔を向け、では失礼すると言い残し憲兵隊の青い制服を背に私が最初に出会った位置へ戻っていった。…南通りは通るだけで命の危機に瀕するほどなのか、と複雑な思いで憲兵さんを見送った。

 

 さて、憲兵さんは丁寧に屋台を案内してくれたわけである。しかしだ、案内の半分以上がフルーツの焼き菓子や子供が好きそうなおもちゃの屋台を紹介したのには何か意味があるのだろうか。ましてやたまたま見た屋台の食べ物も買ってくれるあたり私はそんなに食い意地が張っているように見えたのだろうか。 私がそれ(焼き菓子)を口に頬張っているのは、食べ物を無駄にしないためでありそれ(食い意地)を証明しているわけではない。

 私はただ味覚はどこまで再現されているのかを確かめただけである。タレがたっぷりかけられた串焼きも、何かのフルーツを絞ったジュースも、ただちょっと美味しそうだなぁ、食べてみたいなぁって見ていただけに過ぎない。決して憲兵さんをチラッと見たわけではないということを補足としておこう。


 なお、どれも美味しかった。あの串焼きいくらするのか気になるところではあります。



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